韓国:デジタル人材養成促進のために大学院定員の増員基準を緩和

尹錫悦政権の国政課題の一つである「デジタル人材100万人養成※1」推進のため、半導体や人工知能等の先端新技術分野に関する修士課程・博士課程定員の増員基準の緩和等を含む「大学設立・運営基準」改定案が国務会議(日本の閣議に相当)で審議・議決された旨、2022年8月2日に教育部より発表があった。その後8月9日に改定された。

これまで教育部は、欠損人員制度※2等を活用して大学院の定員増を支援してきたが、新技術分野の人材育成への需要の高まりを踏まえて、今回規制緩和を行うこととなった。また今回の基準改定では、デジタル人材養成促進以外にも、大学の自律的な発展計画に基づく改革促進のための規制緩和が行われている。

※1 国政課題81番。「デジタル分野や半導体分野に関する知識・技能を備えた、新技術分野の革新的人材の積極的要請」や「第4次産業革命時代に対応するためのソフトウェア、人工知能等に関するデジタル教育の基盤構築」を目標とする。うち、高級人材(修士・博士)については、2021年時点の1.7万人から2026年までに13万人に増加させる計画。(参考:第20代大統領室韓国教育部
※2 大学院において、入学定員を満たさない学科の定員を減らす代わりに、需要の多い学科の定員を増やすことのできる制度で、2021年に導入された。(参考:キョンヒャン新聞

大学設立・運営基準の主な改定内容

  • これまで大学が修士課程・博士課程の定員を増員するためには校舎面積、校地面積、教員数、収益用基本財産の4項目について、法令で定められた要件を、増員予定数も含めた学生数を基準として充足する必要があった。今回の基準改定により、教育部が指定する新技術分野(後述)の修士課程・博士課程についてのみ、以下の教員数要件の1項目の充足のみで定員を増加できることとなる。
    ✓ 学系(例:人文社会、工学等)ごとに定められた教員一人当たりの学生数を満たす教員数。学系ごとの教員一人当たりの学生数の具体例は、人文・社会系25名、自然科学系20名、工学系20名、芸術・体育系20名、医学系8名。なお、ここでいう学生数は定員調整後の編成完成年度の学生数を指す。
  • 大学の自律的な発展計画に基づく改革を後押しするため、学士・修士・博士の各課程間の定員調整基準も大幅に緩和された。
    (学士と修士の定員調整)
    ✓ これまで一般大学院・特殊大学院は学士1.5名、専門大学院については学士2名を定員削減することで修士定員を1名増加させることができたが、今後は大学院の種別を問わず、学士1名削減で修士1名増が可能となる。
    (修士と博士の定員調整)
    ✓ これまでは新技術分野に限り修士定員2名削減で博士定員を1名増加させることができたが、今後は分野問わずこれが可能となる。
  • 新技術分野でない場合も、社会的に需要の高い分野について大学間で共同の修士・博士課程を編成している場合には、教員数要件の充足のみで定員を増加することが可能となる。
  • 学科間での定員調整に際しても、調整後の学系単位で、前年度以上の教員確保率を満たす必要があったが、今後は直近3年間の平均確保率以上を満たすことで可能となる。なお新技術分野の学科については、教員数が前述の学系ごとに定められた教員一人当たりの学生数を満たす教員数の90%以上確保されていれば学科間の定員調整が可能となる。 
また新技術分野の定員調整以外にも、私立大学のサテライトキャンパスについて、本校から20キロメートル以内の範囲であれば単一の校地として認めるなど、大学の自律的な改革を支援するための様々な規制緩和が盛り込まれている。

改定基準における新技術分野(教育部指定)

人工知能、ビッグデータ、次世代(知能型)半導体、次世代ディスプレイ、次世代通信、IoT家電、AR・VR、先端新素材、未来自動車、エネルギー新産業、バイオヘルス、オーダーメイド型ヘルスケア、革新新薬、スマート工場、スマートシティ、スマートファーム、フィンテック、親環境船舶、知能型ロボット、航空・ドローン、プレミアム消費財

今後の予定

教育部が大学からの定員増員計画の提出を受け、外部有識者により構成される大学院増員審議委員会での審議を経て2023年度の大学院定員が決定される予定である。

遠隔大学界の声

教育部は、急激な学齢人口の減少に備え、大学の量的規模の縮小を目的に、2015年から3年ごとに大学基本能力診断評価を実施し、大学の構造改革に積極的に取り組む大学に対してインセンティブを与えることなどにより、2023年までに大学定員16万人削減を目指している※3。また大学や専門大学※4に置かれる教員養成を目的とした学部・学科や、教員養成単科大学等の教員養成機関を対象に教員養成機関能力診断評価を実施し、その結果に応じ養成定員の削減を行っている※5。 このように、教育部は大学定員削減の具体策を順次進めてきており、その方針は今後も継続されるものとみられるが、先端新技術分野をけん引する人材への需要の高まりに応えるため、今回一部規制を緩和する形となった。

※3 大学基本能力診断評価については本サイト2022/7/25投稿記事2022/1/11投稿記事2021/11/1投稿記事参照
※4 韓国の専門大学は、高等学校の卒業者等を入学資格とし、一部の分野を除き修業年限は2~3年間、卒業すると専門学士の学位が授与される。
※5 教員養成機関能力診断評価については、本サイト2022/3/24投稿記事参照


原典①:教育部(韓国語)
原典②:国家法令情報センター(韓国語)

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