「ユネスコ資格パスポート」プロジェクト発足
証明書類を持たない難民の進学を支援
ザンビアで試行し、世界的な展開を見据える
自身の学習歴を証明する書類を持たない難民への進学支援の取り組みが、欧州から全世界に展開されることになった。2019年8月に、ユネスコは「ユネスコ資格パスポート」(UQP: UNESCO Qualifications Passport for Refugees and Vulnerable Migrants)の試験運用をザンビアで開始するための最初の会合を開いた。ザンビア側で同事業に関わるザンビア資格機構(ZAQA*1)の発表によると、この会合は8月28~29日に首都ルサカで行われ、ZAQA、ユネスコ、NOKUT*2、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の関係者と、ザンビア国務省難民担当コミッショナーが参加した。ユネスコは、近年の難民が置かれた状況をふまえ、この事業が国連の難民と移住に関する2つのグローバル・コンパクト*3達成に向けて優先的に取り組むプロジェクトになる可能性がある、とUQPに期待を寄せている。
ノルウェーから欧州、そして世界へ
「ユネスコ資格パスポート」は、欧州地域で実施されている「難民のための欧州資格パスポート」(本サイト2017年2月16日掲載記事)(EQPR)の取り組みを世界に広げる形で実施される。「欧州資格パスポート」は難民に対する欧州共通の資格審査として、欧州評議会が主導し、世界11か国と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の参加のもと2017年から実施されている。これまでギリシャ、イタリア、オランダで審査が行われ、249人に資格パスポートが発行された。ノルウェー政府の発表では、このうち21人の難民が欧州の大学への進学を果たしている。
ノルウェーは、2016年に「資格パスポート」の制度を国内で創設。急増した難民を受け入れるため、従来よりも迅速かつ簡易的に証明書類を持たない難民の資格を審査できるようにした。難民の持つ資格の審査は、欧州や北米の国々が締結するリスボン承認条約(LRC)で、締約国が「あらゆる合理的な努力」を払って行うとされている。同様の条文は、日本を含むアジア・太平洋地域の国々が締結する東京規約(本サイト2018年3月15日掲載記事)にも含まれている。
日本では当時の文部省が通知
日本では(本サイト2019年4月1日掲載記事)、1970年代にインドシナ難民を多数受け入れた際、卒業証明書などの取り寄せが困難な場合は難民認定申請書などの提出をもって大学に入学できると当時の文部省が通知している。この通知は現在でも適用されており、例えばUNHCRの支援の下、各大学が難民を受け入れる「難民高等教育プログラム」では、成績証明書を入手できない応募者は「学歴に関する陳述書」を用いた出願が認められている。
難民に対するユネスコの責務
「ユネスコ資格パスポート」は各国で異なる証明書を持たない難民への対応を統一する狙いがある。そして、教育を攻撃から守り、教育を受ける権利を保障し、インクルーシブな教育環境を世界レベルで構築するというユネスコの責務に貢献することが期待されている。同機関はリリースの中で、「ユネスコ資格パスポート」は2016年に採択された難民と移民のためのニューヨーク宣言の内容にかなっており、ザンビアでの会合は小さいが次につながる重要な一歩である、と述べている。
*1ZAQA: Zambia Qualifications Authority
*2NOKUT: Nasjonalt organ for kvalitet i utdanninga。ノルウェーで難民の資格審査を受け持っている政府機関
*3国連グローバル・コンパクト:各企業・団体が責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって、社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに参加する自発的な取り組み(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンより)