アメリカのNational Association of Colleges and Employers (NACE)*は大学卒業者の初任給に関する調査を行い、2020年3月3日に結果の概要「Winter 2020 Salary Survey Executive Summary」を発表した。それによると、学士の学位取得者の初任給は学術分野によって年間1.6万ドル以上の開きがあった。また、修士や博士などより上位の学位を取得するにつれ、初任給も高くなっていた。この調査はNACE会員の雇用者を対象に2019年後半に行われ、134社から回答を得た(回答率14.3%)。NACEは同様の調査を毎年行っており、今回示された金額は2020年の大学卒業者に支給される給与の見込み額となる。また、基本給のみが対象であり、賞与や歩合給、手当や残業代は含まれていない。
分野別、学位別の結果 学士取得者の中で最も初任給が高い分野は工学(年69,961ドル) で、最も低かったのは農業・天然資源(年53,504ドル)であった。データが集まった8分野の初任給額を比較すると、上位5分野は昨年と同様の順位であった(表1参照)。
分野カテゴリー | 2020年見込み額 | 2019年見込み額 |
工学 | 69,961 | 69,188 |
コンピューターサイエンス | 67,411 | 67,539 |
数学・科学 | 62,488 | 62,177 |
ビジネス | 57,939 | 57,657 |
社会科学 | 57,425 | 57,310 |
コミュニケーション | 56,484 | 52,056 |
人文科学 | 53,617 | 56,651 |
農業・天然資源 | 53,504 | 55,750 |
上位学位取得による初任給の増加率
また、学士と修士取得者両方の初任給データがある4分野では、ビジネス分野が最も給与の伸び率が大きく、修士取得者の方が学士取得者よりも初任給が約30%高かった(表2参照)。学士、修士、博士すべての段階での初任給データが集まった2つの分野(工学、数学・科学)では、どちらの場合も博士取得者の方が修士取得者よりも初任給が約30%高かった。
分野カテゴリー | 博士取得者 | 修士取得者 | 学士取得者 |
数学・科学 | 103,083 | 79,717 | 62,488 |
工学 | 101,484 | 77,298 | 69,961 |
ビジネス | – | 75,197 | 57,939 |
コンピューターサイエンス | – | 79,793 | 67,411 |
日本の場合、厚生労働省の「令和元年度賃金構造基本統計調査(初任給)」によると、2019年に採用された新規学卒者の初任給は、大学卒では21万200円であった。これに対し、大学院修士課程修了になると約14%増え、23万8900円であった。
卒業生が感じる教育のコストパフォーマンス
このように、より上位の学位を取得するにつれ得られる初任給は高くなる傾向だが、教育にかかるコストを考慮すると別の光景もうかがえる。2019年11月に公表されたアメリカの全国調査(本サイト2019年12月4日掲載記事)では、自身の受けた高等教育がコストに見合うことに「強く賛同」した回答者の割合が多かったのは、職業・技術教育(57%)と大学院教育(50%)の卒業生であった。また、アメリカの大学では学費の高騰が続いており、1998年から2019年の間で学費はおよそ3倍になっている(本サイト2018年10月30日掲載記事)。
*National Association of Colleges and Employers (NACE)
1956年に設立された全米の大学にいる就職担当者のための団体。13,000人を超える会員数を誇る。大学卒業者の就職に関する情報や労働市場のトレンド予測を行っている。
原典①:National Association of Colleges and Employers (英語)
原典②:National Association of Colleges and Employers (英語)