学業不正請負業者との闘い―国際ネットワーク「GAIN」が発足

 2022年10月、「グローバル・アカデミック・インテグリティ・ネットワーク(Global Academic Integrity Network:GAIN)」が、アイルランド質保証資格機構(QQI)オーストラリア高等教育質・基準機構(TEQSA)によって発足した。発足時点で、欧州・大洋州・アフリカ諸国の質保証機関を中心に17機関が加盟している。

 GAINは、アカデミック・インテグリティ(学術的誠実性)※1の維持に関心をもつ高等教育の質保証機関等が国際的に協力するコンソーシアムとして、UNESCOの支援の下に発足した。対価を得て学業不正※2行為を請け負う業者(commercial academic cheating services、本記事では「学業不正請負業者」と表記)を撲滅し、学生、資格及び各国の教育システムのインテグリティを保護することを目的としている。

 GAINの発起者であるQQIとTEQSAは、学業不正対策について継続的に連携しており、両機関が2019年に締結した覚書(MoU)でも両国内の学業不正や外注型不正に対する取組について言及されている。

※1 アカデミック・インテグリティ(学術的誠実性)とは、一般的には学術的な誠実性や健全性、一貫性、高潔といった言葉で捉えられ、大学の研究、教育の役割とそれをつかさどる大学運営の誠実性を問うものである。
アカデミック・インテグリティの維持は、高等教育の評判、及び卒業生の学業や結果としての資格承認のために重要なものとなっている(QQIの資料より)。
※2 学業不正は、アカデミック・インテグリティに反する行為のことである。学業不正の例には、ひょう窃、あらゆる場や形式での不正、改ざん・ねつ造による不正、外注型不正、コピー・エディティング、レポートの購入、試験における学習者のなりすまし、教材の無断共有・販売が挙げられる。(詳細については、TEQSAQQIのウェブサイトを参照。)

■GAIN設立の背景

 GAINが設立された背景には、商業的な学業不正の国境を越えた拡大がある。

 質保証機関や教育機関は既に、学生、職員及び他のステークホルダーに対する不正リスクの周知や、各国や地域内におけるアカデミック・インテグリティの維持に取り組んでいる。また、アイルランドオーストラリアをはじめとした一部の国では、法律で学業不正やその宣伝を禁じている。(本サイト2019/1/23掲載記事2021/12/1掲載記事を参照。また、イギリスでは、2022年4月にイングランドにおける論文代行業を禁止する法律が制定された。)

 一方で、高等教育機関の学生をターゲットにした学業不正請負業者は、オンライン学習の普及に伴って近年勢いを増している。特に、大規模な業者の多くは国境を越えて活動しているため、各国・地域ごとの対応には限界がある。

 そこでGAINでは、国際連携が特に必要となる商業的な学業不正に焦点を当て、学業不正請負業者の促進及び宣伝を罰するための法律や規制アプローチ、枠組みの開発を支援するために、地域間で経験や具体的な情報が共有される。TEQSAのChief CommissionerであるPeter Coaldrake氏、及びアイルランドの高等教育・研究・イノベーション・科学大臣のSimon Harris氏は、GAINの設立を支持するとともに強固で世界的な協力関係の重要性を主張し、国際的な学業不正請負業者のビジネスモデルを壊すためには、各機関も国境を越えて協働しなければならないと述べている。

■参画機関

会員機関

 2022年12月現在、計17機関。新規会員の募集は、GAINの公式ウェブサイト内で行われている。

協賛機関

※3 欧州評議会(Council of Europe)は、1949年に設立された汎欧州の国際機関(外務省参照)。ETINEDは、欧州評議会及び欧州文化条約(European Cultural Convention)の加盟国に任命された専門家によるネットワークで、教育の透明性やインテグリティに関する情報等の共有をミッションの一つとしている。
※4 欧州高等教育圏(EHEA)の質保証機関が所属する指定ステークホルダー団体。
※5 アカデミック・インテグリティの維持・促進を目的とするNGO(非政府組織)。欧州内外の40以上の高等教育機関等が会員となっている。

参考:学業不正に関する動向

原典①:Global Academic Integrity Network(英語)
原典②:TEQSA(英語)
原典③:QQI(英語)

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