中国では、中央政府(教育部)が指定した大学の大学院で、理科教員の養成を行う「国家優秀小中学教員育成計画」(以下、「国優計画」)が2023年から実施されている。2023年は30校、2024年は香港の大学2校を含む13校が対象校として指定されている。
教育部によると、教員養成課程を設置している高水準の総合大学や理工系大学が少ない中、特に近年需要の高い理科教員の養成強化を目的として、「国優計画」が策定された。指定された大学は、大学院課程に新たに教員養成カリキュラムを設けたり、師範大学と連携したりするなどして教員養成を行う。
「国優計画」の対象となる学生は、教育部が指定した大学の本科課程(学士課程に相当)の理工系を専攻している学生で大学院への推薦入試の条件に適合する者とされる。既に理工系分野の大学院課程(修士課程、博士課程)に在籍する学生を対象とした選抜枠も別途設けられている。選抜された学生は自身の専門分野の修士の学位取得と合わせて、初等教育や中等教育の理科の教員免許を無試験で取得することができる。(※中国における教員免許制度については本記事末尾の囲み参照)
<「国優計画」の概要>
- 対象校は「双一流※1」として認定された大学の中から教育部が指定する。指定された大学は理工系を専攻する学生で大学院への推薦入試の条件に適合する者の中から「国優計画」の学生を選抜する。
- 大学と優秀な小学校・中学校・高校が連携し、将来は学生をこれらの学校で採用することを前提に、養成することが想定されている。
- 教員になった「国優計画」の学生は公費師範生※2とみなされ、当該学生に学費を返還するなど、学生を教職へ惹きつけることが期待される。
- 「国優計画」に選抜された学生は、本科課程4年次からオンライン等で教職科目の履修を開始することが望ましい。
- 「国優計画」の学生として大学院に進学した学生は、自身の専門分野を学ぶと同時に、各大学が設置する教員養成カリキュラムの科目(教育学、心理学、初等・中等課程教育、科学技術史等)を26単位(教育実習8単位を含む)以上修得すれば、教員資格試験が免除となり初等や中等教育の理科の教員免許を取得することができる。
- 教育を専門としない学生については、自身の専門分野の学位に加えて、教育専門職修士論文を提出し審査に合格すれば、教育修士※3の学位の取得も可能である。
※1 「双一流」は一流大学と一流学科の総称。中国政府が、世界水準の大学と学科(専門分野)の構築を目指して、一流大学と一流学科を指定している。(本サイト2022/4/19投稿記事)
※2 公費師範生制度は、中国政府が、2007年から教育部直属の師範大学6校(北京師範大学、華東師範大学、東北師範大学、華中師範大学、陝西師範大学、西南師範大学)の師範専攻の学生を対象に開始した奨学金制度。2024年に改訂された「教育部直属師範大学本科修士接続師範生公費教育実施方法」によると、公費師範生は学費・寮費の免除、生活費補助が与えられるほか、無試験で教員免許を取得することができる。一方、卒業後は出身省の初等・中等教育の教員として一定年数勤務(うち、最低1年は農村地区の義務教育の教員として勤務)しなければならない。
※3 中国では、学術学位と専門職学位があり、教育の学術学位の修士は教育学修士(言語:教育学硕士)、専門職学位の修士は教育修士(原語:教育硕士)と称される。教育学修士は研究が主であり、履修科目は3~4科目と少なく、研究論文が主な成果とされる。教育修士は、論文も課されるが、科目履修がメインである。一般的に必修科目と選択科目を合わせて12科目以上の履修が必要とされる。(中国研究生招生信息网)
<2023年、2024年に指定された大学一覧>
2024年には香港の大学(香港大学と香港中文大学)も指定されたのが特徴的である。教育部は、「国優計画」の中国本土の大学院生が香港の教員養成課程で学んで香港で教員になり、同計画の香港の大学院生が中国本土の教員免許を取得して中国本土で教員になることを奨励するとしている。

【注】上記の各師範大学は総合大学であり、教員養成課程以外の学部も設置している。
【中国における教員免許制度】
中国では、国の規程に基づいて各地方(省・自治区・直轄市)政府が実施する初等・中等教員資格試験(原語:中小学教师资格考试)に合格することで教員免許(原語:教师资格证)を取得することができる。受験者は教育段階と教科を選んで受験する。中国の小学校は教科担任制のため、初等教育も教科を選んで受験することになるが、全教科受験することも可能である。また、教員養成課程(原語:师范专业)以外の課程で学ぶ学生も学歴要件*1を満たしていれば教員資格試験の受験資格がある。
一方で、2021年から公費師範生*2と教育分野*3を専攻する大学院生を対象に、無試験で教員免許を取得することができる制度が実施されている。また、本科課程の教員養成分野を対象とした認定制度があり、教育部直轄の評価機関である教育部教育質評価センター(Education Quality Evaluation Agency, Ministry of Education, P.R. China: EQEA)から認定を受けた大学の教員養成課程は、教員資格試験を自大学で行うことができるなどの優遇措置がある。(教員養成分野の認定については「中国の高等教育・質保証システムの概要」(第2版)p.51を参照)
教員の採用については、教員免許を取得した者を対象に各学校または地方政府が採用試験を実施する。
- *1教員資格取得のための学歴要件は、「初等教育教員資格は中等師範学校(後期中等教育のうちの一つ)卒業またはそれ以上の学歴、前期中等教育教員資格は高等師範専科学校卒業または他の専科課程卒業以上の学歴、後期中等教育教員資格は高等師範本科学校または他の本科課程卒業以上の学歴」(中華人民共和国教師法第1条)と定められているが、教員資格試験の受験資格は、教師法の規程を原則として、試験を実施する各地方政府が定めている。(例えば、北京市、江蘇省の場合、初等教育の教員資格試験の受験資格は中等師範学校卒業者以外の者は専科課程を卒業していなければならないとしている。)
- *2本文の※2を参照。
- *3大学院の教育分野とは、教育学(学術学位)、教育(専門職学位)、国際中国語教育(専門職学位)の3つを指す(教育类研究生和公费师范生免试认定中小学教师资格改革实施方案)。学術学位と専門職学位の違いは本文の※3を参照。
原典①:教育部关于实施国家优秀中小学教师培养计划的意见
原典②:教育部教师工作司负责人就《关于实施国家优秀中小学教师培养计划的意见》答记者问
原典③:教育部办公厅关于深入推进实施国家优秀中小学教师培养计划的通知







