パンデミックから1年後の高等教育の実態を調査 – 世界の496大学等が回答

 国際大学協会(International Association of Universities:IAU)※1は、世界の大学をはじめとする高等教育機関を対象に、新型コロナウイルスの感染拡大(パンデミック)から1年後の高等教育の実態を調査し、2022年3月にその結果をまとめた報告書「Higher Education One Year into the COVID-19 Pandemic, Second IAU Global Survey Report」を公開した。

※1 世界の高等教育機関や関連機関の協力・連携構築を主導する機関として、1950年に国連教育科学文化機関(UNESCO)の下に設立された非政府組織(NGO)。会員制で、現在は130か国以上の約600機関が加盟。高等教育機関の共通課題を集約し、UNESCOをはじめとした国際機関や政府機関に対し、提言を行う役割を持つ。

調査の概要

目的・背景・結果総括

 IAUは新型コロナウイルスが高等教育に及ぼした影響を調査し、幅広く情報提供することを目的に、世界の高等教育機関を対象としたオンラインによる計3回の調査を計画・実施している。初回の調査と報告を2020年に終え、2022年3月、第2回調査の結果を取りまとめた報告書が刊行された。
 第1回調査※2はパンデミックの発生直後である2020年4月に実施され、危機に直面した高等教育機関の初期対応とその後の課題等を把握した。続く第2回調査は、前回の調査から約1年後の2021年2月~6月に実施され、影響の全体像をとらえるため、第1回に比べてより広範囲な観点で調査された※3
 パンデミック発生から1年が経過し、新型コロナウイルスによる様々な制約が継続する中、高等教育機関においては対応策の蓄積や新たな体制の構築が重ねられ、第1回調査時と比較して、高等教育機関の回復力が反映された調査結果となった。

※2  IAU(2020). IAU Global Survey on the Impact of COVID-19 on Higher Education around the World. 第1回調査では、109の国と地域の424高等教育機関が回答した。
IAU(2020). Regional National Perspectives on the Impact of COVID-19 on Higher Education. 第1回調査報告書に続いて発表された、地域別の分析報告書。
※3 第1回調査では、次の5つの分野の分析を行った。「総合評価」、「教育」、「研究」、「地域連携」、「その他課題」。

調査対象

 全世界の高等教育機関を調査対象とし、112の国と地域、496の高等教育機関から回答を得た。

調査結果

 本調査報告書は次の4つのセクションで構成され、全体で約60項目に上る分析結果が示されている。第1回調査と同様、高等教育機関の所在国を4つのエリア(アフリカ、南北アメリカ、アジア・大洋州、ヨーロッパ)※4に分類し、地域別の影響を分析している。

  1. ガバナンス
    (財政状況、入学・退学率、人事・人材、危機管理対応、戦略計画への影響、パートナーシップ、関係当局との連携)※5
  2. 教育と学習
    (遠隔教育への移行、インターンシップ、成績・卒業認定、国際化への取組、学生による評価、同窓会)
  3. 研究
    (優先的研究分野、研究の停滞、研究活動への影響、地域・世界的課題の研究、研究予算、共同研究)
  4. コミュニティ・社会連携
    (科学的知見の発信、虚偽情報への対応、地域支援、大学の自治、学術的価値観の再定義)

※4 北アメリカと中東からの回答数が他の地域と比較して低かったことを受け、統計的な関連性を示すため、北アメリカは南北アメリカに統合し、中東はアジアに統合した地域区分としている。
※5 ()内はサブセクションを示す。

 上記4つのセクションのうち、ここでは「2. 教育と学習」内のサブセクション「国際化への取組」に注目し、A. 国際戦略、B. TNEへの影響、C. 共同教育プログラムへの影響、の3点から変化を読み取ることとする。

A. 国際戦略

 パンデミックにより最も影響を受けた活動のひとつに、留学をはじめとする国際化への取組が挙げられる。例えば、「1. ガバナンス」内のサブセクション「財政状況」で「支出額が減少した活動」を尋ねた質問では、「国際交流活動への支出額が減少した」と回答した割合が61%と最も多く、影響が顕著に表れている。
 IAUによる高等教育の国際化調査(2018年)(本サイト2019/11/27投稿記事)でも報告されているとおり、パンデミック以前の高等教育分野は国際化が加速しており、今回の調査でも国際戦略を策定している高等教育機関は91%と高い割合を示した。これらの高等教育機関に、パンデミックにより国際戦略を変更したかを尋ねたところ、31%の高等教育機関が「国際戦略を既に変更した」と回答した。また、43%が「変更を検討中」と回答し、最も高い割合を示している。
 表1で地域別に見ると、変更への対応が最も早かったのは南北アメリカの高等教育機関で、50%が既に国際戦略を変更していることがわかる。一方、アフリカでは64%が変更を検討中と回答しているものの、変更を終えたのは20%に留まった。
 パンデミックの1年間で、多くの高等教育機関の国際戦略が影響を受けたことが見て取れる一方、「変更していない」(26%)と「変更を検討中」(43%)の回答を合わせると7割近くが、国際戦略の変更には至っていない状況である。パンデミックを短期的な影響と捉えている機関も多いと推測され、調査時点で国際戦略の転換を完全に把握することはできなかったとしている。

表1:パンデミックによる国際戦略の変化‐地域別の分析

graph1

原典①のFigure 45をもとにNIAD-QE国際課で作成

 変更された国際戦略にはどのような傾向があるか、さらに分析を進めるため、「既に変更した」、もしくは「変更を検討中」と回答した高等教育機関に対し、次の6項目における優先度を尋ねている。

  • ・留学生の募集
  • ・交換留学
  • ・オンライン留学/国際共同教育
  • ・カリキュラムの国際化
  • ・教育のための教員交流
  • ・教職員のグローバル・コンピテンスや異文化理解を深めるための研修

 優先度が上昇したという回答が最も多かったのが「オンライン留学・国際共同教育」(81%)、次に「カリキュラムの国際化」(58%)となり、他の項目に大きく差をつけた。「交換留学」と「教員交流」は、「優先度が低下した」という回答が「優先度が上昇した」を約10%上回り、流動を伴う取組にはパンデミックによるマイナスの影響が表れていると言える。

B. TNEへの影響

 国際化への取組のひとつに挙げられるのが、トランスナショナル教育(TNE)※6である。高等教育機関の約3分の2が何らかのTNEを実施しているなか、パンデミックの影響について43%が「実質的な変化はない」、32%が「TNEの取組が減少した」、25%が「TNEの取組が増加した」と回答した。
 地域別に着目すると、「実質的な変化はない」という回答はヨーロッパでは半数以上(54%)であるのに対し、アフリカでは19%と大きく地域差が生じている(表2)。

※6 教育機関が本来所在する国や地域とは異なる場所に学習者が所在するすべての高等教育プログラムを総称するものであり、多様な形態で実施されている。TNEは、クロスボーダー教育(cross-border education: CBE)とも呼ばれ、国境を越えた遠隔教育、2か国以上の教育機関が共同で学位を授与するジョイント・ディグリープログラム等を含む様々な形態がある。
(出典)大学改革支援・学位授与機構(2021)「高等教育に関する質保証関係用語集 第5版」

表2:トランスナショナル教育(TNE)の変化

graph1

原典①のFigure 50をもとにNIAD-QE国際課で作成

C. 共同教育プログラムへの影響

 共同教育プログラム(ダブル・ディグリー、ジョイント・ディグリー等)への影響を尋ねた質問では、TNEとほぼ同様の結果が示され、「マイナスの影響があった」と回答した29%の高等教育機関のうち11%はプログラムを中止している。
 一方、共同教育プログラムにおいて「パンデミックによってプラスの効果があった」と回答したのは、ヨーロッパでは19%、アジア・大洋州では31%であったのに対し、アフリカではおよそ半数が「海外高等教育機関との新たな共同教育プログラム設置の機会となった」と回答し、プラスの効果が顕著であった。
 このようにプログラム運営に支障をきたしながらも、結果的にプログラムを中止せざるを得なかった高等教育機関はわずか約1割にとどまり、パンデミックの渦中にあっても共同教育プログラムはオンライン教育等の代替措置により、全世界で継続されていたことが窺える。

総括

 パンデミック発生直後は多くの国で大学の封鎖や教育の一次中断を余儀なくされたが、影響を最小限に抑えるため、世界中の高等教育機関は多大な時間と労力を投じてきた。その結果、パンデミックから1年経過後の第2回調査では、様々な制約の状況は変わらずとも、多くの高等教育機関では大半の活動を継続できていることが示された。この前向きな結果は、パンデミックという危機において、世界の高等教育機関のレジリエンス(回復力)が発揮されたことによるものと報告書は評価している。

原典①:国際大学協会(IAU)(英語)
原典②:国際大学協会(IAU)(英語)

【参考】パンデミックによる影響の調査を扱った動向記事
  1. 国新型コロナウイルスがもたらした留学への影響―欧州地域に留学する学生へのアンケート結果から(本サイト2020/8/13投稿記事)
  2. コロナ禍での大学入学、試験範囲や入試方法の変更も:ヨーロッパ等54か国への調査(本サイト2020/9/24投稿記事)
  3. UNESCO等:新型コロナウイルス流行による教育動向調査に143ヶ国回答(本サイト2021/10/18投稿記事)
  4. 欧州等、コロナ禍での大学入学―出願要件や評価方法の変更も:54か国への調査(本サイト2022/2/14投稿記事)
カテゴリー: 国際機関等 タグ: , , , パーマリンク

コメントを残す