フランス:HCERESが2018-2019年実施の評価原則を公開-総合評価に着目

研究・高等教育評価高等審議会(HCERES)が、2018-2019年に実施する評価(vague E)に関する原則(PRINCIPES D’ÉVALUATION DE LA VAGUE E (2018-2019))を公開した。

HCERESは、フランスの高等教育・研究機関に対し、学術共同体評価、機関別評価、教育課程・学位評価、研究評価の4つの評価をそれぞれ個別に実施しており、これら全ての評価の一貫性及び網羅性を保つため、その包括的評価として総合評価を実施している(参照:諸外国の高等教育分野における質保証システムの概要 フランス第2版 P.33)。なお、昨年度に公表されたHCERESの中期計画(2016-2020年)(本サイト2016/8/29投稿記事)では、『学術共同体の評価を含めた総合評価の実施』や『総合評価実施に即した内部組織体制整備』を主要な戦略と位置づけている。

今回公開された原則では、総合評価の強化に資するための各評価における原則について言及されている。

総合評価のポイント

①学術共同体を構成する各機関・教育課程・研究(以下、各主体)に関する評価を包括し、学術共同体として1つの総合評価報告書を作成する。
②学術共同体における地域的連携戦略に関する評価をベースとし、各主体がその戦略実施のための遂行能力をどれほど有するかを提示することを目的とする。
③総合評価実施のため、まず学術共同体評価が実施され、その後、学術共同体評価報告書を参考に各主体の評価が実施される。総合評価報告書は、学術共同体評価において作成された戦略評価報告書※1と、機関別評価、教育課程・学位評価、研究評価の各評価報告書をまとめたものを統合して作成される。
④総合評価報告書では、学術共同体の強みについての分析結果を示し、今後の運営指揮の質的向上に繋がるよう活用される。

各評価における原則のポイント

学術共同体評価

上記②のとおり、2018-2019年の評価においては、学術共同体がその連携戦略実施のための遂行能力をどれほど有するかに特に重点を置く。なお、各学術共同体の自律性・責任の保持も同様に重要とされる。また、学術共同体は多種多様な機関から構成されるが、その構成には地域差があるため、画一的な評価を実施することが出来ない。よって、汎用性の高い基準を用い、各学術共同体の特性にあった評価が行われることとなる。そこで、各学術共同体が作成する自己評価報告書が重要となるため、自己評価実施の際参考となる「自己評価のためのベンチマーク」が今回新たに公表された。

機関別評価

機関別評価については、前年の評価から特段変更はない。なお、学術共同体評価と同様、「自己評価のためのベンチマーク」を参照のうえ自己評価を実施するよう提示されている。
また、HCERESは高等教育機関だけでなく研究機関の評価も実施している。高等教育機関の評価については、前年の評価と同様6つの機関別評価基準が用いられるが、教育課程を提供しない機関、つまり研究機関等の評価の際に用いる基準が、今回新たに1つ追加された。

教育課程・博士学院評価

学術共同体を含めた総合評価実施を鑑み、以下3点を重視した評価が実施される。
1. 学問領域評価※2を更に活用し、教育課程評価を簡素化する
2. 教育課程認定のための機関別アクレディテーション※3の簡素化に寄与する
3. 学術共同体の構成機関が有する教育課程に関する方針を学術共同体レベルで共有し、また、学術共同体レベルにおける分析を、各構成機関で共有する。

上記2. について、前提としてHCERESが教育課程評価の対象とするのは国から設置認可を既に受けている教育課程に限られる。しかし、設置認可を受ける前の教育課程を分析することはできる(あくまで評価ではない)。HCERESは、訪問調査を含む分析を実施し、その結果を国の機関別アクレディテーション担当部署に送付することで、設置認可のプロセス簡素化に寄与する。

なお、ENQAによるHCERESの外部レビュー結果(本サイト2017/9/11投稿記事)にて指摘され、募集を開始していた学生の評価者委員への参画(本サイト2016/6/8投稿記事)について、2018-2019年の教育課程評価の評価者委員会に学生を含むことが明記されている。

研究評価

学術共同体を含めた総合評価実施を鑑み、以下4点を重視した評価が実施される。
・研究ユニット評価に注力せず、学術共同体レベルの研究方針をより考慮する。
・総合評価の一貫性を強化する。
・学術共同体における地域的連携が有用であると考えられる場合には、その分野における研究施設の構成を考慮し、研究領域評価※2を実施する。

今回の評価から、試験的に「フランスにおける専門分野に関するサマリー(des Synthèses disciplinaires nationales)」を作成する予定になっている。サマリーには、過去5年分の各専門分野の評価結果を参照することで、フランスにおける各専門分野の特徴やこれまでの評価結果が掲載される。今回は数学と考古学の2分野から開始し、今後は他の分野のサマリー作成に着手する予定。

なお、学術共同体評価が本格的に実施され始めたのが2016-2017年のサイクルであり、その導入からまだ日が浅いことから、HCERESは、評価実施後のフィードバックを重ねていくことにより、多様性に富んだ学術共同体に対応できる評価方法にするため、今後更なる改善を行っていくとしている。

※1…学術共同体評価では、学術共同体における地域的連携に着目した評価が実施される。評価結果を示す際には、地域的連携に関する評価報告書と、地域的連携の戦略に関する評価報告書の2種類が作成される。

※2…学問領域評価、研究領域評価では、学術共同体を含む総合評価実施を考慮し、包括的・効率的に評価できるよう、細分化された専門分野の評価を避け、専門分野の上位組織である領域ごとに評価を行うアプローチを取る。

※3…フランスでは、教育課程認定や学位授与権獲得のための機関別アクレディテーションは国が実施することとなっている。HCERESが実施する評価は、”evaluation”と位置付けられ、認定等は一切行わないが、その評価結果を国が参照し、教育課程認定や学位授与権付与を行うため、実質的には影響を及ぼすものとなっている。

原典:HCERES(仏語)

カテゴリー: フランス タグ: , パーマリンク

コメントを残す