「欧州大学」プロジェクト第5回公募開始:「実践共同体」構築へ向けた募集区分の新設

 欧州委員会は2023年10月、エラスムス・プラスの公式ウェブサイト上で2024年採択分「欧州大学」プロジェクトの公募要領を公開し、従来型のコンソーシアムに加え、新たな取組として「実践共同体(community of practice)」※1の創設を担うコンソーシアムを募集することを発表した。公募は2024年2月6日に締め切られ、採択結果は2024年夏頃に公表される見込みである。

※1 「Community of Practice (CoP)」という概念は、Jean Lave及びEtienne Wenger(1991)により初めて提唱された。邦訳書では「実践コミュニティ」や「実践共同体」と訳されている。

◆「欧州大学」とは

 「欧州大学(European Universities) ※2」(本サイト2023/8/14投稿記事)は、エラスムス・プラス2021-2027(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の下で実施されている欧州域内での国境を越えた大学間コンソーシアムの形成及び発展を支援するプロジェクトである。本プロジェクトは、教育・研究・イノベーション・社会への貢献という高等教育機関の使命を包括する取組であり、国境や分野を越えたコンソーシアムの協働によって欧州の民主主義的価値観を促進することを目的としている。

※2 正式名称は“European Universities Initiative.” 欧州委員会のウェブサイトでは、活動中の「欧州大学」(=コンソーシアム)に参画する欧州全域の高等教育機関の所在地一覧地図が掲載され、国別・名称別に検索できる。また、「タイムライン」のページではプロジェクトの変遷を知ることができる。
 2022年までの公募状況の詳細は本サイト2022/10/12投稿記事を、「欧州大学」が抱える課題については本サイト2023/1/27投稿記事も参照のこと。

◆知識創造集団としての役割を強化

 「欧州大学」のコンソーシアムは、これまでも各コンソーシアムの戦略や長期的ビジョンに基づき、学生、研究者のみならず起業家、企業、地域・市民社会等の多様なアクターと共に知識創造集団(knowledge-creating teams)を形成し、連携協力を継続してきた。その中で現在、国境を越えて欧州の様々な課題解決を目指す課題志向のアプローチ(challenge-based approach)を用い、教育及び学習、革新的な教育方法、研究・イノベーションの共有を通じ、社会全体に創造的な思考や分野横断的なスキルをもたらす機能の強化がより一層、求められている。
 欧州委員会は、知識創造集団が「実践共同体」という共通の場を通じ専門分野を越えて協力し合うことで、急速に変化する労働市場やより広範な世界課題に直面する欧州市民との関わりをも強化することができる、と語っている。

◆第5回公募:コンソーシアム数の拡大と助成金の規模

 本プロジェクトの公募は、2019年の第1回から数えて通算5回目となる。第5回公募の助成期間は、2024年から2027年の4年間※3となっている。第1回(助成期間:2019~2021年)及び第2回公募(2020~2022年)で採択されたコンソーシアムへの助成は既に終了しているが、現在、第3回(2022~2025年)及び第4回公募(2023~2026年)で採択された計50の「欧州大学」コンソーシアムが国境や分野を越えて活動中であり、欧州全域の35か国から430を超える高等教育機関が参画している。

 「欧州大学」プロジェクトでは、2022年に欧州委員会により採択された「欧州の大学戦略※4」(本サイト2022/3/18投稿記事)に基づき、2024年までに500以上の高等教育機関の連携からなる少なくとも計60のコンソーシアムへの拡大が計画されている。2024年採択分のコンソーシアムに対しては、総額1億8,920万ユーロ(≒303億円※5)の助成金が拠出される予定である。

※3 第3回公募以降、助成期間が3年間から4年間へ拡大した。
※4 COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS on a European strategy for universities”  (Strasbourg, 18. 1. 2022, COM [2022 16 final])
※5 本文中の金額は全て1ユーロ=160円で計算。本予算には、EU加盟を目指す西バルカン諸国の国内改革を支援する事前加盟支援金(IPA III)から拠出される500万ユーロ(≒8億円)が含まれている。

◆新たな展開:「実践共同体」の創設へ

 今回の第5回公募における応募区分は以下のとおり。
応募区分1:「国境を越えた高等教育機関の協働」を深化させる取組
     助成総額・1億8,770万ユーロ(≒301億円)※6

応募区分2:欧州の高等教育界全体に資する「実践共同体」の創設を担う取組
     助成総額・150万ユーロ(≒2.4億円)

応募区分1、2のいずれも、これまでに採択されていないコンソーシアムからの応募も受け付ける※7。なお、公募要領によると「実践共同体」の役割を担うコンソーシアムは1件と想定されている。

 上述の「応募区分2」が、今回の公募から新たに開始される取組である。欧州全域における高等教育機関間のより緊密な協力を支援するために、「実践共同体」の創設を担うコンソーシアムの募集が行われることとなった。「実践共同体」においてコンソーシアム間の相乗効果を高め、優れた実践や経験を共有することで高等教育セクター全体に資する連携協力を強化することが期待されている。

※6 各区分の助成総額は、原典③ p.12を参照。
※7 第3回(2022年)及び第4回公募(2023年)では、「応募区分1」が「既存の『欧州大学』コンソーシアムを深化させる取組 (継続)」、「応募区分2」が「新たな『欧州大学』コンソーシアムを構築する取組 (新規)」であった。今回の第5回公募では、「継続」「新規」を区別していない。

◆「実践共同体」の役割

 欧州委員会は、「実践共同体」に次のような役割を求めている。
知識の共有と学び合い:コンソーシアム間での知識の共有やグッドプラクティスの横展開を通じ、持続的な学びと質向上を目指す

スキルの向上:コンソーシアムとしての能力やスキルを向上させる機会を提供し、専門家集団としての成長を図る

ネットワークづくりと連携協力:同様の興味関心を持つコンソーシアム同士が関係性を深めることで相乗効果を高め、ハブの形成等を通じて連携協力を強化する

イノベーション創出と課題解決へ:共同体のメンバーとして共通の課題に共に取り組み、欧州委員会や加盟国を巻き込みながら課題解決に向けた新しいアプローチを探求する

 このように欧州委員会は、実践共同体で得られた知識や成果を高等教育セクター全体に普及させ、さらに社会において広く活用することを企図している※8

※8 原典③では、”…enhance the transferability of the results and their uptake by relevant end-users” (p. 8)と表現している。

◆「実践共同体」における具体的取組

 実践共同体では、例えば以下のような具体的取組が望まれている。

◎対話型フォーラムやテーマ別ワーキング・グループの立ち上げと運営
◎課題や新たなトレンドについて議論するディスカッションの開催(ウェビナー、対面式)
◎欧州委員会や加盟国との交流も可能な、誰にとっても利用しやすいコンソーシアム間の共同プラットフォームの運営
◎プラットフォーム機能の一部として、各コンソーシアムが様々なリソース、様式、手引き等を共有し、相互アクセスを可能とする
◎直面する課題の解決策について、欧州委員会へ直接意見を提供する

◆「欧州大学」が育む欧州の未来

 「実践共同体」において、「欧州大学」のコンソーシアム間のみならず高等教育セクター全体に向けて成果を普及させるための強固で有意義なアプローチを構築し実践することで、「欧州大学」の成果をより広範な社会全体へと拡大することが期待されている。
 「欧州大学」プロジェクトの取組は、このように欧州の将来を見据え、若者・生涯学習者・研究者がイノベーターや起業家となっていくような未来に繋がるスキルを、質の高い教育によって提供することを目指している。

原典①:欧州委員会(英語)
原典②:欧州教育圏(英語)
原典③:欧州委員会(英語)

■関連記事まとめ■ (QA UPDATES過去投稿記事より)

1.「欧州大学」が過去最大規模の50コンソーシアムへ
(本サイト 2023/8/14投稿記事)

2.「欧州大学」が直面する4つの課題―質の高い連携のために
(本サイト 2023/1/27投稿記事)

3.「欧州大学」の予算規模が350億円超へ―戦略的連携が深化
(本サイト 2022/10/12投稿記事)

4.「欧州大学イニシアチブ」の初の採択コンソーシアム17件が決定
(本サイト 2019/7/24投稿記事)

5.EUの大学戦略:国境を越えた大学間連携・共同学位を促進し経済・環境問題等の解決へ
(本サイト 2022/3/18投稿記事)

6.EU理事会が決議書「欧州教育圏:2025年以降を見据えて」を承認
(本サイト 2023/7/19投稿記事)

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