欧州高等教育質保証協会(ENQA)は2025年4月、公式ウェブサイト上で、「ピアラーニングを通じた質保証の実現と革新(IMINQA)プロジェクト※1」の一環として実施した調査の報告書を公表した。報告書は、「欧州大学」コンソーシアム、質保証機関及び高等教育を管轄する省庁の関係者で構成するフォーカスグループにおける議論等を通じて明らかとなった「欧州大学」の内部質保証及び外部質保証の現状と課題、さらに今後の展望をまとめている。
※1 ボローニャ・プロセス・テーマ別ピアグループC (TPG C)の活動を支援する質保証プロジェクト。エラスムス・プラスプログラム(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)からの資金援助を受けて、フランダース教育訓練省(MINEDU-FC)、ルーマニア高等教育質保証機構(ARACIS)、ENQA、欧州質保証機関登録簿(EQAR)の4機関によるコンソーシアムにより実施された。IMINQAは、ボローニャ・プロセスにおける質保証改革の実施を支援することを目的とし、特に、マイクロクレデンシャルや「欧州大学」コンソーシアムの質保証といった特定のトピックに焦点を当てた調査を実施。活動期間は2022年から2025年の3年間。
■「欧州大学」コンソーシアムとは
「欧州大学」コンソーシアムは、欧州域内での国境を越えた大学間のコンソーシアムであり、少なくとも3つのEU加盟国と3つの高等教育機関で1つの「大学」(=コンソーシアム)を構成することが求められ、国境や分野を越えた協働によって欧州の高等教育機関の国際競争力を高め、民主主義的価値観を促進することを目的としている。2024年6月時点で65の「欧州大学」コンソーシアムが構築されており、35か国から570以上の高等教育機関が参画している。
なお、「欧州大学」コンソーシアムについてはこちら(本サイト2024/10/1掲載記事)を参照のこと。
■「欧州大学」コンソーシアムの質保証
「欧州大学」コンソーシアムの質保証を調査するため、「欧州大学」コンソーシアム(17件)、欧州高等教育圏(EHEA)欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)全域の、質保証機関(11機関)及び高等教育を管轄する省庁(6機関)で構成するフォーカスグループ※2が立ち上げられた。報告書は、プロジェクト作業部会での協議、机上調査分析、フォーカスグループへのアンケート調査、フォーカスグループでの議論等をもとに作成されている。
「欧州大学」コンソーシアムの内部質保証及び外部質保証に関しては、事前に実施した調査結果の概要が示されている。あわせて、それらの今後の発展の見通しについて、フォーカスグループで議論された3つの想定シナリオと、参加者が内部質保証及び外部質保証それぞれに対して選択した「好ましいシナリオ」及び「実現可能なシナリオ」に関する投票結果、さらにそこから得られた洞察が示されている。
「欧州大学」コンソーシアムの内部質保証
事前調査に協力した「欧州大学」コンソーシアム(16件)は、共同教育プログラム(96%)、サマースクール(76%)、マイクロレジデンシャル(本サイト 2022/5/10掲載記事、2024/4/10掲載記事)(65%)、研修(24%)、その他共同の短期コース等の様々な形態のプログラムを提供している。これらのプログラムに対し、包括的な内部質保証システムを構築しているコンソーシアムの数は限定的で、現状、「包括的な内部質保証システムの構築が進んでいる」と回答したコンソーシアムの割合がわずか6%であるのに対し、「システムを構築中」、「システム構築の初期段階」と回答した割合が、それぞれ53%、18%である。さらには、18%のコンソーシアムが「コンソーシアムの参加機関各々の質保証システムに信頼を置いており、各国/地域レベルの要件に沿った外部質保証を受けているため、コンソーシアムレベルでの追加的な内部質保証の枠組みは不要」と回答している。加えて、複数の参加機関の多様な内部質保証アプローチを整合させることの難しさについて懸念を示す回答もあった。
また、欧州連合からの資金援助が終了又は削減された場合のコンソーシアムの持続可能性についても不確実性が示され、31%は同規模で継続可能、19%は小規模で継続可能、44%は継続は不確実、6%は外部資金なしでの継続は難しいと回答している。これについて報告書では、内部質保証システムの構築は通常多くのリソースを必要とし、長期的な持続可能性を念頭に置いていることが多いと認識されているが、コンソーシアムの継続に不確実性があることから、包括的な内部質保証システムの構築は優先されていないと言及している。
コンソーシアムにおける内部質保証の今後については、フォーカスグループで下表の3つのシナリオについて議論され、シナリオ1が「好ましいシナリオ」、シナリオ2(次いで僅差でシナリオ3)が「実現可能なシナリオ」として最多の投票結果となった。理想的なシナリオと実現可能なシナリオの間に大きなギャップが存在することが浮き彫りとなり、その一因として、コンソーシアムが発展の初期段階であり、長期的な継続が不確実な状況にあることが指摘されている、と記されている。

「欧州大学コンソーシアム」の外部質保証
調査に協力した「欧州大学」コンソーシアムでは、外部質保証機関の審査をコンソーシアムレベルで受けた事例はなかったが、56%が将来的に受審する計画や関心を示している。受審しない主な理由として、内部質保証システムの構築が初期段階であること、現時点での外部評価の利点や付加価値が不透明であること、現在は内部問題に重点が置かれていること、共同教育プログラム認証のための既存のプロセスが存在していることが挙げられた。フォーカスグループは、高等教育機関のリソースが限られており、コンソーシアム単位での外部評価が任意であることから、「欧州大学」コンソーシアムにおいて外部質保証が優先事項とはみなされていないと指摘している。
コンソーシアムにおける外部質保証の今後についても、フォーカスグループで下表の3つのシナリオについて議論され、シナリオ1が「好ましいシナリオ」、「実現可能なシナリオ」ともに最多の投票結果となった。報告書では、この結果及び議論においてコンソーシアムレベルでの外部質保証の必要性と実現可能性について懐疑的な見解が示された、と記されている。

※2 フォーカスグループ参加コンソーシアム・機関は報告書の別添2を参照。
※3 2014年にボローニャ・フォローアップグループ(Bologna Follow-Up Group: BFUG)によって策定され、2015年のエレバン(アルメニア)でのEHEA大臣会合で採択された、欧州における共同教育プログラムの統一した質保証の枠組み。「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(Standards and Guidelines for Quality Assurance in the European Higher Education Area: ESG)」 及び 「欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)」に基づいている。欧州の共同教育プログラムが欧州質保証機関登録簿(The European Quality Assurance Register for Higher Education: EQAR)に登録されている質保証機関によってこのアプローチに沿った評価を受審することでEHEA域内のほかの国でもその評価結果が有効となる、というものである。「欧州アプローチ」については、本サイト2023/1/27投稿記事、2024/6/12投稿記事も参照のこと。
* なお、EQARに登録される質保証機関は、共同教育プログラムの質保証のみを行う機関に限られるということではない。ESGに基づく質保証を行っている外部質保証機関が所定の審査を経てそのことが確認された場合に欧州質保証機関登録簿(EQAR)に登録される。EQARへの登録は、国際通用性のある質保証を行う質保証機関であることを示すものとして、特に欧州では広く理解されている。
■結論
報告書は、「欧州大学」の内部質保証・外部質保証について、次のとおり結論づけている。
【内部質保証】
包括的な内部質保証システムの構築には多大な労力が必要であり、コンソーシアムの持続可能性が前提とされている。また、多くのコンソーシアムは、参加機関それぞれの質保証システムに信頼を置いており、コンソーシアムレベルで新たな枠組みを構築することに対して、付加価値を見出しにくいと考えている。さらに、コンソーシアムの継続に対する不確実性も、内部質保証システムの整備が優先されない要因の一つとなっている。
加えて、内部質保証システムの構築にあたっては、各参加機関が属する国・地域の法的枠組みに適合させる必要があり、この整合には綿密な調整と多大なリソースが求められる。こうした課題を踏まえると、コンソーシアムレベルでの内部質保証枠組みの構築には明確な付加価値の提示と、十分なリソースの確保が不可欠である。
【外部質保証】
コンソーシアムレベルでの外部質保証の実施には、各国の質保証手続きとの重複の可能性や多様な法規制との整合性やコンソーシアムごとの異なる構造や連携モデルに対応する柔軟性の欠如等、さまざまな課題が存在する。
Developing a European Approach for Comprehensive QA of (European) University Networks( EuniQ )※4のフレームワークは、コンソーシアムレベルでの外部質保証が必要な場合の出発点として有用であるとみられているが、外部質保証の目的の明確化や欧州学位(ラベル)(本サイト2022/7/29)基準との統合、既存の手続きとの重複を避け、補完的な設計とする等の、コンソーシアムの現状のニーズに合わせた改善が求められる。
外部質保証手順の負担軽減を目指したツールやプログラムもすでに存在するが、さらなる進展には、各国の当局が、質保証機関におけるESG 「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)」(本サイト2025/3/24投稿記事)※5への完全な準拠や、ボローニャ・プロセスの取組(特に国境を越えた質保証や「欧州アプローチ」)の実施を妨げる障壁を取り除く必要がある。
フォーカスグループの議論では、関係者間のさらなる対話の重要性が強調されるとともに、コンソーシアムレベルでの内部質保証・外部質保証の付加価値に関する継続的な議論の必要性が指摘された。
※4 「欧州大学」コンソーシアムに対する包括的な外部質保証のための共通のアプローチを開発することを目的として、2019年から2021年にかけてエラスムス・プラスの支援を受けて実施されたプロジェクト。
※5 大学評価・学位授与機構(当時)による全文翻訳(2016年1月)。原典はENQAの公式ウェブサイトからダウンロード可能。
原典①:ENQA(英語)
原典②:Implementation and Innovation in quality assurance through peer learning (IMINQA) (英語)
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
1.欧州共通の質保証基準の改訂に向けて:QA-FITプロジェクトが考慮すべき観点を検証
(本サイト2025/3/24投稿記事)
2.「欧州大学」プロジェクト第5回採択結果:合計64のコンソーシアムが活動へ
(本サイト2024/10/1投稿記事)
3.欧州:ENQAがマイクロクレデンシャルの質保証に関する報告書を公表
(本サイト2024/4/10投稿記事)
4.欧州:「共同欧州学位ラベル」の2022年試行に向けて―欧州共通基準の議論続く
(本サイト2022/7/29投稿記事)
5.欧州高等教育圏におけるマイクロクレデンシャルの共通枠組みを提示
(本サイト2022/5/10投稿記事)
6.「欧州大学イニシアチブ」の初の採択コンソーシアム17件が決定
(本サイト2019/7/24投稿記事)







