学位の価値を揺るがす成績インフレがイギリスで蔓延(2017-18年)

※(参考)2020-2021年度の分析について、2022年8月に記事を掲載しました。
 イギリス:拡大する成績インフレ―10年間の推移を分析(2010-11~2020-21年度)(2022/8/3掲載)

 イギリスのイングランドでは近年、学部卒業生の成績インフレが大きな問題となっている。2019年7月11日に学生局が公表した成績分布状況の分析によると、2017-18年度も前年度に引き続き、最優秀の成績(1st)で卒業する学生の割合が説明のつかない(unexplained)増加をしていた。イギリスの成績インフレに関する以前(2015-16年度)の記事はこちら(当サイト2017/10/11掲載記事)

(補足)イギリスの大学では、卒業時の成績に基づき、以下のように学位の分類を行う。( )内は100点満点で換算した目安である。
「1st」/First class(70点以上)
「2:1」/Upper second class(60~69点)
「2:2」/Lower second class(50~59点)
「3rd」/Third class(40点~49点)

学生局の分析結果

  • 1stの成績を取得した卒業生の割合が、2010-11年の15.7%から2017-18年には29.3%まで増加している。2016-17年からも2.1%増加している。(表1)

表 1 成績分布の変遷(2010-11年、2016-17年、2017-18年)

(OfS, Analysis of degree classifications over time(2019年7月11日), p.7, Table1を基に作成)
  • 2017-18年の分析に参加している大学と大学以外の高等教育機関(計148校)のうち、94%の機関が2010-11年に比べて1st学位取得者の割合が説明のつかない増加をした。
  • 大学入学時の成績別に卒業時の成績を分析すると、イギリスの代表的な大学入学資格であるGCE Aレベル試験3科目の成績がすべてD以下(GCE Aレベル試験の成績は上からA*、A、B、C、D、Eまでが合格)であった学生が1stまたは2:1の成績を獲得する割合は、2010-11年から2017-18年の間に29.1%増加している。また、この分析対象を1stに限定すると2017-18年の割合は2010-11年の約4倍になっている。

成績インフレへの対策

  • 高等教育業界主導のもと英国高等教育の質の評価に関して監督を行う英国質保証常任委員会(UKSCQA:UK Standing Committee for Quality Assessment)は、すべての学位が一貫した公平な基準で認定されていることを保証するため、「高等教育業界が承認した基準」として成績分類の参照基準の作成を進めている。
  • 学生局は今後、成績優秀者の割合について説明のつかない増加が顕著であった大学や高等教育機関に対し、増加の要因について追加の情報を提供するよう求める。このプロセスの中で、学生局は想定できていなかった増加要因があることを発見できる。
  • 学生局が成績分布に関して前回の分析結果を公開した2018年12月以降、大学はUKSCQAからの働きかけを受け、成績インフレの抑制に取り組む計画を共同で作成している。


  • ※ 説明のつかない増加とは
     学生局によると成績に影響を与える可能性があると想定される下記の要因では説明できない状況を「説明のつかない(unexplained)」と表現している。

    • 卒業生が所属した各高等教育機関の成績状況
    • 卒業年
    • 専攻分野
    • 入学時の学力
    • 年齢
    • その他補足要因
      ・障がいの有無・民族・性別
      ・POLAR(18歳人口に占める高等教育進学者の割合に基づいてイギリス国内の地域を5つの段階にレベル分けしたもの。5が最も進学率が高く、1が最も低い地域)

    原典①:学生局
    原典②:学生局
    原典③:学生局

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