2025年10月、欧州評議会※1とUNESCO(国際連合教育科学文化機関)が共同で、「国境を越えた教育に関するグッド・プラクティス行動規範(Code of Good Practice in the Provision of Transnational Education)」と題した文書を公表した。同文書は、欧州における資格承認の地域規約であるリスボン承認規約の補足文書の位置付けにあり、2001年に初版が公表、2007年に改訂(本サイト2014/11/11投稿記事)がなされたが、高等教育における最新の動向も踏まえ、今回18年ぶりに改訂が行われた。
※1: 欧州評議会(Council of Europe):
人権、民主主義、法の支配の分野で、その価値を普及することを目的とし、国際社会の基準策定を主導する汎欧州の国際機関。現在、EU全加盟国に加え、英国、トルコ、ウクライナなども含めて46か国が加盟。日本は米国、カナダなどとともにオブザーバー国として参加している(外務省ウェブサイトをもとにNIAD-QE国際課にてまとめ)。
■国境を越えた教育(Transnational Education: TNE)とは
本行動規範において、TNEは以下のように定義されている。
「学習プログラム、一連のコース、教育サービスの一部または全部について、ある国の教育システムの要素を借用または移転し※2、別の国で展開する、という形の国境を越える教育の一群。実施形態としては、教員、学習者、知識、プログラム、プロバイダー、カリキュラムが国境を越えて移転することを含む。これは今日的な多様な教育形態※3を含み、学習者の国境を越えた移動の有無は問わない。
TNEで提供されるプログラム、授与される資格は、以下のいずれかに属する。
・教育提供機関が属する国の国内の教育システム
・教育提供機関が教育を実施する国とは異なるリスボン承認規約の締約国の、教育システム
・いずれの国の教育システムからも独立」
※2: 借用または移転された教育システムの要素が、特定の国の教育システムに依拠しない場合もある。
※3:遠隔教育、ブレンド型学習といった、学位授与機関が受入国に大規模な教育拠点を置かない場合も含む。(ブレンド型学習(blended learning)とは、従来型の教育・学習とeラーニングを組み合わせる手法。典型的には対面型のやりとりとオンライン学習の組合せが用いられる。)
■本行動規範の背景・目的
昨今、TNEは飛躍的に増加するとともに、その形態についても多様化している。一方で、TNEによる教育の質の確保、TNEによって授与される高等教育資格の適切な評価、承認が課題となっている。
本行動規範は、国境を越えた高等教育資格の円滑な評定・承認を目指すリスボン承認規約の補足文書※4の位置付けにあり、特に学習者保護の観点から、拡大するTNEの教育の質とインテグリティを確保すること、また、授与される資格の通用性が向上することを目指している。そのため本行動規範では、「原則」に加え、「TNEに関する質保証と資格の承認」「TNEに関する情報提供」等の項目について、TNEを提供する/受け入れる国の政府の役割を明確にするとともに、資格承認機関、高等教育機関がとるべき基本的な考え方を述べている。※5本行動規範の原則や実践は、リスボン承認規約外の国の資格をリスボン承認規約内の国内で承認する際にも適用されうる。
※4: リスボン承認規約の補足文書は、法的拘束力を有さず、本行動規範も同様である。本行動規範は、規範的枠組みとして、関係機関の参考となることが期待されている。
※5: 本行動規範の目的として、(ⅰ)派遣・受入両国の期待を充たし、(ⅱ)提供されるプログラム及び授与される資格の質保証と評価の参考となり、(ⅲ)学習者・雇用者を含む関係者すべての利益を保護し、(ⅳ)授与される資格の通用性を高める役割が挙げられている。
以下では、TNEの教育の質の向上と資格の通用性を支えるために、今回の改訂で新設された、本行動規範セクションIIIの「TNEに関する質保証と資格の承認」の概要を紹介する。
■TNEに関する質保証と資格の承認(本行動規範セクションIII)
本セクションでは、1.政府、2.資格承認機関、3.高等教育機関、それぞれが取るべき方途を述べている。以下にポイントを紹介する。
1.リスボン承認規約内のTNE派遣国・受入国の政府には、質保証と資格承認のため、以下の基礎的な取組みを行うことが求められている。
- (ⅰ)派遣国及び受入国におけるTNEに関する質保証とアクレディテーションに関する仕組みの確立
- (ⅱ)TNEによる高等教育機関の登録、認可についての、受入国における公正で透明性のある制度の確立
- (ⅲ)TNEを実施する高等教育機関と、TNEプログラムに関する情報の、公的なリスト(例:教育省の高等教育機関のリスト)への掲載
- (ⅳ)TNEの効率的な規制に関する派遣国・受入国間での協力
- (ⅴ)学習者、教員、教育提供機関のAIリテラシーを向上させるための国内、国際的なイニシアチブの促進。特に人間中心のAIに焦点を当て、教育現場において、包括的なAI技術とのかかわりを可能にさせる。
- (ⅵ)TNEのプログラムに対する、周期的な外部評価の受審とその結果の公表の要請
2.資格承認機関※6には、TNEによって付与される資格の承認に際して、以下が求められている。
- (ⅰ)以下の違いを考慮する。
- ・登録、認可等、適切なプロセスを経て外国の高等教育機関が受入国で教育を提供する権利
- ・受入国で高等教育機関が学位を授与できる権利
- ・TNEによって授与された資格が締約国内の資格承認機関に承認される権利、及び高等教育機関が受入国の資格承認手続きにアクセスできる権利
- (ⅱ)TNEの提供が、派遣国と受入国双方における規制をどの程度踏まえているかについて考慮する。
- (ⅲ)TNEによってある国の資格が授与される場合、資格、教育内容、高等教育機関そのものについてその国に所在する高等教育機関と比較可能な質保証がなされていれば、資格承認機関は当該資格を承認する。
- (ⅳ)教育を提供する高等教育機関が所在する国の手続き、法制度に立脚した質保証メカニズム、「欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン(ESG 2015)」(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)、類似の制度に基づき付与される資格について、資格承認機関は当該資格を承認する。
- (ⅴ)TNEの資格を評価する際の主要な要素として、学位授与機関と教育提供機関双方におけるプログラム及び機関の質保証を考慮する。
※6:外国資格の承認について、関係者が拘束される決定を行う責任を有する機関のこと。
3.高等教育機関には、学位授与機関としての役割、教育提供機関としての役割に分けて、質保証について以下の役割が求められている。
(ⅰ)(学位授与機関としての役割)・プログラム、教育活動は、国内で提供される場合、国境を越える場合(学位授与機関が独立して行う場合、受入国のパートナー機関と協力して行われる場合)、について、学術の質と基準について両者が比較可能な水準となるようにし、比較可能な評価を受ける。
・高等教育機関は、TNEから得られる資格を発行する責任を有し、資格の位置づけについての明確な情報(教育提供機関についての情報、海外キャンパスの情報を含む)を明らかにする。
・TNEの取り決めによって提供されるプログラムは、派遣国の質保証やアクレディテーションの基準と実施を尊重する。また、TNEによるプログラムは、受入国において、法律上の外国教育として、あるいは受入国の教育の一部として適切に認められるようにする。
・このことによりTNEによるプログラムは、質保証と規制の責任を有する。TNEの取り決めに基づく教育サービスの提供の質に関する手続きと決定は、同じような基準に基づき、透明で、体系的で、精査に耐えるものにする。
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