欧州委員会は2024年6月、「欧州教育圏」公式ウェブサイト上で、2024年の「欧州大学」プロジェクトに採択された14のコンソーシアムを発表した。これにより、エラスムス・プラス2021-2027の助成金の下、過去2年分の採択件数と合わせて64の「欧州大学」が、2024年中に国境や分野を越えて連携協力し、活動することとなる。さらに、2024年の公募より新たに設けられた区分である「欧州の高等教育界全体に資する『実践共同体(community of practice: CoP)』※1の創設を担う取組」にも、1件のコンソーシアムが採択された。
※1 「Community of Practice (CoP)」という概念は、Jean Lave及びEtienne Wenger(1991)により初めて提唱された。邦訳書では「実践コミュニティ」や「実践共同体」と訳されている。
◆「欧州大学」とは
「欧州大学(European Universities) ※2」(本サイト2023/8/14投稿記事)は、エラスムス・プラス2021-2027(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の枠組みで実施されている、欧州域内での国境を越えた大学間コンソーシアムの形成と発展を支援するプロジェクトである。少なくとも3つのEU加盟国と3つの高等教育機関で1つの「欧州大学」(=コンソーシアム)を構成することが求められ、国境や分野を越えた協働によって欧州の高等教育機関の国際競争力を高め、民主主義的価値観を促進することを目的としている。
2023年10月に第5回となる公募が行われ(本サイト2023/12/25投稿記事)、今回その採択結果が公表された。
※2 正式名称は“European Universities Initiative.” 2022年までの公募状況の詳細は本サイト2022/10/12投稿記事を、「欧州大学」が抱える課題については本サイト2023/1/27投稿記事を参照のこと。
「欧州教育圏」の公式ウェブサイトでは、今回公表された2024年採択の「欧州大学」コンソーシアムをはじめ、現在活動中の「欧州大学」に参画する欧州全域の高等教育機関の所在地一覧地図が掲載され、国別・名称別に検索できる。また、「タイムライン」のページではプロジェクトの変遷と2034年までの展望を知ることができる。
さらに、学生、教職員、高等教育機関、公的機関、市民社会といった異なるステークホルダーに向けて、「欧州大学」のコンソーシアムがそれぞれどのようなメリットをもたらすかを説明するページ“What’s in it for me?”も設けられている。
◆新たに14のコンソーシアムが採択
第5回公募の「応募区分1:国境を越えた高等教育機関の協働を深化させる取組」(助成期間:2024~2027年)には、合計56件の応募があった。採択されたコンソーシアムは、表1に示す14件である。

欧州委員会の発表資料、各コンソーシアム/各機関による発表を基にNIAD-QE国際課が作成
※3 エラスムス・プラス2021-2027における交流プログラム対象国(「プログラム国」)に所在し、有効な「Erasmus Charter for Higher Education(エラスムス高等教育憲章)」を有している高等教育機関は、フル・パートナーとして参画が認められる。フル・パートナーは欧州委員会からの助成金を受け取ることができる。「プログラム国」の詳細については、エラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照。
今回採択された14のコンソーシアムには、約130の高等教育機関が参画しており、各コンソーシアムには4年間で最大1,440万ユーロ(≒23億円)※4が拠出される。現在活動中の2022年採択の20件(助成期間:2022~2025年)、及び2023年採択の30件(助成期間:2023~2026年)を合わせた50の「欧州大学」コンソーシアムに、今回採択された14件が加わり、2024年秋以降、合計64の「欧州大学」コンソーシアムが活動することとなる。これにより、欧州委員会が「EUの大学戦略」(本サイト2022/3/18投稿記事)で掲げた「2024年半ばまでに、少なくとも60の『欧州大学』コンソーシアムを構築する」という目標は達成された。
合計64のコンソーシアムには、35か国から560以上の多様な高等教育機関が参画している。この35か国には、EU加盟国すべてに加え、EU非加盟のアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アイスランド、モンテネグロ、北マケドニア、ノルウェー、セルビア、トルコも含まれている。さらに、2,200近くの非政府組織、企業、都市、地方自治体、地域当局、EU非加盟のボローニャ・プロセス参加国※5の高等教育機関が、連携パートナー※6として協力している。ウクライナからも、40近くの高等教育機関が連携パートナーとして参画している。
※4 1ユーロ160円で計算。
※5 ボローニャ・プロセスの詳細についてはこちら(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)。
※6 原語はassociated partner。コンソーシアムの連携パートナーとして有効な「エラスムス高等教育憲章」の保有が義務付けられ、コンソーシアムに名を連ねるが、欧州委員会からの助成金を受け取ることはできない。詳細はエラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照。
◆実践共同体(CoP)が創設
今回、新たな取組となる「実践共同体(CoP)」として機能するコンソーシアムも1件採択された。名称は「FOR-EU4ALL – FORum of European Universities for All」。2022年に採択された20件のうち7件、及び2023年に採択された30件のうち10件の合計17の既存のコンソーシアムが集い、一つの大きなCoPを構成している。表2に示すとおり、各コンソーシアムはフル・パートナーとしてCoPに参画する。

緑色は2022年採択のコンソーシアムを示す
原典②内の“Topic 2: European Universities – Community of Practice”を基にNIAD-QE国際課が作成
※7 登記社団(E.V.:eingetragener Verein、独語)とは、ドイツにおける登記された任意団体に対する法的地位を示す。そのほか、原典②を見ると国際非営利団体(AISBL:Association internationale sans but lucratif、仏語)、財団・基金(stichting、オランダ語)、協会(association、英語)、株式会社(OY: osakeyhtiö、フィンランド語)といった法人格を持つ組織がコンソーシアムの代表機関として名を連ねていることがわかる。
これは「欧州大学」プロジェクトにおいて、コンソーシアムに単一の法人格を持たせて大学間でリソース、キャパシティ、強み、データを一元管理できるようにする「コンソーシアム法人」の構築を推進しているためである。当該取組は、「欧州教育圏」の実現に向けた4つの旗艦プロジェクトの1つとなっている。4つの旗艦プロジェクトとは、①欧州大学プロジェクトの拡大、②大学コンソーシアムの法人化、③共同欧州学位の制度化、④欧州学生証の普及促進(本サイト2022/3/18投稿記事)。
今回採択されたCoPに名を連ねていない「欧州大学」コンソーシアム(2022年採択分13件、2023年採択分20件)は、連携パートナーとしてCoPの活動を支援する。また、今回の第5回公募(2024年)で採択された14の「欧州大学」コンソーシアムも、連携パートナーとして協力する予定となっている。加えて、欧州における高等教育のステークホルダーを代表する組織として、欧州学生連合(European Students’Union: ESU)、エラスムス学生ネットワーク(Erasmus Student Network: ESN)、欧州大学協会(European University Association: EUA)、欧州高等教育機関協会(European Association of Institutions in Higher Education: EURASHE)、欧州高等教育質保証協会(European Association for Quality Assurance in Higher Education: ENQA)も連携パートナーに位置付けられている。
◆CoPに何が期待されているか
CoPは、欧州全域における高等教育機関及び広範な社会全体を視野に入れ、課題解決やイノベーションの創出に向けてより緊密な協働を支援するために設けられた。欧州委員会は、CoPに期待する役割として以下の項目を挙げている(本サイト2023/12/25投稿記事)。
- 知識の共有と学び合い
- スキルの向上
- ネットワークづくりと連携協力
- イノベーション創出と課題解決
欧州委員会は、CoPの活動を通じて、全ての「欧州大学」コンソーシアム間でのピアラーニングが強化され、ベストプラクティスの共有が進むとともに、「欧州大学」内外でのシナジー効果の向上が図られる、と期待を寄せている。CoPには、成果やモデルを広く高等教育セクター全般に普及させる役割が求められているとともに、高等教育セクターを越えて、これらの成果を広く社会に浸透させるための強固で有意義なアプローチを構築し、それを実践することも期待されている。
◆「欧州大学」の未来へ向けて
「欧州大学」プロジェクトは、欧州委員会がエラスムス・プラスのプログラムを継続することを前提に、2026年及び2027年にも公募を行うとしている。これらの公募では、主に既存のコンソーシアムの連携深化に重点が置かれ、2028年から2029年までの持続可能な資金確保が目指されている。また、現行のエラスムス・プラス2021‐2027プログラムの後継となる、2028年から2034年までの「欧州大学」に対する資金確保についても、欧州委員会は既にステークホルダーを交えて構想を進めている、と言及している。
「欧州大学」プロジェクトの資金確保、特に大規模な助成の継続には、「欧州大学」がもたらした改革のインパクトを明確にすることが不可欠である。欧州委員会は、インパクトを明確にするためのモニタリングの枠組みを開発し、2024年後半に「欧州大学」プロジェクトの成果と変革の可能性について、報告書を公表すると述べている。
原典①:欧州教育圏(英語)
原典②:欧州教育圏(英語)
原典③:欧州教育圏(英語)
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
1. 「欧州大学」プロジェクト第5回公募開始:「実践共同体」構築へ向けた募集区分の新設
(本サイト 2023/12/25投稿記事)
2.「欧州大学」が過去最大規模の50コンソーシアムへ
(本サイト 2023/8/14投稿記事)
3.「欧州大学」が直面する4つの課題―質の高い連携のために
(本サイト 2023/1/27投稿記事)
4.「欧州大学」の予算規模が350億円超へ―戦略的連携が深化
(本サイト 2022/10/12投稿記事)
5「欧州大学イニシアチブ」の初の採択コンソーシアム17件が決定
(本サイト 2019/7/24投稿記事)
6. EUの大学戦略:国境を越えた大学間連携・共同学位を促進し経済・環境問題等の解決へ
(本サイト 2022/3/18投稿記事)







