2019年4月3日、オンライン決済や送金の事業を実施しているPayPal社は、今後論文代行業者による自社のオンライン決済の利用を停止すると決断した。今回の決定は、英国教育大臣及び英国高等教育質保証機構(QAA)からの要請に応じたものである。
イギリスにおける学術不正問題
論文代行不正とは、主に論文など学生の単位認定や成績判定に用いられる課題について、学生が論文代行業者など第三者に依頼して作成したものを自らの成果として提出する行為を指す。 イギリスでは2016年のQAAの調査で年間約17,000件の学術不正(Academic Offence)が起きていることが発覚しており、なかでも論文代行不正(Contract Cheating)への対応は喫緊の課題となっている。最近では、顧客情報を公開しない見返りとして、論文代行業者が学生に多額の金銭を要求する事例も起きている。
PayPalが対策を講じるまでの経緯
1)2018年11月:QAAからの要請
論文代行業者が主にインターネットサイトを介して学生と接触していることを受け、2018年11月29日にQAAはGoogle、Youtube、PayPal、Facebook、Yahoo、Bingの6社に対し、論文代行業者の広告・宣伝の削除など、各社のサービスに応じた対策を講じるよう要請する文書を送付した(詳しくはこちら(2019/1/23本サイト投稿記事))。
この時、PayPalは論文代行業者によるオンライン決済の利用停止を要請されていた。 QAAによると、論文代行業者の多くはPayPalのようなオンライン決済を利用して学生から注文を受けているため、論文代行業者がPayPalを利用できなくなると、論文代行事業の継続に歯止めをかけることができる。ただし、6社のうちQAAの要請に応じて実際に対策を講じた企業はYoutubeとGoogleのみであった。
2)2019年3月:教育大臣からの要請
こうした状況を受け、2019年3月20日にDamian Hinds教育大臣は、イギリスの高等教育の質を守るため、特にPayPalを名指して、オンラインプラットフォーム上で論文代行業者による金銭の授受を不可能にするように求める声明を発表した。その結果、教育大臣による声明発表の2週間後である4月3日、PayPalはついに論文代行業者による自社サービスの利用停止を決定した。
大学にも求められる論文代行不正への対策
なお、教育大臣は3月の声明の中でオンライン事業会社だけでなく、大学にも対策を講じるよう求めており、特に「Honour Codes」と呼ばれるルール設定の検討を呼び掛けている。Honour Codesとは主にアメリカの大学で普及している制度で、大学ごとに設定した学生が在学中守らなくてはならないルール( 例:論文代行を依頼しない)を順守することを、学生に誓約書へ署名させるものである。
イギリス(イングランド地方)の大学が学生の利益に反する対応を行っていると判明した場合 、学生局が管理する高等教育機関登録簿(本サイト2018/9/11投稿記事)の登録が条件付きとなるか、財政的な罰則を科される可能性がある。特に深刻な事例の場合には学生局により大学の登録を抹消される。