豪州のNPO、The Australian Population Research Instituteが豪州における留学生受け入れの状況についての報告書”Overseas students are driving Australia’s Net Overseas Migration tide”を公表した。この報告書では、豪州への入国者の最大シェアを海外からの留学生が占めているという事実を述べたうえで、大学が積極的に留学生を受け入れることとなった背景や、留学生を多数受け入れることで発生している諸問題、さらに今後の留学生政策に向けた提言が説明されている。
豪州への入国者
2017年の豪州の出入国者数の差(入国者-出国者)※は+236,733人であり、入国者が出国者を大きく上回る状況であった。中でも、留学生はその44%を占め、入国者数は出国者数の+104,987人となった。受け入れ留学生の数は年々増加し、2011年と比べると約4倍となっており、豪州への入国者数増加の最も大きな要因となっている。
※この報告書では入国者数をNet Overseas Migration(NOM)で計算している。NOMとは、「期間内(ex:2017年)に豪州内に入国し、その後の16か月のうち12か月以上豪州内に滞在した者の数」から「期間内に豪州から出国し、その後の16か月のうち12か月以上豪州外に滞在した者の数」を引いた数と定義される。この統計には外国人だけでなく豪州国籍の者もカウントされる。
留学生受け入れの背景
2000年代にハワード政権が大学業界からの働きかけを受け、受け入れ留学生の課程修了後の永住権取得を促進した。大学としては国内学生よりも学費の高い留学生を惹きつける狙いがあったとみられている。これを契機に特に職業教育セクターにおける留学生受け入れ数が急増した。これは職業教育セクターへの留学に当たっての語学要件や保有資産の要件が特に低かったことが理由とみられている。
2009年には一度、留学のための要件の厳格化政策が教育界全体にとられたものの、留学産業からの強い抵抗もあり、2011年にこの要件は再び引き下げられ、実質的に要件の設定はそれぞれの教育機関に任されることとなった。加えて、豪州内で高等教育課程を修了した留学生が最低でも2年間滞在を延長することのできる「485ビザ」を豪州政府が発行できることとなった。
留学生受け入れの弊害
留学生の受け入れ数が増加した、さらに言えば留学生受け入れのための要件を緩和したことにより現状以下のような弊害が発生しているという。
➀高等/職業教育の質の低下
→語学要件の設定が各機関に委ねられたことにより、高い授業料収入が見込まれる留学生を多く受け入れるために語学要件を引き下げる機関が出現している。これにより学生の質ひいては教育内容の質の低下が起きている。
➁労働条件の悪化
→語学要件同様に資産要件も自由化されたことにより、十分な資産がなく、豪州内で職を求める留学生が増加した。留学生の多くは特殊な職業スキルを持たないことから単純労働への求職者が急増しており、結果として給料など職場における待遇の低下につながっている。これは国内の求職者にとって大きな問題となっている。
➂2大都市の人口増加
→多くの教育機関はシドニー、メルボルンの2大都市に集中しているため、留学生が増加することにより人口の過密化が問題となっている。
将来に向けた提言
2011年以来の外国人留学生に対する自由政策を転換させるべきである。今後政府がとるべき具体的措置としては主に以下のような政策があげられる。
・各大学の入学生に占める留学生の割合に制限をかけること。
・高等教育を受ける留学生に対し、IELTS7.0以上の英語力を有することを卒業条件に含めること。
・豪州滞在中の学費・生活費を賄うための資金源を有していることを留学に当たっての条件として課すこと。
・485ビザの取得要件を厳格化し、大学で受けた教育と関連したインターンやアルバイトに従事する者のみに限ること。
これらの取組が直ちに達成される可能性は低いが、豪州の教育の名声を落とさないためには必ず成し遂げられなければならない、としている。
この報告書の提言には、卒業時の語学要件をIELTS7.0以上と設定すべきなど、比較的ハードルの高い制限が示されているため、これに対し政策決定者あるいは大学業界がどのような反応を示すか、注目される。
原典:TAPRI(英語)