韓国:韓国教育部が地域成長人材養成体系(ANCHOR)の推進案を発表 -地域革新中心大学支援体系(RISE)からの再編-

2026年4月、韓国教育部は、地域の成長を牽引する人材の定着を支援することを目的として、地域成長人材養成体系(アンカー(ANCHOR)※1以下、「ANCHOR」)の推進案を発表した。ANCHORとは、全国17の広域自治体(市・道)が地域発展戦略と連動した事業を通じて大学を主体的に支援する仕組みである。同事業は、各地域の発展戦略と連携した地域主導による大学支援を通じて、地域と大学の成長を一体的に推進することを目的に「地域革新中心大学支援体系(RISE: Regional Innovation System & Education)」の名称で2025年に開始されたが、人材の地域定着とバランスの取れた地域の成長促進をより明確に打ち出すため、名称がANCHORへと改められた。

本記事では、ANCHOR推進案の概要について紹介する。

※1 原典において名称の由来が明示されていないが、アンカーは英語の「ANCHOR(錨)」に由来し、地域定着を示す表現として用いられていると解される。

「地域成長人材養成体系(ANCHOR)」推進の背景

韓国では、首都圏への人口及び資源の集中が続いており、非首都圏からの若者流出に伴う地域間の不均衡が深刻化している。また、首都圏では住宅不足や激しい就職競争が激化する一方で、地方においては労働年齢人口の減少や産業基盤の弱体化が進行しており、国全体としての成長原動力の低下が課題となっている。このような状況の下、地域において人材を育成し、就職・創業を経て地域に定着させる一連の循環を形成することの必要性が指摘されている。

韓国政府は近年、首都圏一極集中の是正と国土空間のバランスのとれた活用を通じて、すべての地域における持続的な生活水準の確保を目指し、「国土空間大転換プロジェクト※2」を推進している。このプロジェクトの中核をなす空間的枠組みとして、全国を5つの超広域圏(首都圏・東南圏・大慶圏・中部圏・湖南圏)及び3つの特別自治道(済州・全北・江原)に区分し、地域ごとに特化した成長を促進する「5極3特国家均衡成長推進戦略」がある。(参考:行政安全部「国政課題資料」)韓国教育部は、地方における若者の「大学進学、就職、定住」の循環は、持続可能かつバランスの取れた成長において重要であるとしている。

※2 首都圏一極集中による地域間の不均衡を解消し、国土をバランスよく活用することを目的として、国土・産業・教育・人材を再設計する計画(参考:文化体育観光部が運営する政策広報ポータル

地域革新中心大学支援体系(RISE)の開始

RISEは、従来、中央政府(教育部)が有していた大学支援に関する行政・財政権限の一部を地方政府に移譲し、各地域の発展戦略と連携した地域主導による大学支援を通じて、地域と大学の成長を一体的に推進することを目的とする事業である。この事業は、2023年からの段階的な試行を経て、2025年に本格実施された。2025年には、総額約2兆ウォン(約2,090億円)が全国17の広域自治体(市・道)に配分され、地方政府は、地域ごとの特性・課題・需要に応じて、人材育成、産学研連携、職業・生涯教育、地域課題の解決といった分野を中心とした地域革新事業を設計し、地域発展戦略に基づく取組を展開する大学に対し支援を行うとしている。

仁川市を例にあげると、経済自由区域(IFEZ)を基盤として、国際空港、港湾及び国際業務団地を中心とするビジネス環境を有し、サービス業及び製造業(輸送機器、電気電子等)を主要産業とする中で、先端産業の比重は比較的低いとされる一方、近年は先端産業企業の誘致による産業構造の転換が進められている。また、電子部品、半導体、バイオ医薬、航空、港湾インフラを活用した物流産業等を戦略産業として位置付けている。こうした状況を踏まえ、「仁川型地域人材育成を通じて、雇用及び創業の条件整備を行い、地域発展の好循環を構築する」ことを目標に掲げ、戦略産業の融合分野における高度人材の育成等を推進するとしている。

また、大田広域市は、政府系研究機関(出捐研究機関)を多く保有し、人口における大学生の割合が高い一方、第3次産業中心の産業構造や大企業の不足、産業団地の老朽化により若年層の定住が課題となっている。このため、大学と政府系研究機関の連携による産学研連携エコシステムを構築し、教育革新による人材育成、産学研連携による共生的成長、起業・就業の促進を通じて若年層の定住を図るとしている。

下記の表では、その他の自治体におけるビジョン・目標及び課題について、その一例を示している。

<RISEで掲げられた地域別のビジョン・目標及び重点課題>の一例

地域  ビジョン・目標             重点課題
ソウル大学と共にグローバルな未来革新成長都市へ<グローバルな産学連携の先導>
国内最高水準の地域大学の能力と、創造・デジタル技術等の先端産業基盤を活用し、産学連携をグローバルな領域へと拡張することで、大学及び企業の国際競争力を向上させるとともに、海外市場をターゲットとする「ボーン・グローバル※3」型のスタートアップ企業の育成を図る。
 
※3 スタートアップの初期段階から海外市場を目指す企業
蔚山大学と産業界の共生成長を通じた未来産業の中心都市への新たな飛躍<地域産業団地における高リスク複合災害対応のための防災教育プラットフォームの構築>
地域の主要産業が自動車・造船等の製造業であり産業災害リスクが比較的高いこと、及び複合災害分野の専門機関が立地する地域の特性を活かし、大学を複合災害対応の防災教育プラットフォームとして育成することで、防災分野の専門人材の養成や災害対応策の検討を積極的に推進する。
全北雇用と生活の質の向上を牽引する地域高等教育改革システム<JB – スタートアップキャンパスの構築>
大学を中心とした起業人材の育成を推進するとともに、全北創業ベンチャーファンドの活用と連動させることで、若者の農業・生命科学・バイオ等の地域の基幹産業分野における起業と定住を支援する。
慶北K大学大変革によるアイデア産業の活性化<K-Uシティ・プロジェクト>
非首都圏で最多の大学を有する特性を活かし、大学の教育・研究能力を活用して地域特化産業の育成を図るとともに、若者の流出抑制を目的として、「1市・郡-1大学-1特化プロジェクト」を推進する。

RISEの運用に関するこれまでの成果と課題について、教育部は次のような見解を示している。

RISEの開始により、17のすべての地方政府において、大学支援部門、地域センター(専担機関)及び地域委員会からなる推進体制が整備された。また、地方政府及び大学に加え、地域の産業界、研究機関等が連携し、地域の高等教育の発展に資する協働体制の構築が進展した。

一方で、初年となる2025年の運用においては、支援戦略、運営規程、予算配分指針等の制度基盤の構築に重点が置かれた結果、地方政府や大学等の供給側主体による制度整備を中心とした政策運営が行われた。また、形式的な公平性や配慮的運用に基づく配分が見られ、小口化した予算配分による財政運用の非効率性や、予算執行上の規制による改革創出の制約といった課題が指摘されている。また、当初は市・道の枠を越えた事業が奨励されていたものの、実際には17の市・道単位での事業実施が中心となっており、超広域単位での産学連携の展開には一定の制約が生じた。

地域成長人材養成体系(ANCHOR)への再編推進案

事業2年目である2026年に、国土のバランスのとれた成長の実現を目標として、人材の地域定着を促進する体制構築という政策趣旨をより明確化するため、政策を再編して「地域成長人材養成体系(ANCHOR)」へと名称が改められた。また、学生及び人材といった、政策の直接の受益者を中心とする需要側志向の政策へと転換するとともに、複数の自治体及び大学の連携による超広域単位での支援へと制度転換が図られる。ここでは、ANCHOR推進案に記載されている計画の主な内容を紹介する。

地方政府の人材育成能力の強化

地方政府の人材育成能力の強化に向けて、前年の事業実施プロセス及び成果に対する評価を実施し、その結果に応じた予算配分が行われる。評価においては、計画策定から事業推進に至る全過程を対象として、地方政府及び大学による成果重視の運営を促進する評価基準が適用され、重点項目として以下の点が示されている。

・課題選定及び予算編成・配分の過程において、「選択と集中」が行われているか 
・小規模な課題への細分化等により、非効率的な事業運営が行われていないか
・政策の受益者である学生に対し、教育・研究等の機会がどの程度提供されているか 
・事業推進全般において、地域の産業構造、人口構成、発展戦略等がどの程度反映されているか 

本評価制度においては、地方政府は大学に対して成果指標の達成度に基づく評価を行い、中央政府は地方政府に対して地域事業の推進過程及び自律的業績達成度を評価するという、成果管理体制が構築されるとしている。これらの評価結果に基づき地域別の等級付けが行われ、2026年のANCHOR予算約21兆4,000億ウォン(約2兆2,363億円)のうち、約4,000億ウォン(約418億円)が年次業績評価に基づくインセンティブとして配分される方針が示されている。これにより、①成果の低い課題の整理・廃止、②成果の高い課題への重点投資、③学生を中心に据えた新規事業の編成等、市・道ごとの事業構造の再編が促進されることが意図されている。

地方自治体の課題・計画の再編(学生支援・人材養成を中心とする)

地方政府は、上記の評価結果を踏まえ、事業計画の再編を行う。その際、小規模な細分化を回避するとともに、成果が十分でない大学や機関別評価認証※4(参考:本サイト2025/7/14投稿記事)において不認証・未認証の大学の参加を制限し、その一方で、成果創出の可能性が高い課題に対して重点的な配分を行うことにより、財源配分における「選択と集中」を通じた最適化を図る。また、地域の基幹産業と連携した人材育成や、現場実習の拡大及びその安全性の確保、起業機会の創出等、地域の学生のニーズを踏まえた課題に関連する事業を拡大し、学生の地域定着を促進するとともに、地域及び大学の特性の反映を強化することが求められている。

※4 高等教育法第11条の2に基づき実施される、大学及び専門大学の運営や教育課程に関する周期的な評価制度

5極3特(超広域)人材育成体制に再編

「5極3特国家均衡成長推進戦略」に沿って、従来の17の市・道単位で構築されてきた推進体制を、5極3特圏域単位の超広域的な推進体制へと段階的に再編する方針が示されている。5極3特(超広域)関連施策全体の予算規模は、2026年のANCHOR予算のうち総額7,782憶ウォン(約813億円)で、中央政府主導の枠組みの下で設計、評価が行われる。

具体的には、現在各地方政府に設置されている大学支援部門、地域センター(専担機関)及び地域委員会を5極3特圏域単位の超広域センター及び委員会へと再編・統合し、圏域レベルでの行政主導によるガバナンス体制の構築が目指されている。大学においても、5極3特圏域単位での「共有大学※5」の構築が推進され、大学間の強みを融合させた共同教育課程の運営や修士・博士課程における研究開発機会の拡充が図られるとともに、大学の施設・設備の共同利用を通じて、学生に対する質の高い学習環境の整備が進められる。さらに、成長を牽引する分野(成長エンジン分野)を中心に、行政区域を越えた生活圏及び産業・経済圏に基づく超広域単位での人材育成が推進されるとしている。さらには、5極3特(超広域)単位での人材育成体系にとどまらず、首都圏-地方協働を通じた全国単位での人材育成体系の構築を推進する枠組みも計画されている。

※5 複数の大学が連携し、教育課程の共同運営、単位の相互認定、施設設備の共有等を通じて、一体的な人材育成を行う仕組み

■ 今後のスケジュール

原典においては、ANCHOR再編に関連する主要な施策の推進時期が示されている一方で、具体的な計画や日程等の詳細については今後確定するとしている。

原典①:教育部(韓国語)
原典②:教育部(韓国語)
原典③:教育部(韓国語)

カテゴリー: 韓国 タグ: , パーマリンク

コメントを残す