大学であると偽り、価値のない学位を売る「ディプロマミル」への対策書
大学や企業の入学/採用担当者が対象
公的なホワイトリストを優先するなど、5段階の調査方法を提示
大学であると偽り、通用性のない学位を販売する「ディプロマミル」への対策をまとめたガイドブックが公表された。これは、2018年1月に終了した欧州6か国によるFRAUDOCプロジェクトの成果物である。本書は大学や企業で入学/採用希望者の書類を処理する職員を対象に、存在が疑わしい大学の学位を5段階で調査し(文末参照)、学歴詐称を未然に防ぐ方法が紹介されている。
各国で進むディプロマミル対策
ディプロマミルに対する取組みは、これまでも世界各国で行われてきた。欧州では、2014年に大学への出願書類審査のためのマニュアルが作成された(EAR HEIマニュアル;本サイト2014年12月26日掲載記事)。また、2016年にはイギリスの大学連合が運営するHEDD (Higher Education Degree Datacheck)が、大学と企業それぞれに向けた偽造書類対策用のツールキットを開発した(本サイト2016年8月30日掲載記事)。
アメリカでは、外国の学歴の審査を行う民間企業WES (World Education Services)が審査の際の原則をまとめた白書を公表している(本サイト2014年12月26日掲載記事)ほか、連邦教育省もディプロマミルを定義づけし(NIAD-QE国際課まとめ;p33参照)、学生や一般市民が巻きこまれないよう注意を呼びかけている。
日本の大学や企業も対応が求められる
一方、日本の大学の出願処理担当者に向けた2014年の当機構の調査(NIAD-QEまとめ資料;p5参照)では、海外からの出願書類の偽造を疑った経験のある職員は1割にも満たず(学士課程9%、大学院課程7%)、希薄な危機意識が浮き彫りとなった。
今回発表されたガイドブックによると、現在は各国政府、国際機関、高等教育機関、企業などが連携して悪意のある組織に対抗をはじめている。日本の大学や企業の担当者も本書に示された取組みを通じ、入学者や採用者の質を保証することが求められている。
◇出所不明の学位の調べ方◇
①提出された書類を丁寧に読む
- 特に注目すべき点:大学の名前とロゴ、教育のレベル、課程のレベル、授与された学位のレベル
②公的な情報から、大学の認可や適格認定の状況を調べる
- ブラックリストではなく、必ず公的なホワイトリスト*を優先
- ENIC-NARICのウェブサイトに各国の担当機関を掲載
*ホワイトリスト:その国での正規の高等教育機関やプログラムが列挙されたもの。特に、公的な情報源(例えば教育省)による公式のリストが望ましい。
※当機構のウェブサイト(NIAD-QE国際連携ウェブサイト)でも、各国で認可された高等教育機関・プログラムが調べられる公的機関のサイトを紹介しています。
③非公式情報にあたり、学校の合法性を判断
- その学校が正規の教育機関か判断する材料を集める
- 例えば国際大学協会(IAU)のデータベースを利用
④ブラックリストで確認する
- ブラックリストは「完成」することはない
- 虚偽の大学は改名を繰り返す
⑤ディプロマミルの典型的な特徴を確認する
- 米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA)のチェックリスト
- 適格認定の定期的な更新がない
- 学位取得にクレジットカード情報が必須
- 入学要件が不問
- 履歴書と自己推薦書だけで入学できる
- 学位取得までの期間が短すぎる
- 事務作業がすべてオンラインで完結
◇FRAUDOCプロジェクト
欧州委員会の助成を受け、欧州6か国が共同で臨んだディプロマミル対策を打ち出すためのプロジェクト。2016年2月から始まり2018年1月に終了した。イタリアのCIMEAが主導し、NARIC-Vlaanderen (ベルギー)、Danish Agency for Higher Education (デンマーク)、Archimedes Foundation (エストニア)、DGES – Unir for Recognition, Monility and International Cooperation (ポルトガル)、Swedish Council for Higher Education (スウェーデン)が参加。正式名称はGuidelines on Diploma Mills and Document Fraud for Credential Evaluators。