中国:教育部が234の中外(国際)共同運営教育機関とプログラムの閉鎖を発表

中国には、「中外共同運営教育(原語:中外合作办学)」と呼ばれる、中国の教育機関と海外の教育機関が共同で教育を提供する国際共同運営教育機関ならびに国際共同運営教育プログラムが合わせて2,342件(2018年6月現在)あるが、2018年7月4日、教育部は「中外共同運営教育条例」とその「実施方法」に基づき、中外共同教育運営者からの閉鎖申請を審査した結果として、学士課程以上の教育を提供する5つの中外共同運営教育機関ならびに229の中外共同教育プログラム、合わせて234件を閉鎖したと発表した。この中には、対外経済貿易大学卓越国際学院(Fort Hays State University)や、北京大学とオーストラリアの大学(La Trobe University)による衛生事業管理修士課程プログラムなどが含まれている。なお個々の閉鎖時期及び閉鎖理由は明らかにされていない。

2003年の「中外共同運営教育条例」の公布後、特に高等教育の質の向上に関する政策として「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010-2020年)」※1が2010年に発表されて以降、中国における中外共同運営教育は急速な発展を遂げた。中外共同運営教育は、海外の良質な教育資源を導入することにより、中国における高等教育の改革・発展に大きな役割を果たしている。現在認可を受けた中国国内の高等教育段階の中外共同運営教育機関・プログラムに在籍する学生は約45万人に達している。
※1当機構のウェブサイトに掲載しているインフォメーションパッケージ「各国の高等教育分野における質保証システムの概要:中国」P.10を参照。

その一方で、教育の質が十分保証されていない、中国社会のニーズに合っていない、学費が高額であるなどの理由から十分な学生数を確保できないなど、多くの問題を抱えている機関やプログラムもある。
このため、中国政府は中外共同運営教育の改善に向けた様々な政策文書を発表して、質向上に取り組んできた。

2013年からは、教育部学位・大学院教育発展センター(CDGDC)による、本科課程(日本の学士課程に相当)以上の中外共同運営教育機関・プログラムについて、「中外共同運営教育評価」を本格的に開始し、質保証に取り組んでいる※2
※2当機構のウェブサイトQA UPDATESの記事「中国のCDGDCによる(中外共同運営教育評価)の実施」を参照。

2016年2月には中国共産党中央弁公庁と国務院が連名で、「新時代の教育対外開放業務に関するガイドライン(原語:关于做好新时期教育对外开放⼯作的若⼲意⻅)」を発表し、中外共同運営教育が量的拡大から質の向上への転換点を迎え、質の低い中外共同運営教育機関やプログラムを淘汰し、全体としての質向上を実現するための撤退メカニズムを強化する方針を明らかにした。

今回の発表について教育部は、教育の質が十分確保できない中外共同運営教育が閉鎖されることは、中外共同運営教育の内部発展と質の向上に資するものであるとしている。

また、教育部は制定後約15年が経過した「中外共同運営教育条例実施方法」について、2017年から改訂作業を開始しており、情報公開の義務と、年度報告制度の厳格化、評価認証などの質保証メカニズムの改善、法的責任の強化による十分なプロセスベースの規制実現を目指している。

現在、合わせて2,342ある中外共同運営教育機関およびプログラムの内、学士課程レベル以上教育を提供するものは1,090存在するが、今回発表された閉鎖数はその約5分の1にも相当する。

このため今回の閉鎖リストの発表は海外でも注目を集めており、これを中国政府の締め付けの強化とする報道もなされている。

こうした報道の背景として、全高等教育機関への中国共産党による指導強化に対する懸念があげられる。

現在中国では、高等教育を社会主義を担う次世代の人材育成の重要な役割を担うものとして位置付け、高等教育における政治思想教育に力を入れることを2018年5月に北京大学で行われた「習近平講話(原語:習近平:在北京大学师生座谈会上的讲话)」の中で重要な政策として掲げている。全高等教育機関への中国共産党による指導が強化されているなか、2017年に共産党から「中外共同運営高等教育における共産党組織構築に関する通知(原語:关于加强高校中外合作办学党的建设工作的通知)」がなされ、中外共同運営教育機関においても、党組織の設置、党組織による選択権・監督権の行使、思想管理状況に関する報告を行うなどの要求が盛り込まれ、共産党による指導を強める方針が示されている。

このように、中外共同運営教育が中国共産党の指導下に置かれることになった結果、海外では学問の自由の保証を危惧する報道もなされている。

こうした中、中国農業大学(China Agricultural University)と連携し、2018年9月にオランダ初の海外ブランチキャンパスとなる煙台校の開校を目指していたフローニンゲン大学は、学問の自由の確保等に対する不安などの理由で学内の賛同が得られず、2018年1月29日に計画の事実上の中止を決定するに至っている。※3
※3当機構のウェブサイトQA UPDATESの記事「中国でオランダのブランチキャンパス開校に向けて―高等教育・研究法の改正」と「学生らの反対を受けフローニンゲン大学がオランダ初の中国ブランチキャンパスを断念」を参照

原典:中国人民共和国政府(添付1中外共同運営教育機関閉鎖リスト/添付2中外共同運営教育プログラム閉鎖リスト)
参考:教育部

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