韓国:教育部補助事業「グローカル大学30」予備指定結果を公表

韓国教育部は2023年7月12日、今年度から新たに始まる地方大学対象の補助事業「グローカル大学30」の予備指定結果を公表した。今年度の指定(採択)予定件数は10件のところ、94件の応募があり、うち15件が予備指定を受けた。これらの15件に対して今後最終選考が行われ、2023年10月頃に指定大学が決定する予定である。本事業の趣旨は、地方自治体、産業界と連携した地方大学の自律的なイノベーションを促進することであり、応募した大学からは、大学間統合等、従来の障壁を乗り越え抜本的な改革を標榜する「イノベーション企画書」が提出された。

教育部補助事業「グローカル大学30」

韓国では学齢人口の減少と急激な産業構造の変化に対応して、大学の教育体制全体の変化と改革が求められているものの、依然として組織間の柔軟な連携や学生中心のカリキュラム運営への転換に課題を抱えている。さらに、首都圏・非首都圏の格差が深刻化し、地域の人材が首都圏に流失している問題も発生している。

これらの課題を解決するため、本事業では目指すべきビジョンとして「国家・地域・大学の世界的な競争力を伴った発展」を掲げている。このビジョンの達成のためには⓵学科間、大学・地域・産業間、また海外との間に存在する壁を乗り越えること※1、⓶大学・地域・産業界の堅実なパートナーシップの構築、⓷大学と地域が一体となった発展の先導等が必要であり、これらの改革を担うグローカル大学※2を育成することが本事業の目標である。また、中央政府主導で均質な方針を提示するのではなく、大学が自治体や地域の産業と連携しながら、地域の特性を考慮した改革の方針を主体的に策定し、教育部がその計画の実行を支援することも趣旨としている。

※1 本事業方針資料(原典②)では、様々な壁を乗り越える海外事例のモデルを参考掲載している。主な事例は以下の通り:
大学と産業界の壁:地域産業界の需要を反映する学科構造の改編、地域産業界の専門家を教員として積極的に採用。
地域社会との壁:大学と地域研究機関との統合や連携による研究機能強化。
大学間の壁:大学間の統合によるリソース共有、業務効率化、キャンパスの機能別特化。
学科間の壁:学部内で統合的に選抜を行い、学生が在学中に自身の適性を探索したうえで専攻を選択する権利を確保。
※2 本事業ではグローカル大学を「大規模なイノベーションを行い、地域社会・産業界との連携を通し、特化分野において世界的な競争力を備え、革新を先導する大学」としている。なお、「グローカル」とはGlobal(地球規模の)とLocal(地域的な)を合わせた造語であり、地域性を考慮しながら、地球規模の視点で考え、行動することを指す。 


本事業では初年度(2023年度)に10件を指定予定であり、その後2024年から2026年の間に20件を指定し、計30件を支援することとしている。補助期間は指定から5年間で、補助額は1校当たり5年間で1,000億ウォン(約100億円)となる見込みである。対象は所在地が非首都圏※3の一般財政支援大学※4または国立大学としており、単独申請だけでなく、大学統合を前提とした複数大学による申請も可能としている。

※3 ソウル特別市、仁川広域市、京畿道を除く地域
※4 教育部補助事業「大学/専門大学革新支援事業」に選定された大学。詳細は本サイト2022/7/25投稿記事を参照のこと。


「グローカル大学30」の選定手順は以下の2段階に分かれる。
  • ① 大学が提出する「イノベーション企画書※5」に基づいてグローカル大学委員会が審査し、予備指定大学を決定(2023年7月)。
  • ② 予備指定を受けた大学は自治体とともに実行計画を策定し、自治体からグローカル大学委員会に提出する。グローカル大学委員会は審査の上、本指定大学を決定(2023年10月)。
※5 大学のイノベーションビジョンと課題を中心にまとめる企画書で、次のような内容を含むとされている:⓵産学協力ハブの役割、⓶大学内外の壁を乗り越える方策、⓷大胆な大飛躍革新推進体制、⓸業績管理システムおよび公開案

予備指定審査結果

本事業には94件(108大学)の応募があり、審査の結果、15件が予備指定を受けた※6。選考に当たっては以下の3つの観点が重視された。
  • ① 革新性
    <審査基準例> 提示されたイノベーション計画は当該大学を、韓国の大学改革を代表し中長期的に世界的競争力のある大学に成長させることができるか。
  • ② 成果管理
    <審査基準例> イノベーション計画を迅速に推進できる体制を構築しているか。
  • ③ 地域特性
    <審査基準例> 大学、自治体、産業界が連携するための体制が構築されているか。
大学から提出された企画書には、イノベーション方針として、入学時に専攻を決定しない「無専攻募集」の導入といった学生募集制度の革新や、専攻変更の柔軟化、マイクロディグリーの導入、プロジェクトベース教育課程の導入等、課程運営に関する改革案が示された。 

なお、応募94件のうち13件は、将来的な大学間統合を前提として複数大学が共同申請したものであり、うち4件が予備指定を受けている。

※6 予備指定を受けた大学の一覧は以下原典⓵を参照のこと。

大学間統合に関する議論

ハンギョレ新聞によれば、大学関係者からは、「グローカル大学に指定されるためには企画書で革新的な方策を盛り込む必要があり、具体的なイノベーション計画を提示するため、結果的に大学間統合方針を盛り込むことになった」との声が聞かれたと報じている。実際に、4月に公表された本事業の方針に関する資料では、参考となるイノベーションモデルとして諸外国の事例が取り上げられたが、大学間統合に焦点を当てた事例も複数取り上げられていた。学生の減少傾向が著しい地方大学にとって、1,000億ウォン(約100億円)規模の補助金の獲得は死活問題であり、その結果、政府の意図を汲んだ計画を立案しようと「拙速な統廃合」に走っている例が相次いでいるという見方もされている(参考:ハンギョレ新聞)。 

原典⓵:教育部(韓国語)
原典⓶:教育部(韓国語)

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