連邦教育省が遠隔教育における学生の利益保護のための規則案を発表

原典①:U.S. Department of Education(英語)
原典②:Federal Resister Notice(英語)

近年、米国では、遠隔教育課程で学ぶ学生が増加しているが、これらの学生の利益を保護するため、2016年7月、米国連邦教育省長官は、遠隔教育課程の学生が在住する各州政府が、当該高等教育機関を実効的に監督することなどを求める規制を提案した。なお、以前にも、同様の規定が存在していたが、裁判で無効となっていたため、今回改めて規制を制定し直すこととなったものである。

1.州政府による監督行政

米国では、州政府が高等教育機関の設置認可及び当該機関の連邦政府奨学金支給の認可を行っている。

一般的に、高等教育機関が、連邦政府奨学金(ペル給付奨学金制度や、教育機会補助給付奨学金。諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 アメリカ合衆国(第2版P18-19)の支給対象として認可されるためには、「学生が在住する」州の認可を受けなければならないといった規制があったが、学生がキャンパスの近隣に在住する一般的な大学等の場合とは異なり、遠隔教育や通信教育を提供する機関の場合、学生が各州に点在するため、該当するすべての州の認可を受ける必要があった。しかしながら、認可要件は各州ごとに異なるため、実質的には大変複雑な制度となっており、さらに裁判においても当該規定が無効になり、規制の見直しが求められていた。

2.遠隔教育課程学生の増加の背景と規制の必要性

今回の規制の制定し直しが必要となった背景には、米国の高等教育における遠隔教育の役割の拡大がある。

1999年時点、一課程以上の遠隔教育課程に所属している学生は、全学生の8~10%であったのに対し、2013年には、学位授与教育機関かつ連邦の学資援助プログラムに参加している高等教育機関の遠隔教育課程の学生に限った場合においても、24.6%(約550万人、うち約300万人はオンライン教育のみにより学習。)に上っている。また、2006年には、連邦議会が遠隔教育課程学生への学資援助に関する規制を廃止したことも、遠隔教育で学ぶ学生増加の一因であるとされている。

このように、遠隔教育により、学生の学習機会が広がる一方、これらをめぐるトラブルも発生している。例えば、ヴァージニア州の機関が提供するオンライン課程に入学したカリフォルニア州の学生が、当該機関に入学を取りやめる意思表示をしたにも関わらず、その4年後、その学生は当該機関から、学費が未納入であったことを理由に給料差押えの通知を受けたという悪質な事例が発生した。このような背景を受け、州政府が高等教育機関を実効的に監督することで、適切な機関運営を担保すること、また、学生の奨学金の支給においても、適切な高等教育機関を通じて行われることが求められるようになっていった。

3.遠隔教育に関する規則案

今回の制定案における、高等教育機関が学資援助プログラムに参加するにあたっての主な要件等は、以下のとおりである。

・遠隔教育や通信制課程を提供する高等教育機関(以下、高等教育機関とする。)は、学生が所在する各州において監督を受ける。

・国外等にあるブランチ校等は、当該校の所在する国・地方政府による監督を受ける。なお、教育課程の半分以上をブランチ校等のみで修了できる場合は、適格認定機関より承認を受ける。また、当該機関の本部(本校)が所在する州政府に報告する。

(以下は、今回新たに提案された主な事項として)
・州間での合意がある場合、高等教育機関は、所属する州以外においても、中等後教育を遠隔教育や通信制課程を通じて提供することが承認される(監督の相互合意)。
※なお、遠隔教育にかかる州認可協力協定(SARA)がこれに該当。詳細は、こちら(本サイト2013年11月20日投稿記事を参照。

・高等教育機関は、遠隔教育課程に係る学生の苦情を解決するまでの状況を州に報告する。

・高等教育機関は、入学生や入学希望者に対し、当該機関が提供する遠隔教育課程や通信制課程の情報を開示する。

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