中国:職業教育法が改正

2022年5月1日に中華人民共和国職業教育法が改正・施行された。1996年の制定以来、26年ぶりの改正である。近年、世界的に技能人材の需要が高まる中、中国政府は職業教育改革を推進し、職業教育の本科課程(学士課程レベル)の設置、職業教育機関と企業の連携促進などの改革を進めてきた(本サイト2014/7/29投稿記事)。職業教育法の改正により、それらの内容が法的に位置づけられることとなった。

今回の改正で「職業教育は普通教育と同等である」と明記されたことが、中国国内では特に注目されており、学歴重視の中国社会では職業教育が軽んじられてきた経緯があるため、特徴的なこととして捉えられている。

全8章69条の中から、今回の改正で特徴的な事項を関係条文のポイントの抜粋とともに紹介する。なお、関係条文の仮訳は本記事の最後に記した。

職業教育を普通教育と同等の教育と位置付ける。

  • 職業教育は、普通教育と同等※1の教育であり、就職や起業を促進するためにも重要である(第3条)。

    ※1 職業教育は普通教育よりも低いレベルであるという一般認識があることから、あえて本法では「同等である」と明記されている。職業教育と普通教育という種類の違いであって、優劣の差はないということを示している。

教育部所管の職業教育と人力資源社会保障部所管の職業教育の同等性を明確にするとともに、民間機関による職業教育も認める。

  • 中等職業教育は高校レベルの教育※2であり、人力資源社会保障部が所管する職業訓練を主とした技工学校も中等職業教育に含まれる(第15条)。
  • 技工学校の高等教育レベルに相当する技師学院は、条件を満たせば高等職業教育に位置付けられる(第15条)※3
  • 職業教育機関以外の民間機関(企業や業界団体)も教育部の計画に沿っていれば職業教育の実施が可能である(第15条)。

    ※2 中国の中等教育は、後期中等教育から普通教育(原語:高级中学→普通高校に相当)と職業教育(中等職業学校)に分かれる。かつては、普通教育のみが高校教育を行っているというのが一般的な認識であったが、近年では、中等職業学校も高校レベルの教育として位置づけられている。今回はそれが本法に明記された。

    ※3人力資源社会保障部の所管である技工学校は初級レベルの技能訓練、技師学院は中級・上級レベルの技能訓練を行う学校という位置づけであり、教育部所管の職業教育である中等職業教育(職業高中と中等専業学校)、高等職業教育(高等職業学校と高等専業学校)とは区別されてきたが、今回の改正では、技工学校を中等職業教育と位置づけ、技師学院については条件に応じて高等職業教育に位置付けるとした。

学修成果の相互認定システムを構築する。

  • 各種各レベルの学校教育や職業訓練によって取得した単位、資格及びその他の学修成果を認定、累積、交換するシステムを国が構築する。職業教育国家単位銀行※4を設立して、職業教育と普通教育の学修成果を相互に認定する。(第17条)。

    ※4現状としては、職業教育国家単位銀行(原語:职业教育国家学分银行)のウェブサイトに、職業教育機関のリストが掲載されており、各職業教育機関が単位に読み替えることが可能な職業資格と単位数および手続きの方法が公表されている。

国、地方政府、民間が連携して職業教育を実施する。

  • 政府と民間団体が連携して社会のニーズに応じた専門分野の構築と教材の開発を行い、ICTを取り入れて職業教育の情報化を図る(第20条、第31条)。
  • 地方政府(県政府以上)が、基幹となる職業教育機関の設立に関与し、また、その他の職業教育機関への支援も行う(第21条)。国は産業の分布とニーズを把握し、先進的な製造業が要する新たな専門分野の構築を支援する。また、これまで専門教育が手薄だった託児、介護、保養※5、家政分野の技能人材の育成を急ぐ(第21条)。
  • 地方政府は、政府事業として学生への経済的支援を行い、非営利組織や企業による職業教育機関の設立を支援する(第26条)。産学連携(原語:产教融合、校企合作)を進めて就職の促進に貢献し、産教融合型企業に認定された企業は、規定に基づき、金融、財政、土地に関する支援や税などの優遇を受ける(第27条)。

    ※5保養(原語:康養)とは、健康促進、養老、治療などを目的として自然環境の良い場所で過ごすことを言う。

中等職業教育と高等職業教育の一貫性及び就職につながる教育を重視する。

  • 中等職業教育と高等職業教育の一貫教育を可能とする(第37条)。
  • 高等職業教育への入学者選抜統一試験は、基礎学力試験と職業技能を合わせた方式で実施するものとし、地方政府(省・自治区・直轄市)が統一試験を実施する(第37条)。
  • 職業教育機関は、学生の就職や起業を促進するシステムを構築し(第39条)、企業との連携を重視するなど、就職に直結するシステムづくりをしなければならない(第40条)。
  • 職業教育機関は職業教育に適した質評価制度を構築し、評価の過程で業界団体や企業が関与する。就職につながる教育を重視し※6、教育を受ける者の職業倫理や技術技能のレベル、就職の質を重要な評価指標とし、評価を通じて職業教育機関が高い資質を持った技術技能人材を育成するよう導く(第43条)。

    ※6教育部は、今回の法改正では特に学生の就職を重視しており、職業教育は市場・サービスの発展や就職促進を目的とした教育であることを明確に示している。(教育部記者会見)

<関連条文>(機構国際課による仮訳)

【第3条】

  • 職業教育は普通教育と同等の重要な地位にある教育類型であり、国民教育体系と人材資源開発のための重要な部分である。また、多様な人材を育成し、技術技能を伝承し、就職や起業を促進する重要な経路である。
  • 国は、職業教育を大きく発展させ、職業教育改革を推進し、職業教育の質を高め、職業教育の適応性を強化し、社会主義市場経済と社会の発展ニーズに健全に適応した、技術技能人材の成長法則に合った職業教育制度体系を構築し、社会主義現代化の全面的な構築のために国は有力な人材と技能サポートを提供する。

【第15条】

  • 職業学校教育は中等職業学校教育と高等職業学校教育に分かれる。
  • 中等職業学校教育は高級中等教育レベル※1である中等職業学校(技工学校を含む)が実施する。
    ※1高校レベルを示す。
  • 高等職業学校教育は、専科、本科及びそれ以上の教育レベルの高等職業教育機関と普通高等教育機関が実施する。高等職業教育機関設置制度の規定に基づき、条件に合った技師学院は高等職業教育機関として序列する。
  • その他の学校や教育機関、条件に合った企業や業界団体は、教育部の統一計画に沿って、相応の教育レベルの職業学校教育を実施すること、又は人材育成計画に組み込まれた単位科目の提供を行うことができる。

【第17条】

  • 軍隊の職業技能レベルを国家職業資格認定と職業技能レベルの評価体系に組み入れる。

【第20条】

  • 国務院の教育行政部門は、関連部門と共に、経済と社会発展のニーズと職業教育の特徴に基づき、組織の制定、職業教育の専門分野リストの修訂を行う。

【第21条】

  • 国は、業界団体や企業等が職業教育の専門分野の教材開発に関わることを奨励する。
  • 県以上の地方政府は、基幹となる模範的な職業教育機関や職業研修機構の設立、又は設立に関与しなければならない。そして、民間の力で設立された職業教育機関と職業研修機構を指導し支援する。
  • 国は、産業分布と業界の成長ニーズに基づいて措置を講じる。先進的な製造業が必要とする新しい専門分野を発展させて、高水準の職業教育機関と専門分野の構築を支援する。
  • 国は措置を講じて、託児(0-3歳の保育)、介護、保養、家政等の技能人材の育成を急ぐ。

【第26条】

  • 地方政府は、政府事業として学生に貸与型助成金や奨学金等を実施する。また、企業やその他の社会的団体が法律に基づき設立した職業教育機関と職業研修機関を支援する。
  • 政府は非営利の職業教育機関と職業研修機関に資金的支援を行う。同水準同類の公立教育機関の学生一人当たりの経費を参考に、経費や政策上の支援を提供する。
【第27条】
  • 産業と教育の融合(原語:産教融合)、学校と企業の連携(原語:校企合作)を深める。技術・技能人材育成の質向上と就職の促進において重要な役割を担う企業を優遇する。産教融合型企業に認定された企業には、金融、財政、土地等の支援、教育関連費用の減免やその他の税的優遇を行う。

【第31条】

  • 国は、業界団体や企業等が職業教育の専門教材の開発に関わり、新技術、新技法、新理念を職業教育機関の教材に組み入れることを奨励する。また、教材はルーズリーフ形式等の随時更新しやすい多様なものとしてよい。ICTやその他の現代化した教材スタイルの運用、職業教育のインターネット課程等の学修資源の開発、教育形式や学校管理方法の刷新を支持する。職業教育におけるICTの活用を進め、教育とICTの融合・応用を推進する。

【第37条】

  • 国は職業教育の特徴に合った入学試験制度を構築する。
  • 中等職業学校は、国の関連規定に基づき、関連する専門分野において高等職業教育機関と共に行う一貫教育の募集と育成を実施することができる。
  • 高等職業教育機関は、国家の関連規定に基づき、基礎学力と職業技能を合わせた入試方法で学生を入学させることができる。特別な技能のある者は特別な入学審査を経て合格させることができる。
  • 地方政府(省・自治区・直轄市)の教育行政部門と同等の関連部門が統一入学試験のプラットフォームを構築し、職業教育の学校情報、専門分野設置情報、募集情報等を取りまとめ、問い合わせ・申請サービスの提供を行う。

【第39条】

  • 職業教育機関は、就職と起業を促進するシステムを構築しなければならない。多様な形式で学生に対し、キャリア計画、就労体験、就職活動指導等、就職と起業に関するサービスを提供し、学生の就職・起業能力を強化しなければならない。

【第40条】

  • 職業教育機関、職業研修機構が実施する職業教育は、産業と教育の融合を(産教融合)図らなければならず、学校と企業が連携(校企合作)して実施する。
  • 職業教育機関と職業研修機構は、業界団体、企業、事業単位等と共同で職業教育機構※2や職業教育グループ企業の設立、予約育成※3の実施等、多様な形式で連携する。
  • 学生の募集、就職、人材育成方案の制定、教育組織構築、専門分野の企画、カリキュラムの設置、教材開発、教育設計と実施、質評価、科学研究、技術サービス、科学技術成果の実用化と技術技能のプラットフォーム革新、専門技術の移転、インターンシップ拠点建設等について、国は、職業教育機関が関連する業界団体、企業、事業単位等と連携体制を構築するよう奨励する。連携を実施する場合は、契約を締結し双方の権利と義務を明確にしなければならない。

    ※2職業教育機構とは、民間の教育団体を指す。
    ※3予約育成(原語:订单培养)とは、学校と特定の企業が共同育成カリキュラムを作成し、そのカリキュラムで学んだ学生は卒業後にその企業へ就職することを前提として育成する形式。

【第43条】

  • 職業教育機関や職業訓練機構は、教育質評価制度を制定しなければならない。業界団体、企業、第三者機関を評価に参加させ、情報公開し、教育監督指導と社会の監督を受けなければならない。
  • 県以上の地方政府が、関係部門や業界と共に教育の特色に合った質評価体系を構築し、業界団体や企業や第三者評価機関に委託するなどして職業教育機関の運営の質を評価して結果を公表する。
  • 就職を特に重視した職業教育質評価を実施する。教育を受ける者の職業倫理、技術技能レベル、就職の質を重要な指標とし、職業教育機関が質の高い技術技能人材を育成するよう導く。
  • 関連部門は各自の職責に基づいて、職業教育機関、職業研修機構に対する監督管理を強化しなければならない。

原典:中华人民共和国职业教育法(中国語)

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