QACHE:国境を越えた教育の質保証の実態がまとめられる

原典: ENQA(欧州高等教育質保証協会)

2016年4月、ENQAにより、QACHE(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト[以下、当プロジェクト])の最終報告書「Quality Assurance of Cross-border Higher Education―Final report of the QACHE Project」及びツールキットが公開された。当プロジェクトは、国境を越えた高等教育(CBHE:cross-border higher education)の質保証をテーマとしており、エラスムス・ムンドゥスプログラム(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)の助成により、2013年10月から2016年3月にかけて行われた。
当プロジェクトには、HCERES(フランス研究・高等教育評価高等審議会)やQAA(英国高等教育質保証機構)などの欧州を中心とする質保証機関のほか、APQN(アジア太平洋質保証ネットワーク)などの地域的ネットワークも参加している。

報告書の構成

当プロジェクトは1から4のフェーズに分かれて実施されており、報告書では全てのフェーズを踏まえた結論が出されている。

  • <第1フェーズ>現在行われている様々な取組みの共有、分析
  • <第2フェーズ>質保証機関のCBHEへの取組みについて、欧州4ヶ国(フランス、ドイツ、
  •        スペイン、英国)とオーストラリアのカントリーレポートを作成
  • <第3フェーズ>欧州、アラブ、アジアで地域フォーラムを開催
  • <第4フェーズ>プロジェクト最終報告会議を開催

地域ごとの特徴

  • 3つの地域(欧州、アラブ、アジア)の質保証機関や、欧州の教育提供者に対するアンケート・複数国のカントリーレポートから、国家レベル・国際レベルでのCBHEに対する監督を高める必要性が明らかとなった。
  • アラブ地域とアジア地域では、CBHEの人気が高まっているが、CBHEの質保証に関して、専門性と人材の育成の整備が喫緊の課題である。これらの地域では、外国の資格の認証や国内外の資格の比較可能性に関連した事柄が主な課題となっている。
  • 欧州の質保証機関に対するアンケート結果とカントリーレポートにより、欧州にはCBHEとその質保証に対する、欧州地域内で共通したアプローチがないことが明らかになった。
  • CBHEの質保証に関して、経験が豊富な英国や豪州以外の国は、CBHEにおける機関間の協力に関して、発展的な制度が欠如している。特にフランスとスペインでは、CBHEの提供に関する包括的な情報が利用できない状況になっているが、その他の調査国についても包括的な情報の提供は乏しいといえる。
  • 派遣国と受入国の間でそれぞれの管轄の規制枠組の内容についての相互理解がとれていない。派遣国と受入国の間の質保証に関する責任関係が明確でない。それらの課題を解決するため、CBHEに関する情報の欠如に対応していく必要がある。

地域的なネットワーク

  • 他地域の質保証機関との連携強化は、CBHEに関する情報交換や政策対話を促進・向上させ、規制を普及させることにつながる。
  • ENQAやANQAHE(Arab Network for Quality Assurance in Higher Education)、APQNといった高等教育の質保証に係る地域的なネットワークは、国の高等教育制度、質保証へのアプローチ、高等教育機関に関する中核的なデータベースとして機能する理想的な場とみなされている。
  • 地域フォーラムでの議論では、各国家ごとの規制基準(national reference points)と同様に、ESG(欧州高等教育圏における質保証の基準とガイドライン)(NIAD-QE国際連携ウェブサイト参照)をはじめとした既存の国際的なガイドラインの上に新たに築く必要性を強調している。

ツールキット

  • 最終報告会議でとりまとめたツールキットは、CBHEの質保証の促進を目指しており、既存の国際的なガイドラインのもと、質保証機関がいかに様々な種類の連携に取り組むべきか、実務的な手引きと推奨事項を提供することとしている。また、ツールキットは革新的な手段を用いて、CBHEの質保証の実践にも貢献している。

CBHEの取組に関する原則

以下の原則は、プロジェクト内諸会合での議論の中で明らかになったもので、CBHE派遣・受入側相互の様々なレベルの連携に向けたものとみなすことができる。ただし、それらの原則は国家レベルや地域レベルでの政策立案者の包括的な支援なしでは、完全に達成することができないと報告書では強調されている。

  1. CBHEに関する国家的なアプローチについての情報をよりアクセスしやすいものにすること
  2. CBHEの提供に関わる相手機関との情報共有活動を進んで行うこと
  3. CBHEの質保証に係るルールの制定を目指す場合は連携を行うこと
  4. 実質的なCBHEの提供において質保証を行う際の連携方法を模索すること
  5. 機関が属する地域的なネットワークは、情報共有と機関間の連携の機能においてより大きな役割を担うこと

結論

CBHEの推進は、これにより新たな課題がもたらされる側面はあるが、一方で高等教育への間口を広げ、若年層をはじめとする多くの人々の学問・知識・技能の修得機会の拡大へとつながるものである。
実際、このプロジェクトでは、質保証の関係者やその他高等教育の専門家によって、質の低い教育や不適切な提供者による教育といった問題や弱点を克服し、CBHEを大いに活用するための方法を探る必要性を見出した。
CBHEにおける共通の目標は、高等教育の提供者と学生の利益のために、協力関係にある国との間にある規制の差異や取組みの重複の解消に取り組みつつ、質の高いCBHEの提供を促進することである。

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