2016年9月23日、米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA)は、Association to Advance Collegiate Schools of Business (AACSB)※1のCHEAによるアクレディテーション機関認定(以下、CHEA認定)の不継続及び取消しを決定した。AACSBにアカウンタビリティに係るCHEA基準を満たさない点があったことが理由とされている。一方で、AACSBはグローバル化及びビジネスコミュニティとの連携強化のため、CHEA認定から国際標準化機構(ISO)の認証※2の取得へと切り替えるとしている。
AACSBは2002年以降、CHEAによって認定されてきたが、2013年1月28日のCHEA理事会会合以降、透明性に係るCHEA基準に対する根拠不備を理由に認定を延期されてきた。そして、CHEA認定取り消しの直近に開催された2016年1月25日の理事会会合において、「CHEA認定機関は、機関及びプログラムに対し、その成果(学習成果を含む)に関する情報を定期的に公表することを求める」という基準に係る根拠が不十分と判断され、9月23日に認定の取消しに至った。
一方、AACSBは2016年9月27日に、ISO認証の取得を目指すことを発表した。これにより、AACSBは新たな使命・ビジョンに基づきグローバル化を重視することを強調し、世界中のビジネスコミュニティとの連携を強めることを容易にするという。ISO認証は、プロセスや質コントロールに対する包括的な第三者評価を通じて与えられるもので、世界中の主要な企業によって取得されており、これはAACSBのアクレディテーションプロセスに類似しているという。
米国では、高等教育機関のアクレディテーションの受審は任意であるが、連邦政府奨学金や民間奨学金の受給条件、上級プログラムへの進級の際の単位認定などの場面で、CHEAや連邦教育省に認定された機関によるアクレディテーションの有無が考慮されている場合がある。AACSBのCHEA認定の取消しにより、これらの点で学生への影響が懸念されると見られるが、当該高等教育機関が機関別アクレディテーションにおいて適格認定されている場合、学生に対する影響は限定的と見られる。
なお、2017年7月時点における全米の専門アクレディテーション機関(77機関)のうち、CHEAから認定されているのは59.7%(46機関)、連邦教育省から認定されているのは41.6%(32機関)である。また、CHEAからも連邦教育省からも認定を得ていない機関は15.6%(12機関)である。
一方、AACSBは米国内に留まらず50か国以上で高等教育機関の専門アクレディテーションを実施しており、AACSBのCHEA認定の取消しは、むしろ海外においてその影響力がうかがえる。
国内で約20機関がAACSBからアクレディテーションを受けている台湾では、AACSBのアクレディテーションを国際的認知度向上の重要な要素ととらえている経営マネジメント教育関係者の間で大きな衝撃として受け取られた。その一方、既に国際的な権威を確立しているAACSBの地位は不動のものとする見方もある。
台湾高等教育評鑑中心基金会(HEEACT)のWeb雑誌「評鑑」では、国立嘉義大学教育行政與政策發展研究所の楊正誠准教授による分析が掲載されており、AACSBがCHEA認定の継続を取り下げたことにより次のことが浮き彫りになったとしている。
AACSBは会員の56%、アクレディテーション申請者の80%が海外の機関であることを背景に、国際アクレディテーション市場のニーズを極めて重視する姿勢が明らかになった。今後CHEA以外の国際高等教育アクレディテーション機関の認定組織に認定を求めるようになるか、またISO認証によって、引き続き経営マネジメント教育界における支持を得続けることができるかは今後注目される。
「評鑑」の分析ではさらに、CHEAがアメリカ国内や海外の多くのビジネススクールに対する影響力を失うこと、及びこれまで米国の高等教育の質を代表する存在であったCHEAによる認定は、グローバル化の流れの中で、「産業界の視点」からの挑戦を受けることとなると指摘している※3。
また、高等教育評価、国際アクレディテーションの市場化と学術的な質のバランスをとるためには、国を越えた国際高等教育評価機関による国際アクレディテーションメカニズムが必要であると提言している。
※1 AACSBの他、ビジネス分野の国際的な評価を実施している機関としてはThe European Foundation for Management Development (EFMD)がEQUISを実施しており、Association of MBAs(AMBA)がアクレディテーションを実施している。なお、EFMD及びAMBAは欧州に所在しているが、ESGを基礎とした質保証機関の登録簿であるEQARには登録されていない。
※2 ISO規格とは、国際的な取引をスムーズにするために、品やサービスに関して世界中で同じ品質のものを提供することを目指す国際的な基準である。組織の品質活動や環境活動を管理するための仕組み(マネジメントシステム)に関する規格は「マネジメントシステム規格」と呼ばれており、この規格に基づき認証制度が敷かれている。
※3 専門アクレディテーションにおける「産業界の視点」をめぐっては、2017年5月にジャーナリズム分野のアクレディテーションにおいて、2大学がイノベーションの促進を理由に、CHEA認定を受けた機関による「通常の」専門アクレディテーションの受審を意図的に見送ったことも一つの緊張関係を表しているといえる。これに対しCHEAのJudith Eaton会長は「アクレディテーションに対する再評価の一環。アクレディテーション制度全体に見直すべき点がある。」と述べている(本サイト2017年6月8日投稿記事) 。