新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、シンガポール教育省が大学の授業料引き上げの凍結や学生ローンの返済猶予を発表

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が経済に打撃を与え、各国では現金給付や家賃支払いの猶予等の様々な経済的支援が打ち出されている。教育面では在学生の学費の支払いや卒業生の学費ローンの返済への深刻な影響が懸念されるなか、シンガポール教育省は2020年3月下旬から4月上旬にかけて大学の授業料引き上げの凍結や学生ローンの返済の猶予を発表した。これらの対策は、3月下旬にシンガポール政府が発表した2020年の補正予算案を受けたものである。補正予算案は新型コロナウイルスに対処するための経済支援として約550億シンガポールドル(SGD)[約4兆円※1]の規模となっている。

大学の授業料引き上げの凍結

シンガポール国立大学、南洋理工大学等のシンガポールの6つの自治大学(autonomous university)※2は毎年授業料を見直しているため、入学する年によって授業料が異なり、さらにシンガポール市民権保持者、永住権保持者(市民権保持者と比べ、選挙権を有しないなど享受できる権利に制限がある)、留学生など学生の属性によっても支払う授業料に差がある。

2020年入学の学生の授業料に関しては、前年よりその額を引き上げることが決まっていた。しかし、シンガポール教育省は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済的な影響を踏まえ、市民権保持者に限定して授業料の引き上げを凍結し、前年の授業料と同額にすることを決定した。一方、永住権保持者と留学生に対しては、授業料の引き上げを予定通り行うとしている。

例えば、南洋理工大学の医学部の年間授業料について、市民権保持者は2019年入学及び2020年入学ともに授業料が34,700シンガポールドル(SGD)[約264万円]となるのに対し、2019年入学の永住権保持者は48,600SGD[約369万円]、留学生は74,250SGD[約564万円]であったが、2020年入学の永住権保持者は49,000SGD[約372万円]、留学生は74,900SGD[約569万円]と約3~5万円引き上げられる。

手続きなしで自動的にローンの返済が停止

シンガポール教育省は国内の全自治大学およびポリテクニック※3を卒業したすべての学生に対して、2020年6月1日から2021年5月31日までの学生ローンの返済を停止することを発表した。返済停止の対象となるのは授業料ローン(tuition fee loan)、授業料や学生生活にかかる費用を賄う学習ローン(study loan)、 シンガポールの市民権保持者が海外留学等をする場合の費用を賄う海外学生プログラムローン(overseas student programme loan)の3つ。なお、これらのローンに付随して発生する通常の利息および支払いが遅延した場合などに発生する延滞利息も同様に停止される。これらは新たにローン返済を開始する者のみならず、すでに返済を開始している者にも手続きなしで自動的に適用される。

日本においては、日本学生支援機構が貸与型奨学金の返済期限の猶予や毎月の返還額を減額する制度を設けており、学生等からの申請に基づき、猶予や月々の返還額の減額が認められる。

※1シンガポールドル=76円として計算。

※2National University of Singapore (NUS)、Nanyang Technological University (NTU)、Singapore Management University (SMU)、Singapore University of Technology and Design (SUTD)、Singapore Institute of Technology (SIT)、Singapore University of Social Sciences (SUSS)の6つであり、政府から助成を受けつつも、自律的に運営されている。

※3実用的かつ実践的な教育を提供し、産業界との職業的なつながりを持った教育を提供する機関。

原典①:教育省(英語)
原典②:教育省(英語)
原典③:財務省(英語)

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