欧州:44%が対面式で新年度のプログラムを開始-エラスムス・ムンドゥス共同修士課程

 欧州委員会教育文化総局は2022年3月、コロナ禍でのエラスムス・ムンドゥス共同修士課程(EMJMD)プログラムの実施状況について、最新のファクトシート「Erasmus+ Programme, Erasmus Mundus programme implementation in the context of COVID-19」を公開した。2020年及び2021年の調査結果の比較をまとめたこのファクトシートにより、全てを対面式で実施するプログラムが前年度と比較して大幅に増加するなど、コロナ禍から回復の兆しが見られることが明らかになった。

■EMJMDプログラムとは

 正式名称はErasmus Mundus Joint Masters Degree。エラスムス・ムンドゥスプログラム(NIAD-QE国際課まとめ)の一環として開始され(2004年~)、国際共同プログラムの中でも歴史が古い。EU域外の学生へも門戸を広げ、EUの2つ以上の異なる国の高等教育機関で学び、1つの共同修士学位(ジョイント・ディグリー)または複数の修士学位(ダブル・ディグリー、トリプル・ディグリー等)を取得するための、欧州委員会による助成金プログラムである。EMJMDでは、各コンソーシアムは異なる3か国の少なくとも3機関(以上)の高等教育機関により構成され、3か国のうちの2か国はEU加盟国(とその「連携国」である7か国)とされる(本サイト2016/10/19投稿記事参照)。

 EMJMDは、エラスムス・プラス(NIAD-QE国際課まとめ)、さらに最新のプログラムであるエラスムス・プラス2021-2027(NIAD-QE国際課まとめ)においても、「エラスムス・ムンドゥス」の名称が引き継がれている。2022年2月には新名称「Erasmus Mundus Joint Masters (EMJM)」の下で新たに27の共同修士課程プログラムが採択された。これにより、EMJMDは計170プログラム以上で構成されるようになり、開始から17年間で195か国、28,000人以上の学生が566のEMJMDプログラムで学んだ。

 また、2021年5月には2014~2020年のEMJMDについての統計報告書(Erasumus+ Programme Statistical Factsheets on the Achievements of the Erasmus Mundus Joint Masters Degree 2014-2020)が公開されている。

■調査の背景・目的

 欧州委員会と欧州委員会教育文化総局(European Education and Culture Executive Agency, EACEA)は、秋に新年度を迎える国が多い欧州において、新型コロナウイルス感染症拡大によるエラスムス・プラスの「不可抗力条項」の発動(本サイト2020/5/3投稿記事)が行われた状況下においてもコンソーシアムのモビリティとその活動が可能な限り円滑に継続できるように、複数の支援策を導入している。こうした具体的な支援につなげるために実施されたのが、EACEAによる計3回の調査※1である。これらの調査は、パンデミックがEMJMDプログラムの運営と参加学生に与えた影響について定量的・定性的データを収集し、EMJMDコンソーシアム間で対応策やグッドプラクティスを共有することを目的として実施された。

 今回発表されたファクトシートは、第2回フォローアップ調査(2020年10月実施)および第3回調査(2021年10月実施)の結果を比較して、新年度開始時におけるプログラムの実施状況をグラフで分かりやすく可視化したものである。2022年3月9日に、欧州委員会のウェブサイトで公開された。

※1第1回調査(2020年5月実施):調査対象176コンソーシアム(2015~2019年採択)。調査結果は「報告書」にまとめられ、各コンソーシアムがコロナ禍においても革新的な工夫を重ね、修士課程の学びを止めないように努めてきた軌跡を記している。

第2回フォローアップ調査(2020年10月実施):調査対象コンソーシアム数は下記※2を参照。調査結果はファクトシート(第1弾)としてまとめられた。

■調査結果①

表1:EMJMDコンソーシアムの新年度開始時におけるプログラム実施状況(2020/2021年度と2021/2022年度の比較)

◇原典①内のFigure 1をもとにNIAD-QE国際課で作成

※2調査対象164コンソーシアムのうち128コンソーシアムから回答。
※3調査対象163コンソーシアム(2017~2020年採択)のうち100コンソーシアムから回答。
※4(例)通常の新年度開始時期は8月末~9月だが、翌年1月開始または翌年の春に遅らせた、など。

 表1によれば、第3回調査では44%が2021/2022年度の「新年度の開始時期を遅らせることなく、全ての活動を対面式(onsite)で実施した」と回答した。前年度(2020/2021年度)の回答割合(9%)に比べ、大幅な回復が見られたといえる。

 また、前年度(2020/2021年度)は「全ての活動をオンラインで実施した」と回答したコンソーシアムが3%あったのに対し、2021/2022年度は皆無であった。新年度の開始時期を遅らせたとの措置についても、2021/2022年度の回答割合の方が低くなった。

■調査結果②

 ファクトシートは、新型コロナウイルス感染症拡大がEMJMDの学生へ与えた影響も数値化して比較している。例えば2020/2021年度は、授業が対面かオンラインかにかかわらず「留学先国で新年度を迎えることができた」と回答したEMJMD学生は65%であったが、2021/2022年度にはその割合が83%にまで上昇している。

表2:新型コロナ感染症拡大がEMJMDコンソーシアムの学生へ与えた影響(2020/2021年度と2021/2022年度の比較)

◇原典①内のFigure 2と3をもとにNIAD-QE国際課で作成
※5回答学生数5,800名(奨学金を受給している学生・受給していない学生の双方を含む)
※6回答学生数4,884名(奨学金を受給している学生・受給していない学生の双方を含む)

■まとめ

 パンデミックの今後の推移によるところが大きいものの、今回の第3回調査結果から、EMJMDの実施状況は確実に改善へ向かっていると結論付けている。
 同時にこれら一連の調査によって、コロナ禍で翻弄されてきたEMJMDコンソーシアムが常に学生の支援に全力を尽くし、様々な形で学業の継続を約束してきたこと、また学生も、困難な状況下でも高いモチベーションを保ち続け、強いレジリエンスを発揮してきたことが示された、と述べている。

原典①:EACEA(英語)
原典②:EACEA(英語)
原典③:EACEA(英語)
原典④:Erasmus+(英語)

参考①:EMJMDと日本との関係

 2019年に欧州委員会と文部科学省との合意に基づき、日‐EU間の大学による3件のEMJMDが採択された(日本側は「大学の世界展開力強化事業」として採択。本サイト2019/10/4投稿記事)。
 また、日本の学生も自ら応募することによってEMJMDに参加できる選択肢がある(下記ウェブサイト参照)。

1. 駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジン「日本とEU、初の共同修士課程プログラムを選定」

2. 駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジン「グローバル人材を育てるEUの取り組み」

参考②:日本におけるコロナ禍の国際共同教育インパクト調査

 文部科学省は、令和2年6月と11月に2回、スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)及び大学の世界展開力強化事業の採択大学50校を対象に、日本におけるインパクト調査(アンケート)を行っている(回答率は共に100%)。

1. 「スーパーグローバル大学創成支援事業」及び「大学の世界展開力強化事業」採択校に対する緊急アンケート結果(第1回)の報告

2. 「スーパーグローバル大学創成支援事業」及び「大学の世界展開力強化事業」採択校に対するアンケート結果(第2回)

参考③:欧州の留学生に関するインパクト調査

 パンデミックが欧州地域の留学生に与えた影響に関する調査としては、Erasmus Student Networkが2020年にまとめた調査報告書(本サイト2020/8/13投稿記事)もある。
 また、調査時期が2019年前半のためパンデミックとの関連性に言及はないが、エラスムス・プラスプログラム全体のインパクト調査も行われている(本サイト2019/8/1投稿記事)。

参考④:本サイト掲載その他関連記事
  1. 【EU】:「エラスムス+ 2021-2027」新プログラムの概要と予算規模が発表(本サイト2021/6/18投稿記事)

  2. EUの大学戦略:国境を越えた大学間連携・共同学位を促進し経済・環境問題等の解決へ(本サイト2022/3/18投稿記事)

  3. 欧州等、コロナ禍での大学入学―出願要件や評価方法の変更も:54か国への調査(本サイト2022/2/14投稿記事)

  4. 欧州教育圏、2025年実現へ:欧州委員会が示した今後の具体的な取組み(本サイト2021/1/25投稿記事)
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