2017年5月2日、コンピテンスベース教育ネットワーク(C-BEN)※1は、コンピテンスベース教育プログラムのための質原則及び基準(以下、CBE質原則)を発表した。
C-BENは、CBEを推進している、ミシガン大学やサザン・ニュー・ハンプシャー大学を含む30大学等から成る大学ネットワークである。CBE質原則は、米国内の質保証や学習成果の向上に従事する100人以上の大学関係者のフィードバックを受け、C-BENメンバー及び十数名の専門家や規制当局者によって2016年に作成されたものであり、多様化を見せるあらゆるCBEプログラムへ適用できる普遍性と、CBEプログラムの質を保証する具体性を両立させているという。
米国では近年約600大学が新たにCBEプログラムを開設するなど、CBEが急速に普及している中、CBE質原則は、新たなCBE実施大学のプログラムのアカウンタビリティを更に高めることを目指している。
CBE質原則は8つの要素(Element)※2から成り立っており、各要素ではそれぞれ、質保証の第1段階(Tier 1)として原則(Principle)※3、第2段階として基準(Standard)※4、第3段階として成果指標(Performance Indicators)が定められている。特に、成果指標は、ある機関がどれだけ効率的に原則及び基準を達成しているかを測定するツールであり、原則ごとに設定された各項目(Criteria)について水準別の達成度を記述するルーブリックで示されている。
なおC-BENでは、CBE質原則の作成と並行して2016年より成果指標に関する作業が開始されたが、現在も作業が進行しており、今回のCBE質原則に掲載されている成果指標は暫定的なものである。
- CBE質原則の概要
要素 | 原則 (抜粋) | 基準 (抜粋) |
(1)CBEの発展に向けた機関の関与及び能力 | CBEを提供する機関は基本的なインフラを備えねばならない…等。 | CBEプログラムに特有な必要事項に沿った教員及び職員モデルを発展・適応させる。 |
(2)明確かつ測定可能で意義がある統合されたコンピテンス | コンピテンスは、学習者が学習プログラムで何を修得しなければならないのかを明確に示すものである…等。 | 個々のコンピテンスは、雇用者や社会のニーズを妥当性、最新性及び正確性をもって反映している。 |
(3)一貫性のあるプログラム及びカリキュラムデザイン | コンピテンスのレベルが、学位や資格の学術レベルの成果と見合うように、カリキュラムをデザインする…等。 | プログラムでは、学生の状況に応じてコンピテンスの修得を目指せるよう、順位づけ等で統合されたカリキュラムが組まれている。 |
(4)学位や資格レベルでの評価計画及びその堅実な実施 | CBEプログラムで学位や資格を与える上で、信頼性のある評価及びその実施のためのルーブリックは重要な要素である…等。 | 信頼性のある評価では、新たな展開における学習及び能力の測定など、学生にコンピテンスを実践するための多様な機会及び方法を提供するようにされている。 |
(5)意図的に設定され、得られた学習の経験 | CBEプログラムでは、学習者がプログラムを選択する時点から、学習者を積極的に、かつ個人に合ったサポートを行う…等。 | 学生の学習の経験の全般にわたって学生を公平に支援するチームについて、教員及び職員の能力の測定指標を設けて測定している。 |
(6)学外パートナーとの連携 | 学外パートナーと協働することで、コンピテンスやカリキュラムの周知及び検証や、評価の妥当性を確保することができる…等。 | 学外パートナーは実践的な学習、訓練、評価、インターンシップ及び雇用機会について充実させる。 |
(7)学生の学習の透明性 | コンピテンス、コンピテンスを得る道筋、評価方法及びコンピテンスを証明する成果は、学習者やステークホルダーに対して明確に示されていなければならない…等。 | コンピテンス修得や学位・資格取得に向けた学生の成長の過程は、学習の各段階を通じて学生、教員及び職員に対して可視化されている。 |
(8)根拠に基づく持続的な改善 | CBEでは、根拠に基づく持続的な改善が重要であり、プログラムの効果を保証するため在学中・修了後を通じてデータを収集・分析しなければならない…等。 | CBEプログラムは、成果目標を設け、学習者固有の成果を含めた実績データのモニタリング、測定、分析、報告等の効果的なアプローチを行なっている。 |
- 成果指標(抜粋) ※以下は、「(2) 明確かつ測定可能で意義がある統合されたコンピテンス」に係る成果指標
項目(Criteria) | 実施の初期段階である(Initial) | 発展段階である(Emerging) | 発展している(Developed) | 高度に発展している(Highly Developed) |
コンピテンスは、成果に対して要求される知識、技能、能力、態度を統合したものになっている。 | 学位や資格レベルのコンピテンスについて定義している。 | 求められる知識、技能、能力、態度を詳細に示してコンピテンスを定義している。 | 学位や資格レベルのコンピテンスについては、その要件やコンピテンスを証明する上で必要な事項について明確に示して定義している。 | 個々のコンピテンスに関する学習成果のデータを収集している。外部評価のデータ(雇用者、資格試験などからの)を学生の実績の向上のために活用している。 |
コンピテンスは、多様なステークホルダーからの要望を組み入れて設定している。 | 勧告を行うグループからの助言を、コンピテンスを発展させる過程に組み込んでいる。 | 関連分野の専門家の評価を受け、DQPなどの明確なツールを用いて学位や資格レベルを適切に確保している。 | ステークホルダー(雇用者、専門家、教員、学生、勧告委員会、卒業生、専門家・有資格者団体など)が学位や資格レベルのコンピテンスの定義づけに参画している。 | コンピテンスを継続的に評価するプロセスが設けられ、コンピテンスの領域の発展に伴いコンピテンスの刷新がなされている。 卒業生の雇用者が、コンピテンスが卒業準備として有益かどうかフィードバックしている。 |
個々のコンピテンスは、妥当かつ最新のもの、雇用者や社会のニーズを的確に反映させたものである。 | 個々のコンピテンスは最新のニーズによって定められている。 | 個々のコンピテンスは雇用者や社会のニーズを反映させている。 | 個々のコンピテンスは雇用者及び社会からの最新のニーズを反映させている。 | CBEプログラムで提示しているコンピテンスの最新性、妥当性及び正確性を維持するため、各機関が雇用者や社会のニーズの変化を評価するプロセスを設けている。 |
コンピテンスは、学習者の経験を支える、明確にする、促進するものである。 | コンピテンスは明確かつ具体的に定められており、学生の学習の基礎となっている。 | コンピテンスの枠組みは、学習がコンピテンスの発展に資するよう、十分に分節化され定義されている。 | 学習及び評価は、コンピテンスと十分に統合し、連携したものになっている。 | 学生に対してより明確な学位や資格を得る道筋を示せるよう、不明確・不明瞭なコンピテンスを改善するための継続的な改善モデルがある。 |
※2 要素(Element):原則の説明的な表記あるいは略表記。
※3 原則(Principle):CBEの理念や活動、根拠づけに係る基本提案。
※4 基準(Standard):質や達成状況のレベル及び包括的な評価の手段や規範、モデル。
原典①:C-BEN
原典②:Inside Higher Ed