移民、難民の潜在的可能性を活用するために―教育・雇用現場でできることとは

UNESCOが2018年12月にポリシーペーパー37号「What a waste: Ensure migrants and refugees’ qualifications and prior learning are recognized」を発行した。このポリシーペーパーでは、資格や既修得学習の審査に関する世界的な動向と各国におけるこれまでの取組を紹介し、移民や難民が有する資格や既修得学習の承認※1をしないことによる不利益を示している。

※1既修得学習の承認(Recognition of prior learning(RPL)は「従前の学習の承認」や「既修学習の評価」などとも呼ばれる。

学術資格の承認は学習・雇用目的での移動によってもたらされる利益を最大化する

  • ドイツでは移民がドイツに到着してから4年以内に資格の承認※2を受けることで、資格の承認を受けない場合に比べ、45%も雇用されやすくなり、40%以上も時給が高くなる傾向にあった。また、イタリアでは外国の学位を保持する30,000人の移民に対して行った調査により、資格の承認が失業を減らす効果をもたらすことが明らかになった。
  • 適切な資格の承認は学習成果に基づいて審査を行うことが大切である。OECDによれば、移民の3分の1は高等教育段階の資格を有しているにも関わらず、学歴に見合わない労働に従事していると報告している。また、雇用現場において資格保有者の能力を活用しきれていない理由の一つには、学習成果に基づく審査が欠如していることがあげられる。現実に多くの国でノンフォーマル、インフォーマル学習※3の承認状況は未成熟(初期段階)である。

※2資格の承認とは、締約国の権限のある承認当局が外国において付与された教育の資格の価値について定め、及びその価値に対して与える正式な確認をいう。

※3ノンフォーマル学習・インフォーマル学習
ノンフォーマル学習:
計画された活動に埋め込まれているが、(学習目標、学習時間又は学習支援などの点で)明示的に学習として示されていない学習。学習者の視点から見て意図的なものである。
(参考:職業能力開発総合大学校「欧州教育・訓練政策関連用語集」)
インフォーマル学習:
計画された活動に埋め込まれておらず、学習者本人も意図していない学習。

職業資格の承認は移住する個人にも、受け入れる国にも利益をもたらす

  • 受入国において職業資格の公的な承認プロセスを有する場合、資格保持者が受入国において特定の職業に従事する上で必要な技能や能力を有しているか、受入国側は適正に決定することができる。しかし職業に関する技能は各国で制度や規格が異なるため、職業資格の読み替えは学術資格と比べて難しい。
  • 伝統的に職業資格の読み替えのプロセスにおいて、受入国側の資格承認に関する判断は資格を発行した国の側に影響が及ばないため、一方向のプロセスとなり、移住する個人に様々な不利益がもたらされてきた。資格の「相互承認」の合意はこれらの欠点を克服しうる方法となる。ただし、この合意に至ることは簡単ではなく、例えば、ASEAN地域でも特定の職業に関して相互承認の合意があるが(本サイト2017/1/30投稿記事)、実際に機能しているのはシンガポールとマレーシア間におけるエンジニアの資格のみとされている。
  • 資格の承認プロセスの欠如は移民や難民の働く権利を制限するとともに、個人にもたらされる機会に深刻な影響を及ぼしかねない。実際、移住者の8人に1人は資格の承認の問題を言語の問題や差別、ビザによる制限よりも大きな問題であると捉えている。

まとめ―移民、難民の潜在的可能性を活用するために取り組むべきこととは

移民や難民の持つ潜在的可能性を活用するには、受け入れる側の政府による具体的な行動が求められる。資格パスポートのような超国家的な取組(本サイト2017/4/26投稿記事)も、地域的、国家的なレベルでの資格承認における重要な能力の構築に資する可能性がある。下記の提言はより注目すべき特定分野を示している。

  • 学術及び職業資格の承認の体制は、難民のために簡易化した手続きも含み、柔軟で申請者の負担を軽減したものであること。ただし、証書の発行や質を確保するため、機関の信頼度合いの側面においては妥協してはならない。政策は対応する人数の規模によって調節されるべきであり、政府は審査のための手続きの多様化に力を入れるべき。
  • ノンフォーマル、インフォーマル学習を承認する仕組みに例示されるような、学習のプロセスよりも学習成果に注目する動きは移民や難民のニーズに沿っている。明確で透明性が確保され、一貫した既修得学習の承認のための枠組みは必要である。それらの枠組みには教育関係のみならず、労働組合や雇用主の団体の関与が必要である。
  • 資格の承認プロセスについて、オンラインやスマートフォンのアプリを用いて広報すること。また関連する言語で広報することが望ましい。
  • 資格の承認は移民・難民支援のための様々なサービスによって支援されるべき。言語面での支援や進学への準備教育の提供等を始め、その他の社会的なパートナーと密接に協力して行うべきである。
  • 初等・中等教育段階に関して、国は移民や難民の知識、技能、能力を審査し、適切な学習段階に生徒・学生を配置すること。高等教育段階では、資格手続きを一貫させる一方、国内、国際的な規模で情報交換を促したり、難点への注意を喚起したりするべく、資格の承認手続きでのつながりやシナジーを活用すること。
  • 資格や既修得学習の承認の運営は提供されるデジタル技術を用いて効率化すること。それによって存在する障壁を克服し、想定される否定的な結果を避けるべく、慎重に検証すること。


原典: UNESCO(英語)

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