文部科学省は調査書の電子化に関する委託調査を来年度実施
経済産業省は学位証明等を扱うブロックチェーン・ハッカソンを開催
総務省は電子データへの公的信用の付与を検討開始との報道
安倍首相は2019年1月23日、スイスで行われた世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)で講演し、電子データが今後の経済をけん引すると訴えた。首相は、今年6月に大阪で開かれるG20サミットにてデータの国際的な管理を協議することを提案する中で、電子データの活用によるサブサハラ・アフリカ地域の集落の住民や学校に行くことをあきらめざるを得なかった女性への教育提供を例として取り上げた。
証明書の電子化
教育における電子データの活用はMOOCやオンライン学位課程といった教育コンテンツに限らず、学習した履歴の証明でも行われている。例えば、オーストラリアとニュージーランドのすべての大学は、共同してMy eQualsという学生向けサービスを提供している(本サイト2017年5月12日掲載記事)。ここでは学位記や成績証明書といった学習歴の証明書がPDFで発行され、卒業生は進学・就職先と情報の共有を容易に行うことができる。一方オランダでは、2012年以来政府が管理するDiplomaregisterというデータベースに国民の学習データが900万件以上、最長60年間保存されている(本サイト2017年6月7日掲載記事)。
日本でのこのような証明書の電子化は進んでおらず、今もほとんどが有人窓口、自動交付機、あるいはコンビニエンスストアの印刷機による紙の証明書の発行である。さらに、高等学校が発行する調査書の作成に必要な指導要録上の評定データは、学校教育法施行規則第28条第2項により、5年間しか保存されていない。このような中、文部科学省は2019年度に調査書の電子化普及を目的とした「大学入学者選抜改革推進委託事業」を行うことを発表した。この事業では電子調査書活用のための環境整備と、関連の研究が行われる。事業は大学や独立行政法人などへ委託され、2年間で1億4000万円の予算が組まれている。
ブロックチェーンの活用
学習歴に関する証明書の電子化ではブロックチェーン技術の活用も模索されている。ブロックチェーンを使うことによる、証明内容の改ざん防止がその狙いの1つである。すでにマサチューセッツ工科大学などでは、ブロックチェーンによる学位証書の授与が行われている(本サイト2017年11月17日掲載記事)ほか、マルタ政府は国民の学習歴の管理をブロックチェーンで行うことを発表している(本サイト2017年11月28日掲載記事)。
日本では今年2月に経済産業省の主催で学位・履修・職歴証明などをテーマにしたブロックチェーン・ハッカソン*が開催された。大学が消滅しても有効な半永久的な学歴の証明や学歴検証の際のコスト削減を目指し、ブロックチェーン技術に関心のあるエンジニアがチームを組み、合計3日間をかけて開発、実装、発表を行った。
*ハッカソン:IT関係のエンジニアが集い、特定のテーマについてのプログラムや企画を提案し、その独自性や技術力などを競う催しのこと。
データの電子認証
このような証明書の電子化の一方で、学習歴に関するデータの電子認証も各国で取り組まれている。例えば、中国の政府系機関CHESICC (全国高等学校学生信息咨询与就业指导中心)とCDGDC(教育部学位与研究生教育发展中心)では、同国で教育を受けた学生が持つ証明書の内容をオンライン上で認証するサービスを提供している。2018年7月からは、認証結果の共有でも従来の紙を廃止し電子化に移行した(本サイト2018年11月9日掲載記事)。この他にもアルゼンチン、ウクライナ、ドミニカ共和国などでも政府による学習データの電子認証が行われている(本サイト2018年10月24日掲載記事)。
一方、日本経済新聞の報道によると、総務省が電子書類データの改ざん・悪用防止のため、公的な信用を与える制度を検討している。記事ではタイムスタンプによるデータ作成日時の証明が紹介されている程度だが、電子化されたデータの信頼性を高める工夫は、学習データの電子化と合わせて重要となってくる。
効率的で安全な移動の保証へ
現在の日本では、学歴に関する証明書の電子化はほとんど進んでおらず、偽造リスクの高い紙の書類が主に流通している。また、証明書の内容を確認するためには、発行した学校へ電話や電子メールで直接問い合わせなければならず、電子認証の導入も広まっていない。
学歴に関する証明書の発行や認証の電子化は教育コンテンツの電子化と表裏一体である。日本の省庁による高等学校の電子調査書、ブロックチェーンによる学位証明、電子書類データの公的認証の推進は、教育をさらに世界の隅々まで普及させるための追い風となることが期待できる。