スロベニアの高等教育法に対するEU違反調査手続き

原典①:Slovenian academia slams Commission for “neoliberal pressure” over education(英語)
原典②:Europe acts to ensure access for education franchises(英語)
原典③:June infringements package: main decisions (2013)(英語)

欧州委員会は、スロベニアの高等教育法に対するEU違反調査手続きをはじめている。2011年に、欧州委員会の域内市場・サービス総局(DG MARKT)は、EUの欧州連合の機能に関する条約やサービス指令(Services Directive)を根拠に、スロベニアの高等教育法がサービス提供の自由に反するとして、正式通知書簡を同国政府に送付。その後、スロベニア政府は同法を改正したが、その内容が不充分であるとして、2013年6月にDG MARKTは理由付き意見書を送付した。

EU違反調査手続き(infringement procedure)は3つの段階に分かれており、1)当該国に対する正式通知書簡(formal notice)の送付、2)改善がされない場合の理由付き意見書(reasoned opinion)送付、3)最終手段としてのEU司法裁判所への告訴となっている。

違反調査手続きの背景

今回の理由付き意見書は、スロベニアの高等教育法における、同国で国境を越えた教育(transnational education: TNE)を行う教育機関へのアクレディテーションに関する条文に対するものである。同法では、国境を越えた教育を提供する外国の教育機関は、スロベニアのアクレディテーションを受け、登録の手続きを踏まなければならないとされているが、EU側はこの規制が、自由なサービスの移動や提供を推進するEUの法規に違反している、というのがEU側の主張である。リュブリャナ大学(スロベニア)のKlemen Miklavič教授によると、英国の教育機関によってフランチャイズされたスロベニアの私立教育機関が授与した学位を、スロベニア当局が認証しなかったことがあり、それが今回の違反調査手続きの引き金になったとのことである。

EUの姿勢への反発

①サービスとしての「教育」

こうした欧州委員会の姿勢に対しては、関係各所から反発の声が挙がっている。Miklavič教授は、各国の高等教育アクレディテーション結果を相互に認証するための統一したルールがないことを念頭に、欧州委員会の主張はモノやサービスの取引に適用される原産地主義(country of origin principle)を基にしていると説明する。しかし、これまで教育は通常のサービスとは利害が異なる扱いをされてきており、欧州委員会はサービス指令の適用を避けてきたと指摘する。さらに、「各種条約によると、教育内容や教育機関は加盟国の所掌となることは明白だ」と述べている。

②市場開放と国の権利

スロベニアの学生組織であるIskraのJaka Perovšek氏は、2006年に欧州教育取引ユニオン(ETUCE)が発表した、サービス指令法案(当時)に対する警告文を引き合いに出し、EUの主張に反対する。当時ETUCEが指摘した、自由貿易や設立の自由への尊重と、加盟各国による質の高い教育の維持努力とのせめぎ合いが、現在スロベニアが置かれている状況と同じであると同氏は話す。その上で、「教育の質の維持と教育機会への平等なアクセスは、教育分野の商業化と教育サービス取引の増加では成し遂げられない」と主張している。

さらに、米国ボストン大学国際高等教育センターのPhilip Altbach氏も、EUの姿勢を「国家主権の侵害だけでなく、高等教育の質の維持が危うくなる」と指摘する。特に、スロベニアのように国境を越えた教育の受け入れ側に回らざるを得ない小国にとって、開放市場政策は多大な損害となると危惧している。

③TNE
また、同国学生ユニオンも声明を発表している。違反調査手続きに関しては関係機関に対応を委ねるとしつつ、国境を越えた教育がもたらしうる負の影響として以下の3点を挙げている。1つは、スロベニア高等教育の基準を遵守しないことによるTNE教育の質の低下スパイラル。2つ目が、長期的視点での留学生数と留学プログラム助成の低迷。最後に、マーケティング主導や競争激化がもたらす高等教育の商業化である。

EU側の反応

本件について、域内市場・サービス総局(DG MARKT)はコメントを拒否しているが、教育・文化総局(DG EAC)は理由付き意見書作成への関与を認め、次のように述べている。「(DG) EACは、欧州委員会が調査する本件-スロベニアの法令が教育サービス提供者が分校やフランチャイズ協定を通して同国でサービスを提供する権利を妨げているか-は、欧州連合が望む質の高い高等教育の拡大促進姿勢に見合っていると納得している。」

なお、教育市場の規制緩和を危惧する流れは、欧州連合と米国の間で協議されている環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)(本サイト2014/4/23投稿記事)でも起きている。

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