欧州質保証ガイドライン(ESG)の検証プロジェクト:政策立案者に向けた提言

欧州では、2005年に「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)」(NIAD-QE国際課まとめ)が採択され、2015年の改訂を経て、欧州地域の高等教育関係者間での高等教育質保証に関する共通理解を促進し、基準に達するための課題を共有する役割を担ってきた。しかし、高等教育の全てのステークホルダーがESGに精通しているわけではなく、また、質保証に対する視点やアプローチにも違いがある。

こうした中、高等教育の現場におけるESGの普及のために、*EQUIP(Enhancing Quality through Innovative Policy & Practice)プロジェクトが欧州委員会のErasmus +プログラムの協力のもと立ち上げられた。このプロジェクトでは、高等教育における質保証のステークホルダーに対し、ESG改訂後のインパクトについて2015年11月~2018年5月にかけて調査を実施した。

2018年2月、本調査結果の報告書が公表された。本報告書では、ステークホルダーごとの課題が示され、これらを克服することで質保証の有効性を改善できるとしている。ステークホルダーのうち、高等教育及び外部質保証の制度設計を担当する政策立案者(policy-maker)に対しては、以下のとおり、主に3つの提言がなされた。                                                                                    (以下、EQUIPプロジェクト報告書全体版「Enhancing Quality: From Policy to Practice」からの抜粋)。

*EQUIPプロジェクトとは、①ENQA(欧州高等教育質保証協会)、②ESU(欧州学生ユニオン)、③EUA(欧州大学協会)、④EURASHE(欧州高等教育機関協会)、⑤EQAR(欧州質保証機関登録簿)など8つの機関が共同で行っているプロジェクト。

質保証のツールごとの目的を意識し、活用する                         ・質の高い高等教育の発展に貢献するツールとして、ESGと質保証のほか、財政的支援や法と規制、資格枠組、学習成果、ディプロマサプリメント、教員のキャリア等もある。それぞれの役割の重複を避け、効率を高めるために、これらのツール間の相乗効果を考慮し、ステークホルダーの協力を得ることが重要である。                                                                                                         ・欧州高等教育圏(EHEA)において、質の高い、学生中心の学習を主流にするためには、政策、サポートサービス、設備等支援の基盤作り、継続的かつ専門的な教員の能力開発を同時に行うことが不可欠である。そのためには、質保証プロセスにおいて、教育(learning and teaching)を支援する必要があり、報奨(rewards)及びインセンティブの明確な質保証制度をつくり、教育機関と職員が質保証制度に関与することを奨励し、促進する仕組みとなっていることが重要である。

質保証の目的を明確にし、状況に応じて質保証制度を設計する                  ・ESGは、質保証プロセスは「プログラムの内容、学習機会、施設が目的に合った学習環境を確保するものであるべき」と述べている。質保証の主な目的は、説明責任と質の向上であり、ほとんどのEHEA諸国では両者が目的になっているが、どちらか一方のみの国もある。                                 ・政策決定者は全てのステークホルダーに外部質保証の目的と責任を明確にする必要がある。         ・政策決定者が外部質保証を設計する際には、教育機関が自らの固有の状況に応じて内部質保証を開発できるよう、質保証機関とも協力することが重要である。

質の高い教育の枠組みを提供するとともに、革新と創造性も可能とする外部質保証を                  ・法規制がESGを実践する障壁とならないことが重要である。目的に対して適切(fit-for-purpose)であるよう、外部質保証の法的枠組みを設計することが重要である。                                         ・質保証システムの実践に関与する全てのステークホルダーが、当該システムにしっかりと関与することが重要である。政策決定者は、質保証システムの設計において、質保証機関、高等教育機関及びその教員、学生・雇用主を含む全てのステークホルダーを参画させる必要がある。                           ・高等教育は、EHEAにおける社会的発展と経済成長に貢献する公共財である。そのためには、高等教育は変化する社会のニーズに常に対応していくことが重要である。政策決定者は、教育機関が質の高い教育を開発し提供できるだけの公的資金を確保すべきである。

 

原典:EQUIP(英語)

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