米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA)は2019年3月に行われた資格証明書の電子化と質保証に関する会合をもとに、2019年9月、短期教育プログラム(short-term educational experiences)の質をテーマとした文書「Digitization of Credentials: Quality of Shorter-Term Educational Experiences」を発表した。
CHEAによると、大学等における従来型の教育形態によらない、短期的に提供されるプログラムが近年増加しており、マイクロクレデンシャル※1をはじめとする学習修了証明が電子証書として多く授与されている。
以下では本文書を基に、短期教育プログラムについて、教育の質を決定づける要素や適切なプログラムのレビュー形態に焦点を置いて、概要をまとめた。
多種多様な短期教育プログラム、提供数の増加と資格証書の電子化
短期教育プログラムはプログラムの内容、期間、提供方法において多様である。また、技術的な前進と短期教育プログラムの需要増加によって、今後、短期教育プログラムの提供は急速に進むとみられる。
さらに、多くの短期教育提供者は電子的に署名された証書を発行している。米国のNGOで証書を一元化する団体Credential Engineには、高等教育機関、企業、質保証機関等から719件の電子証書※2がエントリーされている。米国では米国内の大学・カレッジでの学習者の学習歴を電子的に確認できるComprehensive Learner Records(CLR)があり、大学等での教育は当然のことながら、大学外の就職に向けたスキル開発のためのコースもこのシステムで管理できる。欧州においてはEuropass※3が改良されており、欧州地域での共通様式の提供という従来の目的に加え、新しいEuropass(New Europass Framework)では第三者が承認し、発行者が電子署名した証書を学習者が所有することを想定している。
様々な方法で提供される教育の質を示す15の要素
CHEAの文書では、短期教育プログラムの増加に伴い、その質保証が問題になると述べた上で、プログラムの質を示す教育の質の要素を以下のようにまとめた。 これらは教育の提供方法・レベル 、プログラムの期間の長さに関わらず、質を推察するヒントになる。
教育の類型(Typology)
- 提供者のミッションステートメント
- 資格枠組におけるレベル
- 教育の志向性(例:研究志向、職業志向)
- 学習量(平均学習量、単位数)
- 学習成果の説明指標(descriptor)(知識、技能、責任・自治の程度)
- 定期試験
- 証書、ディプロマ・サプリメント、バッジなど学習を認定するもの
利用状況(Appreciation)
- 学習者によるプログラムの利用状況
- 当該学習で得た資格を正規の学位プログラムの一部として認める高等教育機関
- 雇用や昇進の目的において、当該資格を推薦する雇用主や職業団体
- 職業的な発展やライセンスとしての目的で当該資格を受け入れる職業団体
評判(Reputation)
- 教育・研究における教育提供者の過去の業績(ランキングや研究の引用件数)
- 提供者間の連携関係や協働関係
学習者の情報(Learner information)
- 学習者の身元情報(identification)
- 提供者間の連携関係や協働関係
ただし、短期教育プログラムをレビューする際は、「教育制度における当該教育の位置付け(situating the experience)」に注目することが期待される。提供される教育の正確なレベルや入学要件、証書の真正性を検証することがより重要となる一方、レビューで最も重視する点は学習成果である。
教育をオンラインで提供する場合は、教育提供者と評価機関(accreditor)がオンラインでの教授方法などに関して、特定の知識や専門性を開発することが求められる。
短期教育プログラムの質保証
増加・多様化する短期教育プログラムは、正規の高等教育の範囲の外であっても、質保証が必要となる。質保証機関等は将来的にはあらゆる段階の教育プログラムに対する質保証を包括的に行うべきであり、短期教育提供者は提供する教育プログラムの質を重視することで得られる利益を考え、信頼できる評価機関(accreditor) や質保証機関のレビューを受けるべきである。
一方で、2014年にCHEAとCHEA International Quality Group(CIQG)が開発したCHEA/CIQG Quality Platform(本サイト2016/2/25投稿記事)は、2018年から電子証書にも対応し、短期教育プログラムの質保証において強力な役割を果たしている。
オンライン教育に対する質保証について、香港ではオンライン教育プログラムのアクレディテーションの場合には、通常のプログラムのアクレディテーションに加え、追加資料を求めている(本サイト2018/7/11投稿記事)。
日本ではオンライン教育の質保証に関しては、大学通信教育設置基準が制定されている。また認証評価においては、オンライン教育に特化した枠組みはなく、通常の認証評価の枠組みの中で評価が行われている。
※1マイクロクレデンシャル(Micro-credentials)
一般的に、学位取得を目指す学習よりもより細かく区切られた学習単位であり、個別に大学などの主体が認証したものとされる。詳細な定義は各国・地域で異なり、名称についてもバッジやナノディグリー等、様々である。オーストラリアでは、バッジを集めることによって学位取得が可能な大学もある(本サイト2015/9/3投稿記事)。ニュージーランドでは2018年8月にマイクロクレデンシャル(Micro-credential)をニュージーランドの教育・訓練制度として正式に位置づけており(本サイト2018/9/12投稿記事)、短期教育プログラムで得られる資格であっても、単独で資格として承認される場合もある。
※2電子証書
電子的な形式で発行され、電子媒体で提供・共有される証書のことである。オンラインで提供される教育の場合には、修了証を電子的に発行することによって、学習から修了証の受け取りまで一貫してオンライン上で完結するため、オンライン教育になじみやすい形式であるが、近年では、その利便性から、海外の大学等ではセキュリティを強化して、大学等が伝統的に提供してきた学位取得を目的とする課程の修了の際も電子証書を発行する例が増えつつある。
※3Europass
欧州規格の職務経歴等の書類であり、Europassは職務経歴書の他、各人の外国語能力を示すLanguage Passportや学習内容を説明するディプロマ・サプリメント等、複数の書類で構成されている。
原典:Council for Higher Education Accreditation(英語)