中国:2018年全国高等職業教育機関評価の結果公表

中国の高等職業教育機関を対象として、高等職業教育が社会の需要にどのくらい対応できているかに重点を置いた機関別評価の第2サイクルとして2018年に実施された、全国高等職業教育機関評価(原語:高等职业学校适应社会需求能力评估)の結果報告書が上海市教育科学研究院から発表された。高等職業教育機関は、高度な職業人材の育成を目的として、実践的な教育を主としたカリキュラムと、実習環境や設備を備えた2年から3年制の教育機関である。4年制の大学と比べ、より短期間で、社会の求める専門知識や技能を備えた人材を輩出する役割を担っている。

 中国では、産業技術の高度化に伴い、高度な専門人材育成が急務となっているなか、急激に高学歴化が進んだ反面、学歴に見合った職が見つからない就職難と雇用者が求める人材が不足するという求人難が混在する状況に陥っている。
 今回の評価では、こうした状況を改善するため、高等職業教育の質の向上を図り、より優秀な学生を高等職業教育機関に集め、社会のニーズに適応した人材育成を実現させることを目指している。

報告書では、全国の高等職業教育機関全体の状況をとりまとめ、その分析結果として、学生一人当たりの教育設備の予算投入の増加や、教員の能力向上への取組み、地域の基幹産業への貢献、実践的教育による学生の就職力の向上などの改善された点が挙げられている一方、機関間において様々な面で格差がみられるなどの問題点も指摘されている。当該評価は中国の最高行政機関である国務院が第三者機関である上海市教育科学研究院に委託して実施したもの(本サイト2019年3月29日掲載記事)で、全国合わせて1,300以上の高等職業教育機関が受審した。

プロセス

評価は、以下のような段階を踏んで実施された。

分析結果

全国高等職業教育機関評価の国全体の評価結果について、上海市教育科学研究院から以下の分析結果が発表された。

【改善された点】

  1. 学校運営条件の改善:学生一人当たりの教育設備の予算投入の増加、教員の理論教育及び実践教育の能力向上
  2. 産学連携の深化:産学連携で設置する校外実習拠点の増加、企業からの校内実習設備の提供の増加、企業からの兼任教員の派遣の増加。
  3. 産業の発展への適応能力の向上:地域の基幹産業の発展に対応した専攻の設置を重視した結果、サービス業、新興産業、一般消費者の需要に関連する分野の専攻の増加。
  4. 高等職業教育機関の社会貢献度の向上:地域社会向けの職業訓練と企業への技術サービスの提供により特に中小企業の技術開発、製品のレベルアップへの貢献、地域の中小企業への良質の労働力の提供の増加。
  5. 職業教育による脱貧困:深刻な貧困地区において職業教育により脱貧困に貢献。地域の高等職業教育機関の人材育成に加え、沿岸部の各省の機関も内陸部の貧困地区の学生を受け入れ。
  6. 実践教育による学生の就職能力の向上:校内の実習設備、実習拠点の増加により学生の実践能力の養成を促進。

【改善を要する点】

  1. 社会へのサービスの提供能力の不足:政府調達による各種サービスや、科学研究プロジェクトを実施していないなど、社会への貢献力が低い機関が多く存在する。
  2. 学校の運営条件の不備:学生数、学生1人当たりの面積、教育設備の金額、実習設備の数について、一部の機関が合格基準を満たしていない。
  3. 経費投入の不均衡:公立高等職業機関の間に学校運営経費の投入額の不均衡が存在。全体として、多くの機関において経費の投入が低い水準にあり、特に私立高等職業教育機関では経費の投入が極端に少ない機関が多く存在する。
  4. 教員の数と構成の不備:学生数に対する教員数の不足、専任教員の不足、理論教育と実践教育の能力を兼ね備えた「双師型」教員の不足などの問題を抱える機関が存在する。
  5. アカウンタビリティの不備:自己評価書を自機関のウェブサイトで公開していない機関が多く存在する。

分析結果に基づく今後への提言

上海市教育科学研究院は本評価結果を踏まえ、今後の高等職業教育の発展のため、国に対しては、高等職業学校の設置基準と学校運営指標の見直しを、地方政府に対しては、財政支出の強化、産業の急速なレベルアップ、AIなど社会経済の急速な変化への十分な理解、産学連携推進政策の実施を、教育機関に対しては、産学連携への積極的な取り組み、教員と企業との人的交流メカニズム構築、教員による研究・開発に対するインセンティブの付与などの提言を行っている。

原典:教育部 (中国語)①
   教育部 (中国語)②

   

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