英質保証:年次プロバイダーレビューの概要について

出典:イングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)英語

イングランド及び北アイルランドにおいて英国高等教育質保証機関(QAA)が原則6年に1度実施していた「高等教育レビュー(Higher Education Review: HER)」が2016年に廃止され、イングランド高等教育財政カウンシル(HEFCE)、北アイルランド経済省(DfENI)が実施主体となる新たな質保証制度(2016/6/2投稿記事)が同年より試行的に導入された。

新制度では、既存のデータを収集・分析・活用することによって受審機関の負担を軽減し、よりリスクベースなアプローチが導入される。したがって、各高等教育機関の現状に則した評価を実施する「年次プロバイダーレビュー(Annual Provider Review:APR)」がより重要な役割を果たすことになる。

HEFCE及びDfENIは、これまで自らが財政支援を行う高等教育機関を対象として財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントに関する質保証活動を実施してきた。また、イングランドでは、学生定員が自由化されて以来、高等教育の質との関係(学生定員の自由化による質の低下への懸念)について毎年調査を行ってきたところである。年次プロバイダーレビューでは、これまでHEFCE及びDfENIが行ってきたそのような既存の質保証活動を効率よく組み合わせたものである。各機関から高等教育統計局(HESA)、教育省及びHEFCE等に提出されているデータを最大限に活用することにより、新たなデータ提出や資料作成を求めないなど、各機関の負担を最小化する一方、レビュープロセスにおいて、懸念事項が特定された場合、当該機関はその懸念事項に対する対応を取ることになる。

年次プロバイダーレビューは、英国内の他の教育システムと連動することが想定されており、例えば、同じく新たな評価制度の一つである教育卓越性枠組(TEF)では、年次プロバイダーレビューの指標が一部用いられるほか、年次プロバイダーレビューの良好な結果がTEFの称号付与の要件となる。さらに、年次プロバイダーレビューの良好な結果は、内務省によるtier4学生ビザ※1発給のための要件となる。

年次プロバイダーレビューの概要(イングランドの場合※2

1. 対象

  • イングランドに設置された公的な助成を受けている高等教育機関。
  • 直接的あるいは間接的に公的な助成を受けているイングランドに設置された継続教育カレッジあるいはシックス・フォームカレッジ。
  • 新たな質保証制度(2016/6/2投稿記事)において「発展段階にある」機関あるいは「基礎的要件を具備した」機関。※3

2. 評価プロセス

  • HEFCEの評価チームは、まず受審機関の質に係るデータや指標等の情報をリスト化したAPRダッシュボードを準備し、それを用いて各機関の懸念事項を特定する。
  • HEFCEの評価チームは主に質・基準及び財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントの2領域について、受審の状態を確認する。(予備評価)
  • HEFCEは、予備評価において、年次プロバイダーレビューにおけるマイナスの評価に結び付くような懸念事項が特定された場合は、当該機関に書面で通知し、意見聴取を行う。
  • 当該機関は、指摘された懸念事項に対し、HEFCEに追加の情報を含む回答を書面で行う。

3. 判定
<財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントに係る判定>

  • 評価チームは、受審機関から提出された財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントに係る懸念事項に対する書面による回答を踏まえ、「高いリスクがある」及び「高いリスクはない」の2つの判定のうち一つを選択する。
  • いずれの判定の場合にも、さらなる懸念事項や今後のアクション等に関する評価チームの見解が添えられることがある。

<質・基準に係る判定>

  • 評価チームは、受審機関より提出された質・基準に係る懸念事項に対する書面による回答を踏まえ、全ての受審機関を「予備評価の結果、懸念がある」、「予備評価の結果、懸念がない」のいずれかのカテゴリーに分類する。
  • 専門家によって構成された質委員会(Quality Committee)は、評価チームの行った分類及びその理由、各機関からの書面による回答及びAPRダッシュボードを踏まえ、以下の4段階で判定を行う。
「要件を満たしている」
当該機関は、引き続き次年度以降も年次プロバイダーレビューを受審する。
「条件付きで要件を満たしている」
直近の懸念事項に対するアクションプランを策定しなければならないものの、当該機関は、引き続き次年度以降も年次プロバイダーレビューを受審する。
「保留」
当該機関をまだ判定できない。
「要件を満たしていない」
当該機関は、「発展段階にある機関」に差し戻され、必要に応じた適切な時期と4年後に専門家で構成される評価チームによる訪問調査が求められる。また、直近の懸念事項に対するアクションプランを策定する必要がある。

4. 質に懸念がある場合に実施される質における基礎的要件に係る訪問調査(Quality Review Visit)

  • 質委員会が、質・基準に関して受審機関に深刻な懸念事項がみられると判断した場合、HEFCEの「不適合質スキーム(Unsatisfactory Quality Scheme)」のもと、懸念事項に対する詳細な調査を実施するため、QAAによる質における基礎的要件に係る訪問調査を実施する。
  • 質委員会は、質・基準に関し、年次プロバイダーレビューの評価結果及びQAAのに係る訪問調査における見解の両方を考慮し、以下の3段階で判定を行う。
「要件を満たしている」
当該機関は、引き続き次年度以降も年次プロバイダーレビューを受審する。
「条件付きで要件を満たしている」
直近の懸念事項に対するアクションプランを策定しなければならないものの、当該機関は、引き続き次年度以降も年次プロバイダーレビューを受審する。
「要件を満たしていない」
当該機関は、「発展段階にある機関」に差し戻され、必要に応じた適切な時期と4年後に専門家で構成される評価チームによる訪問調査が求められる。また、直近の懸念事項に対するアクションプランを策定する必要がある。

5. 判定の通知

  • 年次プロバイダーレビューの結果を共有するため、HEFCEは各機関の会計担当者及び統治機構の長に、既存の仕組みに則り、高等教育機関には「リスク評価通知書(risk assessment letter)」を、継続教育カレッジには「質評価通知書(quality assessment letter)」を、それぞれ書面で通知する。本通知書には、財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントに関するリスク状況について判定が記載されているほか、質委員会の専門家により作成された質・基準に係る判定も記載される。
  • 本通知書では、改善点、活動計画及びさらなるモニタリングの実施のために課される要件が明記される。さらに、活動計画の実行を求められている機関には、HEFCEと合意した期限についても記載される。
  • 年次プロバイダーレビューにおける質・基準に係る評価結果は、HEFCEのウェブサイト上の「高等教育登録簿(the Register of higher education providers)」に掲載される。なお、財政の持続可能性、ガバナンス及びマネジメントに係る評価結果については公表しない。

6. 異議申立てプロセス

  • 受審機関は、年次プロバイダーレビューの評価結果に対し、手続きに不備があった場合に限り異議を申し立てることができる。

※1  Tier4学生ビザは、長期滞在する場合に必要となる学生ビザであり、本ビザを取得すると就労(就労できない業種もある)も可能となる。
※2 北アイルランドにおいても、DfENIによって、おおよそ同様なレビューが実施される。
※3 なお、教育省(DfE)が管轄している学位授与機関と連携して高等教育プログラムを提供しているが、公的資金を受給せず、QAAによる定期的なレビューを受審していない機関である代替プロバイダー(alternative providers)は、年次プロバイダーレビューの対象外。これらの質保証はQAAが所管する。

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