イギリス:2022年大学入学資格「GCE Aレベル」試験を3年ぶりに実施

 2021年9月30日、イギリスの教育省(DfE※1)、資格・試験規制機関(Ofqual※2)及び教育大臣は、イングランドにおける2022年の大学入学資格「GCE Aレベル(以下Aレベル)」※3試験を、2019年以来3年ぶりに実施することを発表した。新型コロナウイルスの影響による教育の中断を考慮し、公平性確保に向けた学生支援策が講じられている。

※1 正式名称:Department for Education
※2 正式名称:Office of the Qualifications and Examinations Regulation
※3 正式名称:General Certificate of Education Advanced Level

■Aレベルとは

 イギリスでは、イングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドの各地域で教育制度が異なる。Aレベルは、スコットランド※4以外の地域で一般的な大学入学資格である。一般的に、18歳の大学入学希望者が例年5~6月に受験し、8月に結果が発表される。通常Ofqualが資格を認証し、AQA、OCR、Pearson (Edexcel)、WJEC Eduqasのいずれかの機関が試験実施と資格授与を行う。資格には、最高のA*からEの成績が付される。なお、Aレベルの保有者には、日本の大学入学資格が認められる※5

 2020年(本サイト2020/5/27掲載記事)2021年(本サイト2021/4/21掲載記事)は、新型コロナウイルス流行の影響でAレベル試験が中止され、代替措置として教員による成績評価に基づく判定が行われた。その結果、試験を実施した2019年には25.2%だったA判定以上の学生の割合は、2020年には38.1%、2021年には44.3%となり、試験実施時よりも成績水準が上昇した。(2019~2021年の成績分布についてはこちら(本サイト2021/10/20掲載記事)を参照。)

◇イギリスの大学(学士課程)入学資格の詳細については「英国の高等教育・質保証システムの概要」(大学改革支援・学位授与機構、2020年3月刊行)のpp.14-16を参照。

※4 スコットランドで一般的な大学入学資格は「Scottish Higher」(通称:ハイヤー)である。Aレベルと同様に、2020年と2021年は試験が中止されたが、スコットランド政府が2022年のハイヤー試験実施を発表している。ハイヤーの試験実施・資格授与機関であるSQA(Scottish Qualifications Authority)によると、試験は2022年4月26日~6月1日、結果発表は8月9日に行われる。
※5 文部科学省「大学入学資格について

■2022年のAレベル試験の実施概要

 イギリスの8つの試験実施・資格授与機関から成る会員制組織Joint Council for Qualifications(JCQ)によると、Aレベル試験は2022年5月16日から6月28日まで実施され、結果発表は同年8月18日に予定されている。科目ごとの詳細な試験日程は、各試験実施・資格授与機関のウェブサイトで公開されている。また、ウェールズ北アイルランドでも同試験の実施が発表されている。

■公平な試験を実現するための学生支援策

 教育省とOfqualは、試験やその他の正式な成績評価が、最善で最も公平な評価手段であると考えている。ただし、新型コロナウイルスの流行による教育の中断や学校によって授業の進捗が異なることを考慮し、2022年のAレベル試験では支援策が講じられている。これは、学生の試験準備を容易にすること、また、学校間の公平性の確保や学生のプレッシャーの軽減を目的としたものである。

 支援策は、Ofqualと教育省が実施したコンサルテーション※6(2021年7月12日~8月1日)で公表された提案と、それに対して集まった6,725件(そのうち1/4近くは学生から)の意見に基づいて決定された。ただし、適用されるのは2022年の試験のみであり、2023年には通常通り実施される予定となっている。Aレベルに関する支援策※7は以下の3つである。

 ①「寛大な」成績評価
 ②学習課題の変更
 ③事前情報

①「寛大な」成績評価

 2022年試験の成績判定は、可能な限り学生にとって公平に、そして前回Aレベル試験が実施された2019年と比べて「寛大に」行われる。

 前述のように、試験を中止した代わりに教員の成績評価を基にした2020年と2021年は成績水準が上昇(A判定以上の割合が2019年よりも増加)したことを受け、Ofqualは、新型コロナウイルス流行前(2019年以前)の水準に戻すことを目標としている。しかし、ほとんどの2022年のAレベル受験生は、コロナ禍により教育の中断や公開試験の中止を経験しているので、一気に成績水準を下げると他の年と比べて不公平が生じてしまう。そのため、2022年はパンデミックからの回復期と教育の中断を反映した移行の年とし、成績水準が2019年ほど低すぎず、かつ2020年ほど上昇しないように設定するとした。この対応を「寛大な」成績評価と表現している。そして、2023年にパンデミック前の成績水準に戻す、という2段階の計画となっている。

 なお、A*からEのそれぞれの境目は、例年通り上級試験委員(senior examiner)が試験結果に基づいて定める。

②学習課題の変更

 筆記試験以外の評価やフィールドワークの評価要件が、柔軟に調整される。主に自然科学分野や芸術分野の一部科目において、実技の評価要件が緩和・削減されるほか、評価方法が変更される。

③事前情報

 試験実施機関は、試験準備に役立つように、ほとんどの科目について試験の範囲などの情報を事前に提供する。2022年2月7日、Ofqualはこの事前情報を科目ごとにまとめた「Subject-by-subject support for GCSE, AS and A level students in 2022」を発表した。詳細については、各試験実施機関(AQA、OCR、Pearson (Edexcel)、WJEC Eduqas)のウェブサイトに記載されている。

※6 イギリスのコンサルテーション制度は、日本におけるパブリックコメント制度に近い制度である。
※7 Ofqualが公開した「Additional help for students taking exams in summer 2022: accessible postcard」より。これにはGCSE(General Certificate of Secondary Education)の受験者に対する支援策も含まれている。

■試験中止の場合の代替策

 教育省とOfqualは、2021年11月11日、新型コロナウイルスの感染拡大に備えて代替計画を決定した。万が一2022年の夏期試験が実施できない場合は、2021年のように、教員による学生の成績(Teacher Assessed Grades:TAGs)が判定に用いられる。

原典①:教育省、Ofqual、教育大臣(英語)
原典②:教育省、Ofqual(英語)
原典③:Ofqual(英語)

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