7つの分野で職業資格の相互承認協定
観光業資格では自動承認の状況
医療系3分野では共通の枠組みが未整備
10ヶ国が1つの共同体を構成する東南アジア諸国連合(ASEAN)では、これまでに7つの分野*1で各国の職業資格を認め合うための協定を結んでいる。アジア開発銀行はアメリカのシンクタンクMPIに委託して、相互承認協定(MRA: Mutual Recognition Agreement)と呼ばれるこの制度の実施状況を調査し、その結果を明らかにした。
*1エンジニア、看護師、建築士、医師、歯科医師、会計士、観光業資格の7つ。さらに測量士に関しても枠組み作りが進んでいる。
“Open Windows, Closed Doors”と名づけられたこの報告書によると、相互承認が最も進んでいるのは観光業資格*2。ここでは、ASEAN共通の職業資格が各国に導入されており、資格を取得した国に関わらず他の国での就労が可能な「自動承認」という状況が生まれている。
*2飲食サービス9件、調理10件、接客5件、家政5件、旅行手配12件、旅行代理11件の資格が含まれる
観光業のASEAN共通資格の例:接客部門
資格名(レベル) | 該当する職業例 |
The Certificate II in Front Office – Incorporating Certificate I | Junior Bell Boy, Assistant Porter, Bell Boy, Porter |
The Certificate III in Front Office | Assistant Receptionist, Telephone Operator |
The Certificate IV in Front Office (Guest Services Supervision) | Front Office Receptionist, Manager – Guest Relations, Concierge, Night Auditor, Front Office Shift Captain |
The Diploma of Front Office (Supervision and Administration) | Front Office Supervisor |
The Advanced Diploma of Front Office | Front Office Manager |
一方で、会計士、建築士、エンジニアの資格では、各国の資格がまずASEAN共通の資格に読み替えられる。その後、就職先の国の資格にもう1度読み替えられることで、結果的に資格の相互承認が実現するという状況である。しかし、読み替えの際には各国独自の制約などが加味されることがあり、必ずしも希望の職業に従事できないのが実情のようである。
他方、歯科医師、医師、看護師ではASEAN共通の資格や承認組織が整備されていない。そのため、各国の資格は移動先の国の資格と直接比較されることになる。この制度のもとでは資格の審査に大変時間がかかり、前述のASEAN共通資格がある場合と比べ、国の移動にともなう障壁は非常に大きい。
ASEANと同じく労働者の移動障壁の撤廃を目指す欧州でも、一部の職業資格では相互承認が始まっている。「職業資格の相互承認に関する指令」(2005/36/EC)は、欧州域内の職業移動の自由をもたらすために定められている。これに基づき、現在6つの業界*3で資格の相互承認が実行(本サイト2015年3月16日掲載記事)されており、さらに助産師資格についても2020年までに相互承認を実現することで合意されている。
*3ヘルスケア、医師、歯科医師、看護師、獣医師、薬剤師、建築士