欧州連合(EU)と東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域間協力の強化とASEAN地域における高等教育制度の調和を目指すイニシアティブであるSHARE(Support to Higher Education in the ASEAN Region)プログラムは、2021年2月27日に双方の合意により、実施期間を2022年末まで延長することが決定された。
同プログラムは、2015年4月に開始し(本サイト2015/4/22投稿記事)、2020年6月30日に終了後、暫定的な段階にあった。今回の延長により、ASEANの「高等教育空間」(ASEAN Higher Education Space)の創設に向けてASEAN事務局やASEANのステークホルダーを引き続き支援し、ASEANの高等教育の融和を図り、同地域内の学生移動を後押ししていくことを目指す。
SHAREプログラムの欧州側の構成は、欧州高等教育質保証協会(ENQA)のほか、ブリティシュカウンシル、ドイツ学術交流会(DAAD)、オランダ高等教育国際協力機構(Nuffic)といった、国際交流を促進する団体等であり、延長に係る予算規模は、欧州連合からの約517万ユーロ(約6億7千万円※)(ブリティッシュカウンシルからの助成金約17万ユーロ(約2千万円※)を含む)である。
SHAREプログラムでは、ボローニャプロセスや欧州高等教育圏(EHEA)、エラスムスプログラム、欧州単位互換制度(ECTS)における欧州の経験をASEAN地域において活かすことを目的の一つに掲げている。今回の延長にあたって、SHAREプログラムではその成果をASEANの関係団体に移行し、持続可能なものとして、ASEAN主導の構造やプロセスに定着させていくことをねらうとしている。延長期間で行う取組は以下のとおり。
- 更なる調和、知識の管理のためのASEAN実践共同体(Communities of Practice)及びモニタリング・評価・学習(MEL)の開発
- 高等教育機関及び学習プログラムの質保証とアクレディテーションに関する地域的なイニシアティブの強化
- 国の資格枠組(NQF)とASEAN資格参照枠組(AQRF)の実施への支援
- ASEAN 質保証ネットワーク(AQAN)において進行中の活動への支援
- 学習成果に基づく教育(OBE)の教授法への移行支援
- 「ASEAN連結性マスタープラン2025」(Master Plan on ASEAN Connectivity (MPAC) 2025)を支える一連の調査の一環である、ASEANにおける卒業生の雇用可能性に関する研究の実施
- バーチャルな交流やオンラインを活用した国際的な双方向の教育手法(COIL型教育)を含む、デジタルを活用した国際化の実施
- ASEAN-EU間における単位互換制度(AECTS)の機能向上のため、デジタル化された資格・学修歴証明書の承認とポータビリティに関する試行的な取組
上記取組の3点目に関連して、SHAREプログラムではASEAN加盟各国の資格枠組(NQF)とAQRFの関係性を構築することを目的とした参照(Referencing)プロセスを進めており、マレーシアとフィリピンに関しては2019年5月に完了した(本サイト2020/2/12投稿記事)。また、タイは2020年1月に、インドネシアは2020年4月にそれぞれ報告書がASEAN資格参照枠組(AQRF)委員会に承認され、参照プロセスが完了している。
また、上記取組の8点目の資格等のデジタル化に関して、例えば欧州ではブロックチェーン技術を使用し、学習成果の記録を電子的に発行、保管、共有することが可能なEuropassの試行的実施や、学生個人の情報を電子的に管理し、学生移動に必要な情報について、紙媒体を介することなくやり取りをすることを目指すEuropean Student Card Initiativeの構築が進められている。このイニシアティブでは、学生が留学中に修得したECTS単位が自動承認され、高等教育機関側はECTS単位の認定を含む留学支援業務の効率化が図られるといったメリットが紹介されている。
ASEAN諸国では、マレーシアにおいて教育省が同国の6大学と協力して、学位の電子的管理システムの開発に取り組む動きがみられる(本サイト2020/2/12投稿記事)。
※:1ユーロ=130円で計算