新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、海外の質保証機関では評価でオンライン方式を取り入れる取組が広がっています。たとえば、従来評価対象機関を実際に訪問して行われていた訪問調査もオンラインで行われるわけです。では、オンラインで訪問調査を行う場合、どのような点に留意する必要があるのでしょうか。
欧州では、欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)により、本来は実地での訪問調査が原則となっています。しかし、ウイルス感染の拡大を受け、欧州高等教育質保証協会(ENQA)などは、オンラインで代替することや、評価の実施を延期したり、認定期間を延長したりするのも、ESGの下で認められるという声明を発表しています。
2020年6月にはENQAがオンライン訪問調査に関するウェビナー「ENQA Webinar: Online Site Visits in Times of COVID-19」を開催し、ドイツ、スペイン、スイス、イギリスの質保証機関がそれぞれの経験を交換しました。そのなかでENQAは、学生を含めた外部委員による調査の実施、独立性・専門性の確保といった、訪問調査の原則はオンラインであっても変更はないと明言しました。
ウェビナーのなかで指摘されたオンライン訪問調査の留意点は、以下のようなものでした。
事前の準備とフォローアップ
オンラインの場合、通常よりも事前準備を入念にする必要があります。とくに有効なのは、事前に評価者同士が面識を持っておくことや、関連情報を共有しておくことです。また、訪問調査中だけでは評価者間での打合せ時間が足りませんので、別途打合せの時間を設けることも一案です。
オンライン訪問調査は短めに
オンラインでの調査は通常の実地調査よりも疲れやすいため、スケジュールを短くするのが望ましいこと、面談などが長びく場合には休憩を適宜挿むことがよいようです。また、評価者の人数を絞り、各々が十分に発言できるように工夫するという例もあります。
使用するプラットフォームの選定
オンライン訪問調査に不可欠なプラットフォームを選ぶにあたっては、秘匿性やプライバシー確保に留意するべきです。また参加者に対してプラットフォームの操作等に関する研修を行うことも大事です。さらに、安全性や利便性を考慮することも必要でしょう。
オンライン訪問調査には効用もあります。たとえば、実地調査が不可欠かそうでないかが明確化することがありますし、何よりも旅費等の経費削減につながります。
また、今後の質保証に関しては、質に対するリスクが高い機関には実地調査、低い機関にはオンライン調査といった、リスクベースのアプローチを取り入れることや、実地調査とオンライン調査を組み合わせた方式を新たに検討することが、今後は大事な課題になるでしょう。
(文責:M.M.)