コメント(解説):複数の学位授与機関が関わる学位プログラムの質を保つために、教育機関はどのようなことに気をつけるべきでしょうか。イギリスの質保証機関QAAは、こうした学位プログラムを提供する教育機関が直面し得る課題をまとめ、考えられる対応策を提示しています。イギリスの高等教育機関を念頭に作られていますが、ジョイントディグリーやダブルディグリー課程提供の際は日本の大学関係者も知っておきたい内容になっています。
正式名称
Characteristics Statement: Qualifications involving more than one degree-awarding body
(299KB, PDF)(※2023/1/13時点でリンク切れ)
実施主体
QAA(英国高等教育質保証機構)
発表年
2015年
概略
QAAが第三者評価を行う際に参照するクオリティ・コードの補足文書として、複数の学位授与機関が関わる学位に対する考え方をまとめたもの。少なくともイギリスから1機関が参加する共同教育プログラムを対象に、複数機関による学位授与が見られるようになった背景、学位の分類、プログラムの質を保つために留意すべきことが記載されている。
(※2023/1/13追記)
上記参照文書の改訂版が2020年に刊行されています。
Characteristics Statement: Qualifications involving more than one degree-awarding body
共同教育プログラムで授与される学位のタイプとその範囲
①関連機関の学位取得要件が相互に依存する学位
該当する共同教育プログラムを修了するためには、関連する教育機関すべての学位取得要件を充たさなければならないケース。一般的には、共通のプログラム修了要件が(学習成果あるいはそれ以外を用いて)設定され、それを達成した学生には学位などの修了資格が授与される。
修了資格が単一の場合はジョイントディグリーとなる。しかし、国の制約などによって単一の資格授与が困難な場合に、複数学位(ダブルディグリーなど)が与えられる。
②関連性はあるが本質的にはそれぞれが独立した複数の学位
複数の機関が協働している部分はあるものの、すべての参加機関の学位取得要件を充たさずともプログラムを修了できるケース。通常は、こうしたプログラムを修了することで複数の参加機関の学位授与要件が充たされるように設計されている。
例えば、プログラムの初年度は自大学で学び、翌年から自大学と相手大学を交互に行き来しながら学習するようなモデルが該当する。この結果、修了者は2つの大学の学位授与要件をそれぞれ充たし、2つの学位を別々に与えられる。
①との違いとしては、プログラム全体の期間と学習量、単一の大学による同レベルの学位を取得する場合よりも大きくなることがある(①の場合は期間と学習量は同じ)。しかし、参加大学同士の取り決め(単位互換協定など)によって、別々にプログラムを受講するよりは少ない労力で複数の資格を得ることができる。
ボローニャプロセスでは、こうした学位をデュアルディグリーと呼ぶ。
複数機関が関わる学位の質を維持するための対策
上記学位の質保証での課題
参照文書で挙げられている課題は下記の4点。しかし、考慮すべき事柄はこれに限らない旨も述べられている。
- 共同・単一の学位の授与、あるいは他の学位授与機関と協働しての学位授与に対する法的制限
- 自らの大学の学術的水準に対するリスク
(自大学単一の学位よりも水準の下がった学位を授与することにならないか) - 参加機関が属するすべての国での、こうした学位の制度的適合性
- 学生に対する充分な説明、情報の提供
質保証のための対策
参照文書では、下記の8つの項目について考えられる対策を提示している。各項目については2つの両極端な対策が提示されており、実際にはこれらの提示を参考に各機関の状況に応じた対応を取るよう、教育機関に呼びかけている。
- 学術水準の監督
- 学術水準に関する規則
- プログラムの承認
- (学生に対する)審査
- 試験委員会
- 外部試験員(注:イギリス独自の制度に対する対応)
- モニタリングとレビュー評価
- 修了証と成績証明書