欧州委員会は2024年9月、エラスムス・プラスの公式ウェブサイト上で、2024年に採択された34のコンソーシアムが提供するエラスムス・ムンドゥス共同修士課程プログラムを発表した。これらのコンソーシアムには、38か国から高等教育機関等が参画している。また、これらの国に加えて、さらに40か国から連携パートナーが協力している。各プログラムへは全世界の学生が出願可能であり、プログラムの選考及び奨学金受給資格の選考に合格した場合、奨学金が支給される。
◆エラスムス・ムンドゥス共同修士課程とは
正式名称は「エラスムス・ムンドゥス・ジョイント・マスター(Erasmus Mundus Joint Masters: EMJM)」※1。国際共同プログラムの中でも歴史が古く、2004年にエラスムス・ムンドゥス計画(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の一環として開始された。
EU域外の学生へも門戸を広げ、2つ以上の異なる国の高等教育機関で学び、1つの共同修士学位(ジョイント・ディグリー)または複数の修士学位(ダブル・ディグリー、トリプル・ディグリー等)を取得するプログラムを推進するための欧州委員会による助成金事業である。EMJMでは、各コンソーシアムは異なる3か国の少なくとも3機関(以上)の高等教育機関により構成され、3か国のうちの2か国はEU加盟国とその「連携国」※2とされる(本サイト2022/5/13投稿記事)。また、EMJMのカリキュラムでは、学生は自国以外の少なくとも2か国で、それぞれ異なる学期に学ぶことが必須条件となっている。そのうち少なくとも1か国は、EU加盟国とその連携国であることが求められる。
このようにEMJMは、高い共同性を特徴とする国際共同教育プログラムであり、欧州の高等教育の魅力と卓越性を向上させ、世界中の優秀な人材を集めるという欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)の国際的戦略を実現するための重要な手段の一つとなっている。
なお、エラスムス・ムンドゥスには、もう一つ「エラスムス・ムンドゥス・デザイン・メジャー(Erasmus Mundus Design Measures:EMDM)」という別のカテゴリーがある。EMDMへの助成金は、高等教育機関を対象に、将来の共同修士課程の創設を支援する目的で設けられている※3。学生はEMJMと同様、EMDMに採択されたコンソーシアムのプログラムにも出願が可能であるが、奨学金は支給されない。2024年に採択されたEMJMのうち5件は、過去の公募でEMDMの助成金を獲得し、それを基に共同修士課程の発足に繋げている。今回(2024年)は、50件のEMDMが採択された。
※1 EMJMの名称は2022年2月から使用されている。それまでは、EMJMD (Erasmus Mundus Joint Masters Degree)という名称であった(本サイト2022/5/13投稿記事参照)。
※2 EU非加盟の北マケドニア、セルビア、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、トルコ。エラスムス・プラスのプログラムに参加可能な国については、エラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照のこと。
※3 EMDMは2021年に開始された。コンソーシアムを代表するコーディネーターである1つの高等教育機関に対し、15か月間で55,000ユーロ(約880万円。1ユーロ=160円で計算、以下同様)が支払われる。
◆EMJMの20周年記念
2004年以降、全世界から約5万人の学生がエラスムス・ムンドゥスプログラムに参加し、2024年5月には20周年を記念して、ベルギーのブリュッセルにおいて「Beyond Borders and Boundaries(国境や境界を越えて)」と称した会議が開催された。当日は学生、修了者、高等教育機関、そして政策立案者が一堂に会し、エラスムス・ムンドゥスの20周年を盛大に祝うとともに、プログラムの更なる発展に向けた協議を行った。当会議において、エラスムス・ムンドゥスの20年の歩みを記録した144ページにおよぶ詳細な調査研究報告書「20 Years of Erasmus Mundus: Beyond Borders and Boundaries (EACEA, May 2024)」が発表された※4。
※4 エラスムス・プラス公式ウェブサイトでは、20年間の実績を分かりやすいグラフや数字で示している。
◆2024年に採択された34件のEMJM
今回発表された34のコンソーシアムが提供するEMJMは、エラスムス・プラスの公式ウェブサイト上で、コンソーシアム名称によるアルファベット順に掲載されている。あわせて、代表を務めるコーディネーター校、コンソーシアムに参画する各機関の名称、所在国、フル・パートナー※5または連携パートナー※6の種別を確認することができる。
一つのコンソーシアムには、連携パートナーを含め平均して24の高等教育機関や地方自治体、企業等といった様々な組織が参画している。
※5 エラスムス・プラス2021-2027における交流プログラム対象国に所在し、有効な「Erasmus Charter for Higher Education(エラスムス高等教育憲章)」を有している高等教育機関はフル・パートナーとして参画が認められる。フル・パートナーは欧州委員会からの助成金を受け取ることができる。詳細は、エラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照。
※6 原語はassociated partner。コンソーシアムの連携パートナーとして有効な「エラスムス高等教育憲章」の保有が義務付けられ、コンソーシアムに名を連ねるが、欧州委員会からの助成金を受け取ることはできない。詳細はエラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照。
2024年に新たに加わったEMJMとEMDMのプログラムには、以下を含む多様な研究分野が含まれている。
- 自動車のデジタル技術化によるモビリティの革新
- スマートシティの管理、ガバナンス、イノベーション及び持続可能性
- 医療分野におけるデジタル・イノベーション
- ジェンダーと安全保障
- 文化遺産の保存のための学際的アプローチ
- 国境を越えた犯罪学
- 持続可能な公共サービス共創のためのAI技術 等
なお、2023年までに採択され、現在開講中のEMJMのリストは、欧州委員会の教育文化総局公式ウェブサイト内「エラスムス・ムンドゥス・カタログ」で公開されている。当該カタログは、EMJMの研究分野をはじめとするキーワードや、コンソーシアム内の各高等教育機関の名称、所在国、修了までの期間や修了に必要な単位数、学術分野、採択年別に検索できる仕様となっている。例えば、高等教育機関の所在国「Country」で「日本」を検索すると、2024年9月時点で7件のEMJMに日本の大学が参画し、プログラムが開講されていることが分かる。
◆予算規模と学生への奨学金
エラスムス・プラス2021‐2027の枠組みにおいて、EMJMとEMDM双方に配分された予算は合計約10億ユーロ(約1,600億円)にのぼる。この予算から、コンソーシアムに対してプログラム運営のための助成金が拠出される。さらに、EMJMに採択されたプログラムの選考及び奨学金受給資格の選考に合格した優秀な学生には、奨学金が支給される。奨学金選考の際には、学生の出身国のバランスが考慮される※7。特にEU域外からの優秀な学生に広く門戸を開いており、2024年までの奨学金受給者のうち、EU加盟国とその連携国以外から出願した学生は全体の82%を占めている。なお、奨学金を獲得できなかった場合でも、プログラムの選考に合格すれば、私費での入学が許可される。
※7 プログラムの助成期間中に授与される奨学金の総件数のうち、同一国籍の学生に割り当てられるのは、全体の10%以下とする規則がある。学生への奨学金及び高等教育機関への助成金支給に係る詳細は、エラスムス・プラス公式ウェブサイトを参照のこと。
[プログラム運営に対するコンソーシアムへの助成金]:
- 助成期間:6年間(少なくとも4回の学生募集を実施)
- 助成金額:最大500万ユーロ(約8億円)
[学生への奨学金]:
- 学費及び法定保険(実際には高等教育機関へ、プログラム運営費用の一部として支給される)
- 渡航費、ビザ取得代金、滞在費、生活費として月1,400ユーロ(約22万円)(最大24か月)
◆EMJMプログラム共通の概要
EMJMの各プログラムへの出願は、先述の「エラスムス・ムンドゥス・カタログ」を参照し、学生が直接行うこととなっている※8。奨学金の応募についても、プログラムごとの指示に従う必要がある。同カタログは、毎年更新される。以下に、共通の概要を紹介する。
[修了までの期間]:
- 1年間または2年間(60、90、または120 ECTS)※9
- 通常、修了までの期間には学習、研究、研修、修士論文の執筆と口頭試問が含まれる
[授与される学位]:
- 共同修士学位、またはダブル・ディグリー、トリプル・ディグリー等の複数の修士学位
- 学士の学位を有していること※10、または学士課程の最終学年に在籍していること
- 修士課程のプログラム開始前に、学士課程を卒業していること
※8 Erasmus Mundus Association公式ウェブサイトでは、EMJMへの出願を希望する学生を支援するため、各国のボランティア代表者によるイベントや過去の応募者の体験談を掲載している。
※9 ECTSの詳細についてはこちら(本サイト「欧州」>「地域レベルの高等教育政策」ページ)。
※10 学士の学位に相当する公式に承認された学習レベルを、学位授与国の法律や慣行に従って証明できる場合も、出願が可能。
◆EHEAの国際的影響力の強化へ向けて
EMJMの最大の魅力は、参加する全ての学生が自国以外の国で対面学習を行うモビリティ(=留学)が可能であり、かつトップレベルの学生には奨学金が提供される点である。欧州委員会は、EMJMに参画する高等教育機関間の高度な連携と一体性を促進し、質の高い教育と学術研究を通じて、欧州の高等教育における卓越性や国際的な影響力をさらに高めることを目指している。
原典①:欧州委員会(英語)
原典②:欧州委員会(英語)
原典③:欧州委員会教育文化総局(英語)
参考:EMJMと文部科学省「大学の世界展開力強化事業」
2019年に欧州委員会と文部科学省との合意に基づき、日‐EU間の大学による3件のEMJMが採択された(本サイト2019/10/4投稿記事)。日本側では「大学の世界展開力強化事業」として採択され、補助事業期間は2023年度に終了しているが、プログラムは継続して実施されている。
また、2024年度の同事業「EU諸国等との大学間交流形成支援」(助成期間:2024~2028年度)では、欧州委員会との合同での採択という形ではないが、EU圏の高等教育機関とコンソーシアムを構成している日本の10大学による9件のプログラムが採択された。(下記ウェブサイト参照)。
日本学術振興会ウェブサイト
■関連記事まとめ■ (本サイト過去投稿記事より)
1.欧州:44%が対面式で新年度のプログラムを開始—エラスムス・ムンドゥス共同修士課程
(本サイト2022/5/13投稿記事)
2.留学必須の大学院課程、欧州連合と日本政府が共同で3件採択
(本サイト2019/10/4投稿記事)
3.日本政府とEU間でジョイントディグリー課程策定の促進に合意
(本サイト2018/8/17投稿記事)
4.エラスムス・ムンドゥスのインパクト調査結果報告書(Graduate Impact Survey 2015-2016)が公開
(本サイト2017/2/15投稿記事)
5.エラスムス・ムンドゥス奨学金プログラムからみる学生の留学への満足度
(本サイト2016/11/25投稿記事)
6.エラスムス・ムンドゥス共同修士課程を振り返る
(本サイト2016/10/19投稿記事)







