オックスフォード大学の教員がウールフ(Woolf)大学創立を発表
ブロックチェーンを用いたトークンで資金調達
スマートコントラクトで学生は教員と授業契約を結ぶ
ブロックチェーン*を使ったスマートコントラクト*で教員と学生が教育の契約を結ぶ大学。イギリス・オックスフォード大学の教員は「最初のブロックチェーン大学」であるウールフ(Woolf)大学の構想を、2018年3月に発表した。国名は非公表だが、2019年にはいずれかの国から学位授与権を取得し、正規の高等教育機関となる計画である。
この新設大学は、現状の大学での(1)学費の高騰と(2)教員の不安定な雇用環境の解決を目指す。大学は複数のカレッジで構成され、運営は独自トークン”WOOLF”を原資に行われる。
*ブロックチェーン(blockchain):中央集権的な機構がなく、外部に開かれている情報ネットワーク。各データの変更履歴は1本の鎖のように繋げられているため、元の状態に戻せず、改ざんができないとされている。ビットコインやイーサリアムといった仮想通貨に採用されている技術として知られる。例えば、ある取引がビットコインを介して行われた場合、取引内容はそのブロックチェーン上に記録され、記録内容の正当性は多数の第三者による確認をもって裏付けられる。この技術を応用し、通貨だけでなく不動産登記をはじめとした種々の情報に対する利用が世界中で模索されている。
*スマートコントラクト:プログラムを通じて自動的に処理される契約。あらかじめ設定された内容が実行されると、自動的に対応処理が行われる。今回のケースでは、例えば、教員がチュートリアルを行うことで学生は単位を取得する。ブロックチェーンを使うことで、契約内容や履行状況の改ざんが防止される。
最初のブロックチェーン大学
すでに教育分野でのブロックチェーン技術の活用は実施されている。例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)は一部課程の卒業生にはブロックチェーンを用いた学位が授与されている(本サイト2017年11月17日掲載記事)。また、マルタ政府は中等教育以降の国民の学習歴をブロックチェーン上で管理する計画である(本サイト2017年11月28日掲載記事)。
しかし、トークンやスマートコントラクトを活用し大学の運営にブロックチェーンを利用するという点で、同大学は「最初のブロックチェーン大学」を名乗っている。
高騰する授業料への対応
ウールフ大学での教育は、学生1名または2名と教員が対話するチュートリアル形式で行われる。チュートリアルはキャンパス内でもオンラインでも可能であり、学生も教員も校舎にいる必要がない。その回数は既存の大学と同じく、1年間で「週2回のチュートリアルx8週間x3学期」が標準となる。
計画によると、チュートリアル1回あたり最低150USドル(以下、ドル)と設定されているが、同大初のカレッジとなる予定のアンブロース(Ambrose)校では400ドルとなる見込みである。
この授業料は他の大学と比較しても充分競争可能な金額とみられる。チュートリアル1回150USドルであれば年間授業料は7,200ドル、400ドルであれば19,200ドルである。Times Higher Educationによると、アメリカの州立大学の年間授業料は、州内在住者であれば9,650ドルだが、州外からの入学者の場合は24,930ドルである。また、オックスフォード大学の年間授業料は国内学生は9,250ポンド(約13,070ドル)で、外国からの学生は最低23,800ポンド(約33,630ドル)である。
仕事の見通しが立つ雇用へ
また、同大学は「学位課程のエアビーアンドビー(Airbnb*)」を標榜しており、学生が教員からチュートリアル時間を直接購入する仕組みを取る。まず、教員はチュートリアル可能な時間を公表する。すると、学生はリストの中からチュートリアル枠を購入し、その時点で契約となる。
チュートリアルが実施されると契約履行となり、電子決済であれば授業料の支払いが即時に行われる。この契約の締結から履行までは、ブロックチェーンを用いたプログラム、いわゆるスマートコントラクトで実行される。
ウールフ大学は、大半の教員が有期雇用である世界の現状を問題視している(例えば、オックスフォード大学では63.7%の教員が該当)。その解決のため、教員が将来の仕事の見通しが立てられるチュートリアル単位での契約と、現在の居住環境を変える必要のないオンライン教育環境を活用する意向である。
*Airbnb:自分が居住する家の空き部屋などを、個人が旅行者や出張者に貸し出すサービス。貸し手の予定に合わせて利用者間で契約を結ぶ仕組みが、ウールフ大学のチュートリアル契約と類似する。
大学職員は不在に?!
スマートコントラクトはチュートリアル契約にだけ用いられるのではない。ウールフ大学では、大学の基本的な事務作業もスマートコントラクトを用いて業務委託する。そのため、1つのカレッジに配属する事務職員は学生1000人に対して1名とし、将来的には事務職員のいない大学を目指す。
運営に独自トークンWOOLF
授業料の支払いなどは、大学が独自に発行するWOOLFと呼ばれるトークンで行われる。このトークンはブロックチェーン技術を用いた暗号通貨であり、ビットコインなどと同様に各国の法定通貨と交換することができる。同大学の白書によると、発行されるWOOLFの最大20%は一般に販売される計画である。
第1号カレッジが年内に開校
ウールフ大学を構成するカレッジとしては、オックスフォード大学の教員を中心に構成するアンブロース校が2018年の第3四半期に開校する予定である。さらに、ケンブリッジ大学の教員が創設するカレッジも開校することになっている。また、これ以外の既存の大学も、同大学下のカレッジに参加できるようにする予定である。
質保証に関しては、国名は明らかではないものの、2019年には同大学の学位がいずれかの国で法的に承認される計画にもなっている。その他の主な計画は下記を参照。
表:ウールフ大学の発展計画(同大学による白書から抜粋)
2018年 | 第1四半期 | ウールフ大学ウェブサイト開設
白書公開 |
第2四半期 | 初期投資者向けトークン販売
学位認証へ向けた法務処理開始 |
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第3四半期 | 学位目的でない学生の受け入れ開始(現地のみ)
トークン一般販売 第1号カレッジ、アンブロース校開校 |
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第4四半期 | 学位目的でない学生の国際的受け入れ開始
ケンブリッジ大学の教員による第2号カレッジ開校 |
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2019年 | 第1四半期 | 1か国以上で学位が法的に承認
同大学が最も望む国での学位の承認手続き開始 チュートリアル契約システムのブロックチェーン化 |
第2四半期 | 初期5カレッジの確立
世界大学ランキング(THE)上位200校のカレッジ参加開始 |
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第3四半期 | 語学学校開設 | |
第4四半期 | 出願システムと連携(UCAS, Common App, JUPASなど) | |
2020年 | 第1四半期 | 初期5カレッジで学生へのスマートコントラクト環境が完成 |
第2四半期 | ウールフ大学出版開設 |