高等教育法の再授権、米国は規制緩和へ舵を切るのか? ―2大政党による議論がスタート

2017年12月1日、米国下院にて、下院教育労働委員会の議長であるVirginia Foxx氏ら共和党議員は、高等教育法の再授権※1に向けた「教育改革を通じた機会、成果、成功の促進法案」(以下、プロスパー法案)を提出した。なお、前回の高等教育法の再授権は2008年になされた。プロスパー法案には民主党からの意見は反映されておらず、今回の法案の提出は、これから始まる長い審議の第1歩目といえる。

1.規制緩和をめざす、高等教育法の再授権

高等教育法は連邦奨学金制度やアクレディテーションに係る規則を含んでおり、その再授権は、学生が就学する上でどれだけ学費を負担することになるか、また大学がどのように評価されるかについて大きく影響を与える。

プロスパー法案には、連邦奨学金プログラムの簡素化、プログラムの情報提供に係る規制(Gainful Employment Disclosure)※2等の廃止、学生の支払い能力に応じた奨学金支給の適格性判断の実現が目指されており、また、共和党が従来主張してきた、営利大学やオンライン教育提供者への規制緩和、及び見習い制度や職業訓練への公費による新たな支援を行うとしている。

また、ホワイトハウスも法案提出の同日に、再授権におけるホワイトハウスの優先事項に関する書簡を発表しており、規制緩和ひいては教育に関する権限の州政府への移譲等を求めている。

2.コンピテンスベース教育や短期プログラムへのインセンティブ

プロスパー法案は、産業界のニーズをより反映させたコンピテンスベース教育や短期プログラム※3等をより促進するものである。

具体的には、プロスパー法案には、単位時間に関する定義を変更する内容が含まれている。既存の法では、コンピテンスベース教育課程が連邦奨学金の支給対象となるには、①アクレディテーションの取得と、②直接評価※4と単位時間との同等性について、アクレディテーション機関との間での合意が必要であるとしているが、プロスパー法案では、直接評価と単位時間との同等性は要求されない。

また、遠隔教育に関する定義を変更する内容も含まれており、プロスパー法案では、通信教育(correspondence-course)との違いに関する内容以外の規則は削除されている。

3.質保証上の懸念、アカウンタビリティの転換

プロスパー法案はイノベーションを推進するものであるが、一方で質の低い教育提供者を判別する最低限の基準を欠いていると懸念する声も上がっている。

プロスパー法案は、その詳細部分については大学や学生支援団体の支持を得ているとはいえないという。米国教育協会(American Council on Education: ACE)会長のTed Mitchell氏は、大学や学生は「この法案が、数十年間にわたり連邦政府が目指してきた、質の高い学士・修士教育を支援する政策を反故にしてしまうのではないかと深く憂慮している」と述べている。

具体的には、オバマ政権時には、職業教育プログラムについては卒業生の返済能力に問題があるとして連邦奨学金の支給対象外としてきたが、本法案ではこれを支給対象としており、政策の転換についてどのようにアカウンタビリティを果たすかが注目される。

また、米国ではマイノリティに対して様々な奨学金が提供されているが、本法案では、マイノリティへ教育機会を提供している機関に対して、年6億ドル以上の奨学金が支給されている場合、奨学金の支給要件がより厳しくなる新基準を導入するとしている。

このように、プロスパー法案は、学生が順調に卒業しローンを返済していることに対する大学のアカウンタビリティをどう果たすかについて、議論を再構築する点で大きな変化をもたらしている。

4.アクレディテーションへの影響

プロスパー法案は、連邦政府のアクレディテーション機関の認証基準において「学習成果・教育成果」を重視した評価を求めている。具体的には、施設や設備、学生支援及びプログラムの継続性などに関する基準が削除されている。

その他、アクレディテーションに直接影響する内容として以下のものが挙げられる(抜粋)。

・ アクレディテーション機関はコンピテンスベース評価を実施できるかどうかについて示さなければならない。

・ 高等教育機関におけるイノベーションを支援するため、特定のアクレディテーション基準について免除することができる。

・ 新たな教育省長官は、アクレディテーション機関の認証に関して、大学の質に関する国家諮問委員会(National Advisory Committee on Institutional Quality and Integrity: NACIQI)の委員を交代させることができる。また、NACIQIの役割はアクレディテーション機関の認証に関する諮問に限定される。

なお、これらの内容は、4月に発表されたCHEAの政策方針書の内容(本サイト2017年5月2日掲載記事)と重なる点も多くみられる。

※1 授権法とは、連邦政府の組織又はプログラムを設立又は継続するための法であり、当該組織やプログラムの活動・適用条件について定め、その予算執行法の制定について授権を行い、予算執行の方法を明らかにするものである。授権法には、再授権を要するものもあれば、要さないものもある。
※2 連邦政府の奨学金プログラムに参加している高等教育機関に対し、入学希望学生に機関が提供する有益な雇用につながるプログラムに係る情報を公表することを求めるもの。詳細はこちら
※3 ブートキャンプに見られるような、学位課程よりも就学期間が短く、産業界に必要とされる知識・スキルを磨く教育プログラム。詳細についてはこちら(本サイト2016年12月7日掲載記事)。
※4 コンピテンスベース教育課程において、課題に対するパフォーマンスによってコンピテンスの取得を判断する評価。評価の手段としては、研究プロジェクト、論文、試験、プレゼンテーション、実技、ポートフォリオなどがある。 (本サイト2014年10月31日掲載記事)

原典①:Inside Higher Ed(英語)
原典②:Inside Higher Ed(英語)
原典③:CHEA(英語)

 

カテゴリー: 米国 タグ: , , , , , , パーマリンク

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中