2024年5月29日から30日にかけて、アルバニアのティラナにおいて欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)大臣会合※1が開催された。本会合では、ボローニャ・プロセス※2の進捗と今後の政策課題・目標等について協議され、その成果は共同声明(ティラナ・コミュニケ)としてまとめられた(詳細は、本サイト2024/8/6投稿記事を参照)。
コミュニケの冒頭では、「高等教育がそのミッションを十分に果たすためには、高等教育に関する基本的価値(fundamental values)が尊重される必要がある」と述べられている。基本的価値の詳細は、付属文書「高等教育の基本的価値に関するEHEAの声明(EHEA Statements on Fundamental Values)」にまとめられ、コミュニケとあわせて採択された。本記事では、この声明について紹介する。
※1 “Tirana EHEA Ministerial Conference 29-30 MAY 2024”公式ウェブサイトから、会合で採択されたティラナ・コミュニケおよび付属文書のダウンロードが可能。EHEAの構成国と協議参加機関等は、付属文書II内のAnnex1 “EHEA members and consultative members”で確認可能。
※2 ボローニャ・プロセスに関するこれまでの主な合意文書・宣言の概要はこちらを参照。
◆「高等教育の基本的価値に関するEHEAの声明」
ティラナ・コミュニケは、25周年を迎えたボローニャ・プロセスの歩みの中で合意された事項の実施には、EHEAのあらゆるステークホルダーの継続的な取組が不可欠であると強調している。EHEAでは、基本的価値に基づき、希望するすべての人々が質の高い高等教育にアクセスし、修了するための支援を受けられる環境を構築することが一貫して求められてきた。しかしながら今日の高等教育は、コミュニティや地域間の格差と分極化をはじめ、世界的に見ても地政学的、社会的、経済的、そして生態学的に複雑で相互に関連した課題に直面している。コミュニケはその主張の中で、高等教育が公共財としてこれらの課題に対処し、民主的な社会を推進するための革新的な役割を果たしている、とも訴えている。
ティラナに集った各国代表者は、高等教育における基本的価値が、前々回のEHEA大臣会合で採択されたパリ・コミュニケ(2018年)(本サイト2018/6/19投稿記事)、および前回のローマ・コミュニケ(2020年)(本サイト2021/1/8投稿記事)の時点よりも脅かされた状態にあることを憂慮し、高等教育はその基本的価値が尊重されて初めてそのミッションを十分に果たすことができる、との声明を打ち出している。そのため、今回の会合では、2020年に採択されたローマ・コミュニケを補完する形で、高等教育の基本的価値に関する声明(以下、「声明」とする。)を付属文書として改めて採択した。声明では、EHEAは高等教育の基本的価値を支持し、促進し、擁護することにコミットする、と重ねて宣言している。
◆高等教育における6つの基本的価値
コミュニケおよび声明では、高等教育の基本的価値を以下の6つにまとめている。これらはパリ・コミュニケ(2018年)で明示され、続くローマ・コミュニケ(2020年)でその重要性が再確認されてきたものである。
- 学問の自由※3
- 学術的誠実性
- 高等教育機関の自律性
- 高等教育のガバナンスにおける学生及び教職員の参画
- 高等教育における国等の公的部門の責任 (Public responsibility for higher education)
- 社会に対する高等教育の責任 (Public responsibility of higher education)
声明では、これら6つの基本的価値は、各国の法律や規則、枠組みに反映されるべきであり、国はこれらの価値が実現されるよう、その環境を整備する責任がある、と強く訴えている。
また、これら6つの価値は相互に関連しており、首尾一貫した一つの「全体(a coherent whole)」を構成しているものの、時には相反することもある。例えば、ある価値が実践される際、他の価値の実現に影響を与える場合がある。したがってEHEAにおけるステークホルダーは、各々の価値が実現されているかだけでなく、全体としてどのように調和して実践されているかを注意深く評価する必要がある、と指摘している。
ここでは、6つの価値の中でも特に「高等教育における国等の公的部門の責任」と「社会に対する高等教育の責任」に焦点を当て、EHEAの認識を明らかにする。これら2つの価値は、高等教育と国、および高等教育と社会との関係についての考え方を示すものであり、昨今の高等教育を取り巻く状況を踏まえた問題認識であると考えられる。
※3 ローマ・コミュニケ(2020年)の付属文書(Annex I)において、EHEAの共通理解を促すため、「学問の自由」の定義が「教職員および学生が、研究、教育、学習、そして社会の中での/社会との交流において、干渉や報復の恐れなく従事する自由」(NIAD-QE国際課による仮訳)と明確化された。
高等教育における国等の公的部門の責任(Public responsibility for higher education)
◆考え方
声明では、「公的部門が教育セクターおよび社会全体に対する責任の一環として果たすべき、一連の義務」を意味するとしている。これは、主に国の高等教育システムのレベルで履行され、以下の項目が含まれる。
- 政治的、公共政策的義務
- 制度的、法的義務(資金提供に関する事項を含む)
- 高等教育システムの適切な機能を確保する責任
こうした義務と責任は主に国レベルで果たされるべきであるが、地域および地方レベルでもその一端を担うことがある。さらに近年の国境を越えた教育と学習(トランスナショナル教育)※4の拡大を受け、共通の合意事項を遵守しつつ「超国家(supra-national)レベル」で実践すべき場合もある、と声明は補足している。
※4 トランスナショナル教育(transnational education: TNE)およびトランスナショナル共同教育(transnational joint education provision: TJEP)については、本サイト2024/3/8投稿記事と2024/6/12投稿記事を参照のこと。
◆実践
高等教育における国等の公的部門の責任の履行について、表1のとおりまとめることができる。
表1:高等教育における国等の公的部門の責任
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社会に対する高等教育の責任 (Public responsibility of higher education)
◆考え方
声明では、「高等教育コミュニティ※5が、自身もその一部である広範な社会に対して負う義務」と説明している。公的部門はすべてのレベルにおいて、「社会に対する高等教育の責任」に関連する公的な制度枠組みや政策枠組みについて最終的な責任を負っているが、高等教育機関はこれらの枠組みの設計と実施に参画すべきである、としている。
※5 声明において「高等教育コミュニティ」とは、全ての教職員や学生、高等教育機関のリーダー、高等教育機関における組織(例:大学団体、学生団体、教職員団体)を含むものとしている。
◆実践
社会に対する高等教育の責任の履行について、表2のとおりまとめることができる。
表2:社会に対する高等教育の責任
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◆基本的価値の実践に向けて
声明は、国や教育システムがこれら6つの価値すべてを尊重しない限り、高等教育の基本的価値が守られているとは見なされない、と明確に主張している。EHEAにおけるステークホルダーは、6つすべての価値に同等の重要性と尊重を与え、基本的価値を実現する環境を確保する必要がある。声明では、高等教育機関や組織、学生、教職員、そして公的部門が、法律、政策、実践に加えて、自己省察、建設的な対話、ピアラーニングを通じて、基本的価値の実現をさらに推進することを奨励している。
原典①:2024 Tirana Communiqué Annex I(英語)
原典②:2024 Tirana Communiqué(英語)
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
- 欧州高等教育圏大臣会合2024が開催:共同声明(ティラナ・コミュニケ)の概要
(本サイト2024/8/6投稿記事) - 欧州高等教育圏大臣会合2020(ローマ):ボローニャ・プロセスの発展状況は
(本サイト2021/1/8投稿記事) - ボローニャ・プロセスの進展と今後の課題を協議―欧州高等教育大臣会合2018
(本サイト2018/6/19投稿記事)







