2018年2月、欧州委員会(EC)は、資格の相互認証に関する意見公募を欧州地域で実施し、その結果に基づき、欧州高等教育機関協会(EURASHE)から声明文「A Bachelor is A Bachelor」が発表された。EURASHEとは、職業志向の教育を提供する欧州の高等教育機関の団体である。意見公募の内容は高等教育の資格認証における各国の優良事例や問題点、想定しうる解決方法等を問うものとなっていた。
意見公募で出た意見(一部抜粋)
資格認証における困難
- 同じ国の中でも高等教育機関ごとに異なった規則を適用しており、‘実質的な相違’※1に対する理解が異なる。
- プログラムで習得したコンピテンシーの証明が不足している(学習成果に対する考え方が関係する国で異なる)。
- ケースバイケースの対応が多く、明確な基準や質保証制度が欠如している。
- 高等教育機関における資格の認証が、「機関レベルでの認証」と「学部レベルで行われる入学審査における認証」に二分されている。
意見公募の中で示された問題の解決案(大学/高等教育機関レベル)
- 学習成果に対する概念の理解を促進するとともに、学習成果として捉えられるあらゆる概念を活用して資格認証に取り組むよう、促進する。
- 機関レベル(認証)とプログラムレベル(入学審査における認証)、それぞれのレベルにおける規制と手続きを両立させる。
- 学生移動を高等教育の国際化戦略を構成する要素として組み込み、資格認証をより重要なものとして位置づける。
- 資格の評価者が十分な外国語の知識と資格評価に重要なスキルを取得するよう、促進する。
EURASHEの声明文
資格の自動認証※2
教育制度等に類似性が認められる国同士での資格の自動認証を目指す。同時に欧州高等教育圏(EHEA)での資格の自動認証についても進めていく。なお、法的根拠を伴う資格の自動認証を実施するには政府間の合意が必要である。
高等教育へのアクセス、入学プロセスを国家レベル、機関レベルでそろえる
学術資格と職業資格を区別しない。欧州では学術志向の学士と職業志向の学士を授与する国の制度があるが、志向の違いで区別せず、学士は学士(A Bachelor is A Bachelor)として捉えること。
高等教育機関へのアクセスに関して、学生が自国において大学ではない高等教育機関に在籍し、外国で正規の大学に入学しようとする場合や、職業教育資格を有する学生が大学に入学しようとする場合に問題が生じやすい。
国境を越えた教育とモビリティ
モビリティに関与する主体の人材開発をより一層支援することや機関レベルにおける知見の共有を含め、ステークホルダーはモビリティの促進や資格の認証を目的とする既存のツールや制度を大いに活用すること。
ショートサイクルの資格※3の完全な認証を目指す
欧州高等教育圏(EHEA)の資格枠組において、ショートサイクルの資格をほかの資格から切り離された独立の資格として捉え、進学のための認証を受けられるようにすること。また、当資格の保持者が学士課程への入学を希望する場合、その資格を考慮した入学(advanced entry)を認めるようEURASHEは勧める。
欧州でも2020年までに資格の自動認証を行うことについて合意(本サイト2015/6/17投稿記事)がなされたほか、資格の自動認証については、ベネルクス3国(本サイト2018/2/5投稿記事)では確立している。また、EURASHEが上記の声明文で述べた事項に取り組んだ場合、欧州教育圏(EEA)(本サイト2018/2/19投稿記事)の創設にもプラスに働くとしている(EEAの目標の中では、モビリティの機会の創出や学位の相互認証も掲げられている)。なお、自動認証の進捗状況は、2018年5月24日から25日にかけてフランス・パリで開催される欧州高等教育大臣会合において協議される見込みとなっている。
※1実質的な相違:各国の高等教育について、制度面による違いではなく、学習内容面に起因する根本的な相違のこと。ユネスコの地域条約では、他の締約国から自国の高等教育機関への進学や就職を容易にするために、他国で授与されて、高等教育進学に必要な中等教育資格および高等教育資格について、実質的な相違がなければ、自国の類似した資格として認めて受け入れることとしている。
※2自動認証:あるレベルの資格を保有する志願者が当該国もしくは地域における次のレベルの学習プログラムに入学することのできる自動的な権利につながる認証のことである。例えば、A国とB国が自動認証に係る合意をしている場合、A国の学士は原則として個別審査をすることなく、B国においても学士と認められる。
※3ショートサイクルの資格:学士に満たない資格で、120単位未満の取得を伴うもの。