教育省がウェスタンガバナーズ大学(WGU)への奨学金返還要求を取り下げ
オンライン教育が奨学金支給対象となるには、「遠隔教育」の提供が必須
省内で判断を見直し、WGUの教育が「遠隔教育」であると認める
アメリカ教育省の奨学金局(FSA office)は2019年1月11日に声明を発表し、ウェスタンガバナーズ大学(WGU: Western Governors University)に対するおよそ7億1,260万ドル(約791億円)の奨学金の返還要求を行わないことを表明した。すべての教育をオンラインで提供する同大学に対しては同省監察総監室(OIG: Office of Inspector General)が2017年に監査を行い、学生の半数以上が「遠隔教育(distance education)」の定義にそぐわない教育を受けているとして、受領済みの7億ドル以上の奨学金の返還を要求するよう奨学金局に要請していた。しかし、省内で監査報告の見直しを行った結果、監査当時の遠隔教育の定義が曖昧であり、WGUはその教育が奨学金の支給対象となるよう最大限努力していたことを認め、返還を求めない決定を下した。
WGUは1997年に国内19州の知事が創ったコンソーシアムによって設立された私立の非営利大学。オンライン大学として、学士、修士、博士の学位を授与している。修業年限はなく、定められた審査にすべて合格すれば在学期間に関わらず卒業できる、いわゆるコンピテンシーにもとづく教育(CBE: competency-based education)の先導的役割を果たしている(本サイト2014年10月31日掲載記事)。
遠隔教育でなければ奨学金が支給されない
オンラインを含む通学によらない教育には、政府からの奨学金の対象となるための特別な規制が設けられている(本サイト2013年11月20日掲載記事)。連邦行政規則(CFR)第34章602条3項では「通信教育(correspondence education)」と「遠隔教育」が定義されているが、このうち後者のみが奨学金の支給対象となる。2つの教育の違いは学生と教員の交流(interaction)の性質にあり、通信教育では交流は「限定的、不定期、副次的なもの」とされるのに対し、遠隔教育では「定期的で重要(regular and substantive)」でなければならない。しかし、どの程度定期的で重要な交流があれば遠隔教育とみなされるのか、監査当時は教育省が見解すら示していなかったことが、今回の返還要求撤回につながった。
オンライン教育の定義:香港と日本
オンラインでの高等教育に対する定義は、世界的に統一されていない。香港では2018年4月からオンライン教育課程の適格認定が始まったが、認定を行う香港学術及職業資歴局(HKCAAVQ)では50%以上の授業をオンラインで提供している課程を審査の対象としている(本サイト2018年7月11日掲載記事)。審査は通学型の課程と同じ基準が用いられ、オンライン教育に必要な観点が補足される形となっている。
日本では大学通信教育設置基準が定められているが、これによると学部卒業に必要な124単位のうち30単位以上は「面接授業又はメディアを利用して行う授業」により修得する必要があり(第6条2項)、この部分で学生と教員間の交流が図られているとも取れる。この30単位分は、従来は通学しての授業が行われる例が多かったが、近年ではインターネット配信により100%オンラインで受講できる大学も出てきている。
このように、オンラインで行われる高等教育であっても、学生と教員間の交流やオン/オフラインの割合などにより正規の教育とみなされるための定義は各国・地域で異なっている。アメリカ議会では遠隔教育に対する定義を見直す動きも出ており(本サイト2018年1月23日掲載記事)、テクノロジーの発展に伴い従来の教育の形態も変わりつつある。
原典①:U.S. Department of Education (英語)
原典②:U.S. Department of Education (英語)