原典:オランダ高等教育審議会
2015年8月にオランダ教育審議会(The Education Council)*は「高等教育の質」をテーマとして、高等教育の質を改善する上で考慮すべきことや提言を発表した。
質保証の政策における問題点
オランダは高等教育の質保証について、一定の成果を上げているものの、投資に対する効果や学生の中退率など定量的指標に過剰に焦点をあてており、質保証文化の醸成・定着の重要性にはほとんど注意が払われていない点が指摘されている。また、説明責任が改善措置や教育プロセスにおける取組みと合致した形で果たされていないという批判がされている。
高等教育の質の改善のための方策
- 高等教育の質を改善するためには、質保証の方策の3つの側面、すなわち「目標」、「ツールキット」、「共同の意思決定」それぞれにおいて、バランスを取る必要がある。現在の方策は質保証について、目標に沿った統一的な基準を重視しているが、各機関や教員、学生自身が持つ質や目標に対する考え方を反映する余地がなく、質保証に対する考え方が教員や学生に共有されずに評価がなされる可能性がある。それによって教員や学生の関わりに悪影響を与えるおそれがある。
- 質保証の方策では、諸規則や諸報告、会計的、法的な制限事項に重点を置き、定量的指標を使用するよう強調しているが、定性的指標も重視すべきである。加えて、強固な質文化を構築し、維持していくために、下記の7つの事項に留意すべきである。
- 明確で共有されており、一貫して適用される優れた教育への考え方
- 集団や個人の学習能力に基づいた、質の改善のための方策
- 学習プログラム段階におけるリーダーシップ
- 協力を生み出す組織体制
- 質政策を支える人材管理政策
- 学生の積極的な関わり
- 対外的な説明(an external orientation)
- 質の改善には管理と自治の良好なバランスが必要であり、役割分担を明確にすることが求められる。すなわち、学生と教員が学習プログラムに関わっていると感じられるようにすべきである。同時に、政府や監督機関は、質保証文化の定着や教育の質の監督に責任を持つべきである。
オランダ教育審議会からの提言
上記の問題点と改善のための方策を踏まえ、オランダ教育審議会はオランダ政府に対し、次の3つの提言を行った。
- 学習プログラム段階における質文化の強化に取り組むこと
- 教育についての共通認識を形成し、一貫性のあるコミュニケーションを行うこと。
- 強力な質保証文化を構築するために、学生参画やコミュニティの形成を動機づけるようなインセンティブを提供し、学習プログラム段階でのリーダーシップを強化すること。また機関が内省する機会やフィードバックを受ける機会を提供すること。
- 高等教育機関は、自機関の内部質保証体制を見直し、学習プログラム内の質文化のために必要な環境を整えること
- 機関レベルにおける権利と義務のバランスを取る必要がある。政府や監督機関は教育の質について、責任を持って監督をすること。
- 監督機関は、高等教育機関が質保証文化を強化できるよう、内部質保証のための取り組みを確保すべきである。質文化を支えるために人材管理政策を活用すべきである。
- 政府主導の質保証体制を変えること
- 政府の主な役割は、質の改善に関する公的価値観を追い、改善するために適切な環境を整えることである。
- 機関が合意した質の目標に基づく制度を支持し、機関別アセスメントは廃止されるべきである。一方、学習プログラムをアクレディテーション制度の対象として継続するべきである。ただし、学習プログラムには教育に関する独自の考えを発展させる余地を高等教育機関側に残すこと。
- 学習プログラムは必要最小限の基準によって審査されるべきである。
*オランダ教育審議会(The Education Council)
政府から独立した組織で、大臣、議会、地方政府に対し提言を行う。