学歴の代用は可能か?代替的資格の6つの特徴と課題:OECD報告書

OECDによる代替的資格(alternative credential)に関する報告書

用語の定義や特徴などを政策立案者向けに紹介

資格に関する理解促進と教育の質保証が課題

経済協力開発機構(OECD)は、代替的資格(alternative credential)に関する世界的動向をまとめ、2020年3月10日に報告書The emergence of alternative credentialsを発表した。本書はOECD加盟国の政策立案者を支援する目的で執筆された。

著者であるKatoらは、スキル獲得への需要の増加と電子化による教育コストの低下により、教育機関に限らず企業やその他機関が提供する学習期間の短い教育がとても増えていると述べる。一方で、こうした教育で得られる資格が、学校や企業にそのまま受け入れられているわけではなく、教育の質にもばらつきがあることも指摘する。

なお、本書で言う代替的資格とは、高校卒業以上の人を主な対象とし、必要な学習量が学位などと比較して少ない教育の結果授与される資格を指す。また、QAUPDATESではこれまで代替的資格に該当する世界各国の事例を掲載してきており、本記事ではそれらも改めて紹介する。

代替的資格の定義とその種類

発表された報告書では代替的資格を次のように定義づけている。

代替的資格:alternative credential
それ単体では国の当局によって正規の教育資格とは承認されない資格

代替的資格は生涯教育を含め、あらゆる教育レベルで提供されるものだが、本書では中等教育修了以降のものに限って論じている。そして、代替的資格の種類としては以下の3種類を上げている。

修了証:certificate

まとまった学習活動の修了を認定するアカデミックな資格や、試験の合格などで得られる特定の職業/産業に専門の資格。

デジタルバッジ:digital badge

特定のスキルや知識の獲得を示すためにウェブ上で共有できる電子的なピクトグラム(絵文字)やロゴ。

例えば、コロラド州立大学では1-2週間のオンライン学習の修了者にデジタルバッジを発行している。このバッジは就職活動、オンラインポートフォリオ、ウェブサイト、SNSで示せると紹介されている。

マイクロクレデンシャル:micro-credential

アメリカでは、科目以上で学位未満の学習活動単位とされる。欧州では、5ECTS単位*以上で、資格やポートフォリオとして積み上げられる。また、ニュージーランドでは高等教育レベルの5-40単位分の学習とされる。

*ECTS単位:欧州単位互換制度(European Credit Transfer and Accumulation System)(NIAD-QE国際課まとめ)で用いられる単位で、1年間のフルタイム学習で60ECTS単位と定義される。

代替的資格の6つの特徴

報告書では、代替的資格に以下の6つの特徴を挙げる。

提供の形態:delivery mode

教育の提供形態は対面、オンライン、これらのハイブリッド型に分かれる。対面型の教育は従来から存在し、例えば大学が平日夜間や週末に開催する生涯学習講座がある。一方、オンライン型学習は最近の代表的な代替的資格教育の手法となっている。ハイブリッド型はオンライン教育と比べ学習の成果は高いが、学習者と提供者双方のコスト負担が増す。

期間:duration

数時間のコンピテンシーの確認によって専門職業に関する資格が授与される場合から、数ヶ月に及ぶ体系的な教育まで資格獲得に至る期間は幅広い(教育とコンピテンシーについてはこちらの記事(本サイト2014年10月31日掲載記事)参照)。これは代替的資格が持つ①新しいスキルの獲得と、②すでに獲得しているコンピテンシーの(就職のための)確認という2つの機能に起因すると報告書は指摘する。

また、学習の進め方も始期が決まったものから自由なものまで、期間の定めがあるものから無期のものまで多様である。

到達度の確認方法:assessment process

学習者の到達度確認は出席、課題、試験といった方法でなされている。試験には独自試験と第三者による外部試験に分けられる。また、出席や課題提出による修了で獲得した資格は生涯有効だが、試験での合格は数年間のみ有効となることが多い。

教育内容:area of focus

提供されている教育の内容は多岐にわたるが、人気の高い(登録者の多い)MOOC講座とアメリカの雇用者が求める職業資格の分野を比較すると、どちらもよく似た傾向がみられる。すなわち、テクノロジーとビジネスに最も多くの人気が集まっている。

資格の通用性:integration option

代替的資格の中には、さらに大きな(上位の)資格の獲得につながるものもある。その接続性は内包モデル、既修得学習の認定、モジュールの3種類に分けられる。

  • 内包モデル:もともと課程の一部としてデザインされており、ある資格の課程へ入学した後、代替的資格を取得することになる。
  • 既修得学習の認定:代替的資格を獲得した後、別の資格課程への入学時にその一部として認定される。
  • モジュール:高等教育機関が学位課程を分解し、その1つ1つがモジュールとして提供され、1つのモジュール修了により代替的資格が授与される。

教育提供者:provider

代替的資格の提供者は多岐にわたるが、既存の高等教育と比較すると、教育機関以外との連携と大企業などによる教育提供に特徴がある。アメリカの高等教育機関に対する調査では、代替的資格を提供している機関の2/3が企業などの他機関と連携していた。一方、大企業の中には従来から企業内研修としての教育を提供しているところも多いが、最近では一般向けの教育を提供する企業も増えている。さらに、ブリティッシュ・カウンシルや国際労働機関(ILO)など企業以外の機関による代替的資格の提供も見られる。

代替的資格は既存の学歴を代替する?

OECDの報告書は、代替的資格は現在のところ高等教育資格を「代替」するには至っておらず、既修得の学習や経験を可視化する働きに留まっていると述べる。さらに今後、代替的資格がより浸透するための課題として、提供される教育の質への懸念と、雇用者など資格受け入れ側への説明不足を指摘している。

これらに対してはすでに対応を試みる事例があり、QAUPDATESでも紹介してきている。

代替的資格の質保証

2016年にアメリカの連邦教育省は大学と非正規の教育提供者とのパートナーシップによる教育プログラムに対して、試験的に国の奨学金を支給するEQUIP(Educational Quality through Innovative Partnerships)事業を行った(本サイト2015年11月25日掲載記事)。この中で、プログラムが採択される条件として、第三者による教育の質保証の仕組みQuality Assurance Entityを用意することが求められた。

例えば、米国高等教育アクレディテーション協議会(CHEA)はDallas County Community College DistrictとStraighterLine社とのパートナーシップに参画し、教育の質のレビューとモニタリングを行った(本サイト2016年9月21日掲載記事)。CHEAは、2015年よりクオリティ・プラットフォームと名付けた新興の高等教育提供者に対する質保証を行っている(本サイト2019年10月15日掲載記事)。MOOCなど革新的な形態で教育を提供する民間企業などがその対象である。

一方、ニュージーランドでは高等教育レベルの5~40単位分の学習をマイクロクレデンシャルと呼び、2018年より正規教育の中に位置づけた(本サイト2018年9月12日掲載記事)。これに認められると、ニュージーランド資格機構(NZQA)に対して、雇用者や業界からのフィードバックをふまえた報告を毎年行わなければならない

資格受け入れ側への説明

2016年にアメリカのAccreditrust Technologies社が行った調査では、企業の人事担当者の6割以上がデジタル資格のことを知らなかった(本サイト2016年6月10日掲載記事)。この調査はOECDの報告書でデジタルバッジと呼ぶ資格のみを対象としたものだが、多くの回答者は学位や専門的な職業資格など従来の材料を雇用の決め手として挙げており、デジタル資格は今後も補完的材料に留まるとの見解を示した。

これに対し、例えばe-ラーニングでの学修の承認を扱った欧州委員会助成によるe-Valuateプロジェクトは、教育提供者に対して質保証制度の導入のほか、教育内容や課程に関する情報公開を提言している(本サイト2020年1月20日掲載記事)。これらの課題を克服することで、教育が標準化され、代替的資格もその後の進学などで承認されやすくなることを同プロジェクトは示唆している。

原典:経済協力開発機構(英語)

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