EU理事会は2025年5月12日、「欧州の高等教育質保証及び資格の承認システムに関する勧告(Council recommendation on a European quality assurance and recognition system in higher education)」を採択した。高等教育は欧州の将来にとって重要な役割を担っており、国際的な協力や学生の移動を引き続き促進する必要があるとし、高等教育の質保証と資格の承認は、異なる国の間の高等教育間の透明性、学生の移動、国際的な協力を支えるものとして重要であるとしている。併せて、共同欧州学位ラベル(本サイト2022/7/29及び2025/8/5投稿記事)の基準や、高等教育機関コンソーシアム向けの質保証枠組み構築に関する構成要素(building blocks)も提示している。勧告では、すべての高等教育機関が共同欧州学位ラベルの導入と、将来的な共同欧州学位の制度化に向けた道筋を探ることができるよう、EU加盟国に対し、可能な限り速やかに勧告の内容を実行に移すことを推奨している。
本記事では、勧告に記載された内容の概要を紹介する。
◆すべての質保証システムの向上
EU加盟国は、高等教育の質保証の継続的な向上を促進し、教育の質及び社会的関連性の向上を図るとともに、国境を越えた信頼と説明責任の確保に努めることが求められる。質保証システムは、制度の目的に適合し、社会的・技術的・経済的な発展に対応できるものであるべきである。そのため、既存の優良事例を参考に、関連する要素を高等教育機関の内部質保証手続きに組み込むことや、外部質保証における具体的な目標の設定、焦点を絞ったテーマ別質レビューの実施等の、さまざまな手法による対応が推奨される。教育の質に対する主たる責任は高等教育機関にあり、各機関は「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG)」※1(本サイト2025/3/24投稿記事)に準拠し、以下のようなトピックを含む質保証の取組を実施することが求められる。
・ボローニャ・プロセスで定義された学問の基本的価値(本サイト2024/8/7投稿記事)の推進と擁護
・教育・学習の成果と学生個人の成長、汎用的能力、人格形成、雇用との関連性
・グリーン・トランジション(green transition)やデジタル化等の社会・経済的課題に対応するための、学生の知識・スキル・態度を向上させるプログラム
・(職業教育・訓練を含む)教育、研究、技術革新、社会貢献の相乗効果
・アクセシビリティ、ジェンダー平等、学生中心の学習及びウェルビーイングを促進する包摂的な高等教育
・魅力的かつ持続可能なアカデミック・キャリア
・国際連携強化のための戦略
外部質保証においては、制度の目的に合致し、資源効率的であることが求められる。評価や、認証・登録の決定は透明性と客観性を確保するとともに、学生や教職員の参加を通じて質文化の醸成を図ることが重要である。
質保証レビューの結果は、欧州諸国の外部質保証結果のデータベースであるDEQAR (Database of External Quality Assurance Results)への掲載及び翻訳を通じて、国際的な透明性を高めるべきである。また、内部質保証システムは、マイクロクレデンシャルを含む、高等教育機関が提供するすべての教育を包括する必要がある。加えて、質保証機関間の相互学習活動の組織を支援・奨励することにより、高等教育機関及び質保証機関が、欧州教育圏※2(European Education Area:EEA)内の他の機関との実践の比較(ベンチマーク)を行えるようにすることが求められる。
なお、高等教育機関に対しては、質保証の手続きが教育の改善につながっているか検証することが推奨される。
※1 欧州高等教育圏内における内部質保証、外部質保証並びに質保証機関に関する基準とその運用のためのガイドライン。国・地域間の違いを認めた上で共通の質保証基準を設けるもので、各質保証機関の多様性を尊重し、策定されている。(大学改革支援・学位授与機構 「高等教育に関する質保証関係用語集」オンライン版より一部抜粋)
リンク先は大学評価・学位授与機構(当時)による全文翻訳(2016年1月)。本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ及び大学改革支援・学位授与機構 「大学質保証ポータル」ウェブサイトも参照のこと。
原典(英語)は欧州高等教育質保証協会(The European Association for Quality Assurance in Higher Education: ENQA)の公式ウェブサイトからダウンロード可能。
※2 EEAは、幼児教育から初等・中等教育、高等教育(欧州高等教育圏 [European Higher Education Area: EHEA] )、生涯教育を含むすべての教育段階におけるあらゆる形態の教育・訓練・学習を対象としている。
高等教育分野においては、ボローニャ・プロセスを軸として単位の互換性や学生・教職員の流動性を高めることにより、国境を越えて共同体としての結びつきを強めるためのEHEAの確立を目指している。国際的な共同教育プログラムやこれらの質保証における取組についても、国を越えた枠組みや制度が共同で策定されている。
ボローニャ・プロセス及びEHEAでの取組については本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページも参照のこと。
◆高等教育機関コンソーシアム向けの質保証枠組み開発の検討
EU加盟国は、持続可能かつ長期的な協力関係にある高等教育機関コンソーシアムに対し、共同の内部質保証体制に基づく第三者評価を可能とする専用の欧州枠組みの開発を検討・推進することが推奨される。枠組みの構築にあたっては、質保証機関とコンソーシアムが協働し、本勧告の添付資料Ⅰに示す構成要素(building blocks)を基盤とし、必要に応じて、「Developing a European Approach for Comprehensive QA of (European) University Networks(EuniQ)※3」や「ピアラーニングを通じた質保証の実現と革新(IMINQA)※4」プロジェクトの成果を活用しながら試行的に進めることが求められる。また、枠組みの有用性については、事務負担の大幅な軽減や、付加価値をもたらすかどうかに焦点を当てて評価するべきである。さらに、欧州質保証機関登録簿(EQAR)に登録されている質保証機関や「欧州アプローチ」※5に沿った評価を実施する機関が、本枠組みに基づく第三者評価を実施できるよう整備することが推奨される。
■添付資料Ⅰの概要
枠組みにおける目的、原則、評価の内容等の概要は以下の通り。
【目的】
質保証の評価は、ESGの原則に基づき「説明責任」と「質の向上」を目指す。すなわち、コンソーシアムの教育活動の質を対外的に示すとともに、その継続的な向上を支援するものである。評価は、コンソーシアムが選定した質保証機関により実施され、複数国の制度への個別対応を不要とすることで、事務的負担の軽減と共同教育プログラムの質保証の促進につながる。
【原則】
質保証機関によって策定される評価の方法論は、以下の点を反映するものである。
・コンソーシアムの自律性と多様性を尊重すること
・コンソーシアムが提供するすべての共同教育を対象とする共同の内部質保証システムの確立を促すこと
・「一度限りの原則」に従うこと。すなわち、第三者評価の受審は、外部質保証の認定期間内に一度だけとする
・ESG、「欧州アプローチ」、共同欧州学位ラベルのすべての関連部分を統合すること
【対象】
評価の対象は、欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)内のすべてのコンソーシアムであり、内部質保証体制を有していることが前提となる。
【評価の焦点及び特徴】
評価の焦点は、コンソーシアムの内部質保証と質向上の仕組みの有効性に置かれ、どの活動を評価対象とするかはコンソーシアム自身が決定し、透明性をもって提示する必要がある。
また評価では、「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)」(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)第1部に準拠した基準に基づいて行われ、共同教育プログラムが「欧州アプローチ」や共同欧州学位ラベルの基準を満たしているかも確認される。
【評価機関及び結果】
EQARに登録された質保証機関、または「欧州アプローチ」に沿った外部質保証を実施しているEU機関が担い、結果は「適格」「条件付き適格」「不適格」のいずれかで示される。肯定的評価を受けたコンソーシアムは、自己認定(Self-accreditation)や共同欧州学位ラベルの使用が可能となり、EU加盟国はこうしたコンソーシアムに対して、追加の質保証手続きを免除することができる。
※3 「欧州大学」コンソーシアムに対する包括的な外部質保証のための共通のアプローチを開発することを目的として、2019年から2021年にかけてエラスムス・プラスの支援を受けて実施されたプロジェクト。
※4 ボローニャ・プロセス・テーマ別ピアグループC (TPG C)の活動を支援する質保証プロジェクト。エラスムス・プラスプログラム(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)からの資金援助を受けて、フランダース教育訓練省(MINEDU-FC)、ルーマニア高等教育質保証機構(ARACIS)、ENQA、EQARの4機関によるコンソーシアムにより実施された。IMINQA(本サイト2025/6/19記事を参照)は、ボローニャ・プロセスにおける質保証改革の実施を支援することを目的とし、特に、マイクロクレデンシャルや「欧州大学」コンソーシアムの質保証といった特定のトピックに焦点を当てた調査を実施。活動期間は2022年から2025年の3年間。
※5 2014年にボローニャ・フォローアップグループ(Bologna Follow-Up Group: BFUG)によって策定され、2015年のエレバン(アルメニア)でのEHEA大臣会合で採択された、欧州における共同教育プログラムの統一した質保証の枠組み。「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(Standards and Guidelines for Quality Assurance in the European Higher Education Area: ESG)」 及び 「欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)」に基づいている。欧州の共同教育プログラムがEQARに登録されている質保証機関によってこのアプローチに沿った評価を受審することでEHEA域内のほかの国でもその評価結果が有効となる、というものである。「欧州アプローチ」については、本サイト2023/1/27投稿記事、2024/6/12投稿記事も参照のこと。
◆外部質保証の制度及びプログラム評価の柔軟性向上
国境を越えた連携及び高等教育システムの柔軟性を促進するためには、第一に、高等教育機関における健全な内部質保証プロセスの構築・向上を支援することが求められる。健全な内部質保証プロセスが確立された高等教育機関に対しては、負担軽減の観点から、機関別の質保証アプローチへの移行が推奨される。例えば、質保証機関によるプログラム単位の認証を新規プログラムの初期認証に限定し、再認証については、内部質保証の一環として機関自らが実施する自己認定手続きを導入することが挙げられる。
このほかにもEU加盟国には、卒業生追跡調査や欧州高等教育セクターデータ・情報プラットフォームThe European Higher Education Sector Observatory:EHESO)※6等のデータを活用し、根拠に基づく質保証の強化が求められる。さらに、機関別の外部質保証アプローチへの移行における質文化の醸成を促進するために、ピアラーニングやキャパシティ・ビルディングの支援も推奨される。
「欧州アプローチ」を導入していないEU加盟国においては、以下の方策を通じてその使用を可能とし、かつ奨励することが求められる。
1.国レベルで追加された質保証基準や行政的・規制的な障壁を撤廃すること。
2.高等教育機関の自律性を尊重しつつ、質保証に従事する関係者に対する指導・支援を提供する環境の整備すること。
3.「欧州アプローチ」の活用により、国内手続きと比較して財政的不利益が生じない環境を推奨すること。
※6 欧州の高等教育分野に関するデータ・情報プラットフォーム。欧州委員会教育文化総局(EACEA)よるプロジェクト。エラスムス・プラスプログラム(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)からの資金援助を受けて、リトアニアの公共政策・管理研究所(PPMI)が主導し、ドイツの高等教育開発センター(CHE)、オランダのトゥエンテ大学高等教育政策研究センター(CHEPS)、オーストリア技術研究所(AIT)及びオーストリア「Joanneum Research」の5機関によるコンソーシアムにより実施し、大学の多元的世界ランキングであるU-Multirankや欧州高等教育登録簿(ETER)といった欧州の様々なデータを統合するプラットフォームとして、欧州の高等教育セクターに関する包括的な情報を提供する。
EHESOは、欧州高等教育スコアボード、機関向けのベンチマークツール、学生オブザーバトリー(構築中)、オープンアクセス・データセンターの4つの主要ツールにより、透明性の向上、比較分析、政策立案とモニタリング、高等教育機関の発展、学生の意思決定強化に資する機能を提供する。
◆共同欧州学位ラベルの基盤構築
共同欧州学位ラベルは、添付資料Ⅱ(本サイト2025/8/5投稿記事)に示された欧州基準をすべて満たし、かつ、ESGに沿った或いは各国の制度に基づく質保証が行われている共同学位プログラムに対して付与されることが推奨される。EU加盟国は、EQAR登録機関や欧州アプローチに沿った評価を実施する機関に対し、ラベル付与の権限を認めるとともに、一定の条件を満たす高等教育機関による自己付与も可能とすることが求められる。さらに、ラベル取得プログラムのリポジトリの整備や、欧州資格枠組み(EQF)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)レベル5への適用可能性について欧州委員会と協力して検討することが推奨される。
◆資格の自動承認※7の実施に向けて
資格の自動承認を確実なものにするには、十分な信頼構築が不可欠であり、その基盤となるのが質保証システムである。EU加盟国は、高等教育機関における内部及び外部質保証プロセスを通じて、資格の自動承認の実施状況を評価することが推奨される。また、EU加盟国は高等教育機関や関係者と連携し、入学資格ありとして基本的に認めることと、特定のプログラムへの入学判断における機関の裁量との違いを明確化する指針の策定が求められる。
高等教育機関が、学生受入れの手続きにおいて学習成果に基づくアプローチを取ることを支援することが推奨される一方で、各機関が独自の入学基準を定める権利は損なわれないものとする。資格の承認における判断の透明性と信頼性を高めるため、データ収集と分析を強化し、制度・地域・国・欧州レベルでの根拠に基づくアプローチを推進する必要がある。
技術面では、すべての学位やマイクロクレデンシャルを欧州学習デジタル資格証明書(European Digital Credentials for Learning:EDC)※8の基準に準拠した形式で発行できるよう支援し、認証の真正性と質保証を確保する必要がある。また、欧州諸国の国内情報センター(ENIC-NARICセンター)や高等教育機関の職員に対して、AI(人工知能)等のデジタルツールを活用した研修やネットワーク形成を支援し、資格の承認と質保証の担当者間の連携を国内外で強化することが推奨される。
※7 本サイト2022/3/1の記事を参照。
※8 公的機関や教育組織が学習者の学習成果を電子的に発行するデジタル証明書。卒業証書、研修修了証、マイクロクレデンシャル、参加証明書等を電子署名付きで発行するもので、「Europass」の枠組みにより開発され、2021年10月に正式に導入された。
■勧告に対し、欧州高等教育質保証協会(ENQA)がブリーフィングノートを公開
ENQAは、2025年5月に発表したブリーフィングノートにおいて、本勧告が高等教育の国際化を推進する上での質保証の重要性を引き続き認識していることを高く評価し、欧州高等教育圏の既存のツールの実施、向上型(enhancement-led)質保証の支持、国境を越えた質保証及び資格の自動承認に対する官僚的・法的障壁の解消に重点が置かれていることを歓迎している。また、各国当局に対し、質保証を含む国境を越えた大学間交流を支援する法的枠組みの整備を求めている。
一方で、ボローニャ・プロセスの既存のツール(制度・枠組み)と合意事項が完全に実施されてこそ、イノベーションと国際連携の深化が可能になると強調しており、新たなアプローチへの投資が、需要と付加価値に見合ったものであるよう注意を払う必要があるとしている。
原典①:欧州委員会(英語)
原典②:ENQA(英語)
原典③:ENQA briefing note on the Council Recommendation on a European quality assurance and recognition system in higher education(英語)
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
1.高等教育の「基本的価値」の実践に向けて:欧州高等教育圏大臣会合2024
(本サイト2024/8/7投稿記事)
2.トランスナショナル共同教育の設計における課題と提言ー欧州大学協会がテーマ別ピアグループの報告書を公表ー
(本サイト2024/6/12投稿記事)
3.「欧州大学」が直面する4つの課題-質の高い連携のために
(本サイト2023/1/27投稿記事)
4.欧州:「共同欧州学位ラベル」の2022年試行に向けて―欧州共通基準の議論続く
(本サイト2022/7/29投稿記事)







