中国政府は、「生涯学習社会」の実現を目指すなか、様々な形態による継続的な学びを可能にするシステムづくりの一環として資格枠組*の構築を強力に推し進めている。
中国では学校教育における学習歴が、「学歴」として国に認定される「学歴教育」と、それ以外の「非学歴教育」に区別されている。「学歴教育」を通じて取得される「学歴」は、就職や昇進のほか、都市への移住の際にも資格要件として問われるなど、いわゆる学歴偏重の社会的風潮がある。
近年、中国の高等教育が飛躍的に発展した影で、職業教育は長らく軽んじられてきた。その結果、過度の受験戦争や、大学卒業者の就職難と同時に企業の求める人材が不足する求人難が発生するなど、教育はもとより社会のさまざまな分野にひずみが生じてきた。そのため、高等教育機関が輩出する人材と労働市場の求める人材との間のギャップを埋め、中国経済の発展を支え、国際競争力を高める優秀な技術人材を確保するために、職業教育に対する社会のこれまでの認識を覆し、学術教育と同様の重要性を社会全体に浸透させる必要に迫られている。そこで、資格枠組が職業教育の重要性を可視化するツールとして構築が急がれている。
中国政府は、資格枠組の構築により、生涯学習型社会の実現、知識経済を支える労働力の質と国際競争力の向上、職業教育と学術教育の接続、多様な進学経路の構築、中国の資格の国際的な接続などの実現を目指している。
* 上記における資格枠組は、知識、技能、能力(素養)の基準に基づいて、国内の異なるレベル、異なる種類の学習成果(学歴教育の学歴、学位、職業資格等)を体系的に整理し認定するもので、それぞれの資格の連続性を示すものとなる。
2010年に国務院から発表された「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010~2020年)(原語:国家中长期教育改革和发展规划纲要(2010-2020年))」では、生涯教育制度の確立に向けて、異なるタイプの教育システムにおける学習成果の相互承認と接続のための仕組みとして「学習単位銀行」(下記③参照)の構築 などが目標として掲げられた。
また2016年には「第13次五カ年計画(原語:中华人民共和国国民经济和社会发展第十三个五年规划纲要)」において、国の資格枠組を制定することが明示された。
【資格枠組構築に向けた主な動き】
資格枠組構築に向け、現在、中国では以下のような取組が進んでいる。
①高等教育における単位制度への移行
上記の「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010~2020年)」(第七章(十九))の中で、高等教育における単位制度の推進と整備が掲げられている。
②開放大学(Open University)の設置
教育部は2012年、生涯教育制度の構築に向け、 国および地方レベルの合わせて6つの 「開放大学」(国家開放大学、北京開放大学、上海開放大学、江蘇開放大学、広東開放大学、雲南開放大学)を設置した。国家開放大学は、教育部の委託を、また地方レベルの開放大学は地方政府の委託を受け、生涯学習による学習成果の単位化、単位蓄積、単位互換の仕組みの開発プロジェクトを実施している。
③「学習単位銀行」の創設
中央政府や、地方政府が、 異なるタイプの教育システムにおける学習成果の相互承認と接続のための仕組みとして「学習単位銀行」の創設を進めている。「学習単位銀行」 とは、個人や教育機関が口座を開設し、その口座に学習単位を預金のように蓄積していくもので、学習単位銀行は所定の基準に基づいて、既習歴の単位化をおこなう。 蓄積された学習単位は、例えば学校教育において、既習単位として認められれば履修免除を受けることができる。 ②の政府委託によるプロジェクトの成果を受け、各開放大学がそれぞれの政府から「学習単位銀行」の業務を委託されている。口座の開設、単位化、単位蓄積、単位互換などのサービスがオンラインで提供されている。
・「学習単位銀行」の一例:
- 国家開放大学単位銀行(原語:国家开放大学学分银行)
- 職業教育国家単位銀行(原語:职业教育国家学分银行)
- 上海市生涯教育単位銀行(原語:上海市终身教育学分银行 )
- 江蘇省生涯教育銀行(原語:江苏省终身教育学分银行)
④省レベルの資格枠組の創設
2016年、広東省において、政府の部門、教育機関、産業界の協働により、中国初の省レベルの資格枠組が構築され、2017年に広東生涯教育資格枠組等級基準(原文:广东终身教育资历框架等级标准)が省政府によって承認された。これは、中国で初めて公布された省レベルの資格枠組である。今後、国レベルの資格枠組構築の参考の一つとされる模様。
「職業教育」と「学術教育」との接続、「学歴教育」と「非学歴教育」との接続、全日制の「普通教育」と主に社会人を対象とした「成人教育」との接続、また、これらの学校教育における学習成果と国家職業資格(人的資源社会保障部(原語:人力资源和社会保障部)が管理する資格)とをどう接続させるか、また、中国の国内資格の国際通用性をどう確保していくかなど、課題は山積している。2020年現在、国の資格枠組の構築に必要な基盤を一歩一歩整備している段階にある。
原典④:UNESCO(英語)
原典①:中国国務院(中国語)
原典②:中国共産党(中国語)
原典③:中国国務院(中国語)