欧米等を中心にコンピテンスベース教育(CBE: competency-based education)※が拡大している中、ドイツの「高等教育の学位に関するドイツ資格枠組み(Qualifikationsrahmen für Deutsche Hochschulabschlüsse: HQR)」に各レベルのコンピテンスが明記されることとなった。
※コンピテンスベース教育(CBE)
学生の知識や技能、思考力、意欲、感性など能力の取得を教育成果とする手法。能力取得の判断は、学習者による取得能力の披露を審査することで行う。米国におけるコンピテンスベース教育に関する記事はこちら(本サイト2014年10月31日投稿記事)。また、欧州高等教育質保証協会(ENQA)が公開した「高等教育機関におけるコンピテンスベース教育の質管理のための手引き」に関する記事はこちら(本サイト2017年1月24日投稿記事)。
ドイツの資格枠組み
●高等教育の学位に関するドイツ資格枠組み(Qualifikationsrahmen für Deutsche Hochschulabschlüsse: HQR)
HQRは、2005年のベルゲン・コミュニケ(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)において欧州における「国ごとの資格枠組みの導入」が提唱されたことを受け、同年ドイツにて策定されたもので、高等教育の資格が3段階のレベルにより構成されている。のちの2008 年、HQRは欧州高等教育圏資格枠組み(QF-EHEA)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)との互換性が確立された。
●国家資格枠組み(Deutschen Qualifikationsrahmen: DQR)
高等教育レベルに限定された資格枠組みであるQF-EHEAとは別に、義務教育修了レベルから博士号取得レベルを比較可能とした欧州の資格枠組みとして、2008年に欧州資格枠組み(EQF)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)が策定された。これに対応するドイツの国家資格枠組み(NQF)として、2013年にDQRが策定された。DQRは、EQFと同様の8段階のレベルにより構成されている。
欧州レベルにおけるEQF策定がDQRの策定に影響を及ぼしたほか、前述の高等教育レベルに限定された枠組みであるHQR策定後、高等教育以外の分野(特に職業訓練及び継続職業教育)に対応する枠組みに発展させる必要性が示されたこともDQR策定への第一歩となった。
なお、HQRにおけるレベル1(学士レベル)、2(修士レベル)、3(博士レベル)は、DQRにおけるレベル6、7、8にそれぞれ対応している。
コンピテンスの明記
DQRには「知識(Wissen)、能力(Fertigkeiten)、社会技能(Sozialkompetenz)、 自律性(Selbständigkeit)」といったコンピテンスが示されている一方、従来のHQRにはコンピテンスに関する明確な説明がなされていなかった。そこで、2017年2月16日に開催された教育文化大臣会合において、コンピテンスが明記されたHQRの改定案が出され、承認された。
改訂のポイント
従来通りQF-EHEAとの互換性を維持しつつ、以下の4つの要素から成る「コンピテンスモデル(Kompetenzmodell)」を作成し、各レベルにおけるコンピテンスについて詳細な記述を加えた。
(4つの要素)
●知識・理解能力(Wissen und Verstehen)
●知識の活用・応用・生成(Einsatz, Answendung und Erzeugung von Wissen)
●コミュニケーション能力・協調性(Kommunikation und Kooperation)
●専門的自律性/専門性(Wissenschaftliches Selbstverständnis/ Professionalität)
コンピテンスモデルでは、特に能力開発(Kompetenzentwicklung)に重点を置き、各レベルにおける専門知識の活用能力と、専門知識を用いた新たな知識の生成能力を区別した記述となっている。
例:学士レベルにおける記述(一部を抜粋)
●知識・理解能力(Wissen und Verstehen)
・知識の拡大:知識・理解能力は大学入学条件レベルを基準とし、それよりも相当高いレベルを有する。また、各学習専門領域における広範かつ統合された知識と理解能力を有する。
・知識の深化:各研究プログラムにおける最も重要な理論や原則、方法について批判的思考力を有する。
●知識の活用・応用・生成(Einsatz, Answendung und Erzeugung von Wissen)
・知識・理解能力を仕事に活かし、各学習専門領域における問題解決に寄与することが出来る。
・知識の活用・応用:チームの一員として、複雑な問題解決に貢献することが出来る。
・知識の生成:研究課題を設定することが出来る。
●コミュニケーション能力・協調性(Kommunikation und Kooperation)
・問題解決能力を有し、理論的・方法論的推論をもって専門家やそれ以外の人と議論することが出来る。また、責任を持って問題解決に取組むことができ、コミュニケーション能力及び協調性を有する。
・ステークホルダーが持つ様々な見解や関心を考慮することが出来る。
●専門的自律性/専門性(Wissenschaftliches Selbstverständnis/ Professionalität)
・理論的・方法論的知識をもって、自身の活動を確立することが出来る。
・自らの能力を評価し、指針に基づいてその能力を活用することが出来る。
なお、日本においては、2008年、学士課程の共通の学習成果に関する参考指針として、「学士力(参照:NIAD-QE Glossary)」が定義されている。