サブスク型も支援:米教育省、オンライン教育への規則を改正。来年7月から施行へ

アメリカ教育省は2020年8月24日、学生向け奨学金の支給対象となる高等教育プログラムの要件の変更を発表した。今回の変更では、遠隔教育、直接評価(direct assessment)を行う教育、サブスクリプション型教育などを対象に、定義の明確化や要件の緩和が行われる。アメリカでは、奨学金の支給要件は連邦行政規則(CFR: Code of Federal Regulations)に定められており、教育省は2018年から規則改正に向けた手続き―negotiated rulemaking―を進めていた。改正規則は、新型コロナウイルス対策に関する一部をのぞき、2021年7月1日に施行される。

オンライン教育の定義明確化

今回の規則改正は、オンライン教育が奨学金の支給対象となるための条件があいまいだという指摘に対応する。これまでCFRでは、オンラインなど通学を伴わない教育のうち、「遠隔教育(distance education)」に該当すれば奨学金の支給対象としてきた。現在の遠隔教育の定義は以下のようになっている。

遠隔教育:教員から離れた場所にいる学生へ、定期的で重要な(regular and substantive)両者間の交流(interaction)を維持するために、同期または非同期に下記のテクノロジーを利用する教育

  1. インターネット
  2. オープンブロードキャスト、有線、ケーブル、電磁波、ブロードバンド、光ファイバー、衛星、またはワイヤレス通信の機器を用いた一方向と双方向の通信
  3. 音声会議
  4. 上記1-3と共に用いられるVHS、DVD、CD-ROM
(連邦行政規則第34章第600条2項、p78)

しかし、どうすれば教員と学生の交流が「定期的で重要」とみなされるかは明確ではない。オンライン教育を提供するウェスタンガバナーズ大学*1は、遠隔教育の定義にそぐわない教育を提供していたとして、国からの奨学金を受ける学生から受領した授業料7億ドル以上を返還するよう教育省から請求されたことがある(本サイト2019年3月12日掲載記事)。しかし、同省はその後、遠隔教育の定義がはっきりしないことを理由の1つとして、この請求を取り下げている。

来年から施行される規則では、遠隔教育の定義そのものに変更はないが、下記5条件のうちの2つを満たすことで「定期的で重要な」交流が達成されると明記される。

  1. 直接指導の提供
  2. 学生の課題の審査またはフィードバックの提供
  3. 科目またはコンピテンシーの内容に関する情報提供または質問への回答
  4. 科目またはコンピテンシーの内容に関するグループ討議の実施
  5. 機関または課程のアクレディテーション機関によって承認されたその他の活動

さらに、教育機関が教員/学生間の定期的な交流を徹底することも明言される。

*1ウェスタンガバナーズ大学 (Western Governors University):1997年に19州の知事が、州内の労働力需要に応えるために設立した私立大学。就労や家事などと並行しながら10万人の学生に学位を提供することがコンセプト。オンラインでコンピテンシーにもとづく教育が展開されている。

直接評価課程の要件緩和

高等教育にかける時間と費用の削減を求める学生からのニーズの高まりを受け、大学が直接評価課程を設置するときの手続きも緩和される。

直接評価は、教育プログラムの中で伝えられる知識について、学生が何を知っていてどのようなことができるかを、何らかの形で表に出させて評価するものである。例えば、プロジェクト、レポート、試験、発表、実演、ポートフォリオなどが評価に用いられる。

直接評価課程はいわゆるコンピテンシーにもとづく教育(CBE*2)(本サイト2014年10月31日掲載記事)の1つであり、学生はいくつもの直接評価を通して学位に必要なコンピテンシーの取得を証明していく。これは、決まった時間に開講される授業を履修し、授業時間にもとづいた単位を積み重ねることで学位を取得する仕組みとは異なり、学生個人のペースで学習できる点を特長とする。

これまでの規則では、直接評価課程として政府奨学金の支給対象となるには、教育長官による課程の設置承認が必要だった。しかし規則改正により、すでに承認されている直接評価課程がある大学は、それと同じか下位の学位を提供する新しい直接評価課程の設置には長官の承認が不要となる。

*2CBE: competency-based education

サブスクリプション型課程の定義づけ

従来の規則では、CBEの課程が奨学金の支給対象となるには制限があった。当該課程は、①課程の始期と終期が決まっている、または②学生が決められた量の課題を終え、かつ決められた期間が経過して、はじめて奨学金が支給されることになっていた。

しかし、多くのCBE提供大学では、実際には、決められた期間ごとに一律の授業料を徴収する。例えば、ウェスタンガバナーズ大学の学士課程では、分野によって6か月あたり3,225-3,550ドルの授業料となっており、この期間内にいくつでも課題に取り組むことができる。

そこで、改正規則では学生が一定の単位*3(credit hour)を修得した時点で奨学金が支給されることになり、所定の期間の経過は条件ではなくなった。このような教育課程は、サブスクリプション型課程(subscription-based program)という新たな用語として定義される。

*3奨学金の支給対象となるには、直接評価課程の場合でも、課題ごとに相当する単位数を設定しなければならない。

原典①:Federal Register (英語)
原典②:教育省 (英語)
原典③:教育省(英語)

カテゴリー: アメリカ合衆国 タグ: , パーマリンク

コメントを残す