2018年12月、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ASEAN資格参照枠組(AQRF)※について一般向けのガイドライン「A Practical Guide and All You Need to Know」を発表した。
当ガイドラインは一般市民を対象とし、AQRFがどのように機能し、どのような効果を人々の生活にもたらすか説明することを目的としている。具体的にはAQRFの目的や枠組みの内容、質保証とAQRFの関係等について説明しているほか、各国の国家資格枠組(NQF)とAQRFの対応関係を示すことを目的とした資格枠組の参照作業についても記されている。
2015年に開発されたAQRFに関しては、2017年2月にASEAN諸国がAQRF委員会を設立し(本サイト2017/8/9投稿記事)、現在に至るまで同委員会がAQRFを実施しており、2019年6月以降、AQRFをNQFと参照させるにあたって各国が作成するAQRF参照報告書(AQRF Referencing Reports)について考察する予定である。当ガイドラインのような一般向けの資料の公開は今回が初とされる。
※ASEAN資格参照枠組(ASEAN Qualifications Reference Framework:AQRF)(参照:NIAD-QE国際連携ウェブサイト)は、ASEAN地域内における学生と労働者の移動に伴って必要となる、教育資格の承認や比較を可能にさせる仕組みを持つ地域的資格枠組であり、8段階のレベルで構成されている。ASEAN地域の国の発展状況や資格制度が国により多様である中、AQRFは各国の教育・訓練制度の相互理解や透明性を高めることによって、地域における教育資格への信頼を促進するとされる。
AQRFがもたらすメリット:労働者、学生、職業のモビリティの向上
当ガイドラインでは、AQRFがどのような役割を持ち、どのようなメリットを一般市民にもたらすことができるかについて、下記のとおり列挙している。
- AQRFはASEAN諸国の資格制度を説明する役割を持ち、ASEAN諸国の資格制度とASEAN地域における質保証枠組の相互補完を高める。
- AQRFは労働者や学生にASEAN域内外での移動を促進する力を持つ。
- AQRFはASEAN地域の信頼の醸成と深化をもたらすことによって技能や資格の相互承認を促進し、相互承認は職業の流動化をもたらし、また、資格を有する労働者の移動を高める。
- AQRFは地域的に共有される理解と信頼に基づきつつ、自国の教育制度と他国の教育制度との連携を促すため、自国のNQFをAQRFと参照することによって、自国の高等教育制度とその質制度を強化することができる。
資格枠組の参照行為―国家資格枠組(NQF)を地域的資格枠組に結びつけるとは?
資格枠組の参照(reference)とは、各国の国家資格枠組を地域的な資格枠組と結びつけることであり、対応関係を明らかにすることによって他国の資格を自国の資格に読み替えることが可能となる。ASEAN地域のみならず、欧州地域でもこの動きは見られる(本サイト2015/7/6投稿記事)。現在、ASEAN諸国においては既にNQFを有するか、または構築段階にある(本サイト2017/8/29投稿記事)が、地域的な枠組みであるAQRFとの参照は始まったばかりである。
AQRFは学習成果をベースに資格段階が示されているため、AQRFとNQFを参照させるためにはNQFのそれぞれの資格段階における学習成果を使う必要がある。各国のNQF等が学習成果に必ずしも基づいている必要はないが、NQFが学習成果をベースに構築されていない場合には、学習成果ベースのアプローチに向けた取り組みの進歩状況をAQRF参照報告書に記載しなければならない。
学習成果ベースのアプローチは様々な場面で採用されており、そのメリットとしては、公的に認められた教育プログラムの外にある学習を承認しやすくなることがあげられる。具体的には外国での学習歴や既習得学習が承認されると、適切な学習段階への進学や雇用につながり、より効率的な人材開発が可能になる(本サイト2019/2/25投稿記事)。
原典: ASEAN(英語)